痴漢は「偶然」から誰でもハマる依存症|斉藤章佳×中村うさぎ

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【斉藤章佳×中村うさぎの「依存症対談」Vol.1】

 痴漢は性欲の問題ではなく、「依存症」――おそらく日本で初めて痴漢について専門的に書かれた本である『男が痴漢になる理由』(イーストプレス)で、痴漢加害者に対する従来のイメージを覆した、精神保健福祉士・社会福祉士で大森榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳さん。

 自身も若い頃に「買い物依存症」を患っていたエッセイストの中村うさぎさんは、斉藤さんの著書にある痴漢も依存症という考えに衝撃を受けたとともに、その根底に共通するものを感じたそう。

 そんなお二人のトークイベントが、3月上旬、下北沢の書店「B&B」で開催されました。その内容を全3回にわたってお届けします。

◆多くの痴漢が行為中、勃起をしていない

中村うさぎ(以下、中村):10代の頃、男の人が欲情したら電車の中でも女の人の体を触っていいと思うなんて、女を見下していると思っていたんです。もう全世界の男の性欲を憎んでいました。でも、斉藤先生の本を読んで、性欲の問題じゃなかったんだ! と知って、目からウロコでした。痴漢は「依存症」の問題だったんですね。

斉藤章佳(以下、斉藤):性犯罪の裁判で裁判長が最後に「異常な性欲」とか「性欲が抑えられず」といった表現をよく使いますね。ただ、当クリニックにくる1200人以上の患者さんと関わる中で、痴漢や性犯罪者の多くは性欲異常者でも精神疾患があるわけでも、特殊な生育環境で育ったわけでもなく、四大卒で妻子のあるサラリーマンという、本当にどこにでもいる属性の男性だということが明らかになりました。

世間で共有されている加害者像は、性欲がコントロールできない、モテない、オタク気質の男というイメージがありますよね。そして被害者像も、派手で露出度が高い女性が狙われやすいと思われている。でも、これって実際の臨床の現場でヒアリングしたこととすごく乖離しているんです。この偏った見方がセカンドレイプの温床になっているというのも肌で感じていたので、実際の被害者像と加害者像について伝えたいと思って本を書きました。

中村:多くの痴漢加害者が行為中に勃起をしていないということに驚きました。

斉藤:そうなんです。実は調査の結果、半数以上は勃起していないし、問題行動の後も駅のトイレで射精したりしていない。では、なぜ痴漢するのか。クリニックで一人ずつヒアリングしてみたところ、多くの患者が「ストレスでやってしまった」と答えるんです。つまり彼らはストレスへの対処行動、つまりストレスコーピングのひとつとして痴漢行為を繰り返しているんです。

中村:ストレスぐらいでやるなよ!って感じですね。

◆日本で痴漢を覚える外国人が増えている

斉藤:ですよね。さらにこんな特徴もあります。痴漢行為は本能による衝動的な性欲に突き動かされた行動というよりも、“学習された行動”なんです。実は最近、日本で外国人の痴漢が増えているんですが、みんな母国で性犯罪歴がないエリート層ばかり。日本に来て初めて痴漢を覚えたんです。

中村:ひどい話ですね。

斉藤:最初、私も偏見ではありますが、痴漢をするきっかけはアダルトサイトの影響が大きいと思っていたんです。でもこのエピソードを聞いてピンときました。性的な逸脱行動、性暴力、痴漢行為は学習された行動なのだと。それで患者さんにヒアリングしていくと、多くの人が満員電車などの中で「たまたま触れてしまった」ことがきっかけだというんです。その時に、まるで電流が走ったような衝撃、快感を覚えたと。その時に捕まらないと、その感触が忘れられずまた次もやろう、となる。感覚としては、ギャンブルのビギナーズラックに近い現象が脳内で起こっているといえます。