米中関係に歴史的な変化が起きている。ドナルド・トランプ大統領と習近平主席という、両国の歴代の首脳のなかでもきわめて特殊な指導者が率いる世界第1と第2の大国が、正面からぶつかり合う局面が多くなったのだ。両国が対峙するのは、政治、軍事、経済、そして基本的な価値観まで広範な領域に及ぶ。

 この現状について、米国歴代政権の国務省や中央情報局(CIA)、国家情報会議などで中国政策を30年以上担当したロバート・サター氏(現ジョージ・ワシントン大学教授)に尋ねてみた。

ロバート・サター氏。ハーバード大学での中国研究などで博士号取得、1968年から2001年まで米国政府の中央情報局(CIA)、国務省、国家安全保障会議、国家情報会議などで中国政策を担当した。その後はジョージタウン大学教授を経て、ジョージ・ワシントン大学教授となる。(出所:ジョージ・ワシントン大学)


 3月中旬、ワシントンでインタビューに応じたサター氏は、トランプ政権と米国議会が足並みを揃え、中国との協調を基本とするこれまでの関与政策を中止して対中対決政策へと踏み出したことを指摘する。この新政策では、日本との連帯への期待も大きいという。

 米中関係が歴史的な変革を迎えた――サター氏の見解を総括すれば、こんな結論といえるだろう。

 同氏との一問一答の骨子は次のとおりである。

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米国主導の国際秩序に挑戦する中国

――米国の中国に対する態度は現在どういう状態なのですか。

ロバート・サター氏「米国の対中政策は歴史的とも呼べる大きな過渡期に入り、変革を迎えました。米中国交樹立以来、米国の歴代政権は『中国との協力分野を増やしていけば、中国は米国に利益をもたらすようになる』という前提に基づく関与政策をとってきました。それがここへきて、関与政策がむしろ米国に害を与えることが明白となったからです。

 トランプ政権が最近公表した国家安全保障戦略や国家防衛戦略も、これまでの姿勢を変え、中国を競合相手、修正主義と断じました。中国の国のあり方が米国の価値観に反するとまで明言して、対中政策の中心に対決や警戒を据え始めたのです。米国が政府レベルでこうした厳しい言葉を中国に対して使うことはこれまでありませんでした」

――米国の態度を根本から変えさせた原因はなんでしょうか。

「中国の戦略的な動向や意図の本質が明確になったことです。今回の全国人民代表大会(全人代)でも明らかになったように、中国共産党は、まずアジア太平洋全域で勢力を強め、他国に追従を強いて、米国をアジアから後退させようと意図しています。『中国の夢』というのはグローバルな野望なのです。米国主導の国際秩序に挑戦して、米国の弱体化を図る。中国政府は軍事、経済、政治などあらゆる面で米国を敵視して攻勢をかけています」

──米国側は中国のそうした実態をいまになって分かったというのでしょうか。

「いいえ、米国の国益をすべての面で損なう中国の挑戦が明白になったのはこの1年半ぐらいだといえます。南シナ海での軍事膨張、貿易面での不公正慣行、国際経済開発での中国モデルの推進、国内での独裁の強化など、すべて米国の政策や価値観への挑戦です。私自身は、2009年ごろから中国のこの基本戦略は認識していました。しかしオバマ政権下では、中国との協調こそが米国を利するという政策が相変わらず主体でした」

重要度が高まる日米同盟

――中国の対外戦略の基本は米国敵視だということですか。

「基本はそうだといえます。だが、米国が強く反発すると、中国は攻勢を抑制します。その一方で、最近の習近平主席はロシアのプーチン大統領と緊密に連携し、米国の力を侵食する手段を画策しています。その連携には軍事面も含まれます。

『一帯一路』も中国が企むパワー誇示の一環だといえます。実体のないインフラ建設計画を、いかにも巨大な実効策のように宣伝する。中国政府による対外的な情報戦争であり、プロパガンダなのです」

――では、米国はこれから中国にどう対峙していくのでしょうか。

「米国は総合的な国力を強めて中国を押し返さなければならないでしょう。トランプ政権はそのための措置をすでに取り始めています。米国が本気で押し返せば、中国も慎重になります。そうした強固で新たな対中政策を推進する際は、日米同盟への依存度を高めることになるでしょう。日本の安倍晋三首相は中国の本質をみる点で優れていると思います。トランプ大統領も対中政策の大きな部分を安倍氏から学んでいます。

 中国の膨張戦略は、多分に米国が弱くなってきたという認識から発しています。オバマ前政権は中国の膨張を正面から止めようとはしませんでした。中国はそれをよいことにさらに膨張を続けたのです。しかし米国は中国側の認識や真の意図が分かり、中国には対決も辞さずに強硬に立ち向かわねばならないという思考が強くなったのです。この思考はトランプ政権だけでなく議会でも超党派の支持があります」

筆者:古森 義久