デジタルトランスフォーメーションは、どのようにして進めていくべきか。


 前回は、デジタルトランスフォーメーションを実現するために、「課題の実感」「トレンドの風を読む」「試行錯誤」の3つの原則を紹介しました。

 それでは、その3つの原則を踏まえた上で、「戦略」「作戦」「戦術」の3つのステップを進めていきましょう。

デジタルトランスフォーメーションを味方にするための3つの原則と3つのステップ


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ステップ1「戦略(Strategy)」

【目指すべきゴール、すなわち「あるべき姿」を明らかにし、それを実現するためのシナリオである「ビジネスモデル」を描く取り組み】

あるべき姿を明確にする

 手段を使うことが目的ではありません。現場の課題を解決しビジネスを成功させることが目的です。そのためには、「成功したときの状態」=「あるべき姿」を具体的に描き、それを実現することに取り組まなければなりません。

「あるべき姿」とは、

・結果としてどうなっていたいのか
・これができたら「成功」と言い切れる姿
・理想のゴール

を表現したものです。これを明確にすることが最初の一歩です。例えば、

・この分野では業界トップの地位を確保したい
・顧客満足度ナンバーワンの評価で顧客をとりこにしたい
・「一時的な売上の積み上げ」から「長期継続的な収益の積み上げ」に事業転換を図りたい

 どうやって実現するかではなく、結果として「どうなっていたい」の具体化が最初です。

 このとき、「とても今の自分たちにはできそうにない」などといった「現実」は一旦棚上げしてください。「現実」を考えはじめると、それらが足かせとなり、大胆な発想はできなくなってしまいます。

「どうなっていたいのか=結果」を純粋に追求することです。「現実」にはやがて向き合うことになりますが、まずはこの段階では理想を求めることが大切です。

ビジネスモデルと実現のシナリオを描く

 次に、この「あるべき姿」を実現するためのビジネスモデルやそこに至るシナリオを、最新テクノロジーを活かして大胆な発想で考えてゆくといいでしょう。例えば、

・これまではコストがかかりすぎてとても考えられなかった 
・高度な熟練が必要で人間にしかできなかった 
・業務の連携や人のつながりが簡単には作れなかった など

 かつての非常識は、今では常識になっていることも少なくありません。「そんなことはできるはずはない」といった思い込みをしないで、テクノロジーのトレンドやデジタルビジネスの事例を丁寧に調べ、新しい常識で可能性を探ることです。

 例えば、商品を買ってくれたお客様がどのような使い方をしているのかを知るためには、かつては登録されている顧客情報を頼りにアンケートをお願いするか、調査会社に調査を依頼するしか方法がありませんでした。そのため、そういう調査に協力的な一部のサンプルからしかデータを集めることができず、不完全なデータから推測することしかできませんでした。

 しかし、センサーや通信装置が小型・高性能化して単価も劇的に安くなったこと、さらには誰もがスマートフォンを持ち歩くようになったことで、状況は一変しました。

 商品に予めセンサーや通信機能を組み込んでおき、スマートフォンと連携して商品の付加価値を高めるサービスを提供します。そのサービスは使いたい、あるいは使わないと損だと思わせるような、魅力的なものでなくてはなりません。そうしておけば、お客様の利用状況がリアルタイムで、しかも完全に把握することができます。

 また、何らかのオンラインサービスを提供するに当たり、利用者一人ひとりの使い方や趣味嗜好を捉え、それに合わせてメニューを変えてサービスの魅力を高めたい、あるいは、適切なオプションサービスを提案して収益を増やしたいとしましょう。そのためには、高度な分析機能やその結果の解釈、それに基づく推奨機能などを組み込む必要があります。

 それには高額なパッケージソフトウエアを購入し、専門のエンジニアを雇わなくてはなりませんし、そんな仕組みを自ら開発しなければなりませんでした。これにはなかなかの覚悟が必要です。

 しかし、今ではこのようなことをやってくれるオープンソースソフトウエアやクラウドサービスがあります。しかも使った分だけ支払う従量課金型のサービスですから、先行投資リスクもありません。これをお客様のサービスに組み込むこともできる時代になりました。

 もちろん、それを使いこなすスキルは必要ですが、技術的な難しさは軽減され、業務のプロフェッショナルであってもなくても、ちょっと勉強すれば使えるようなサービスも登場しています。

 こんなことは、数年前までは非常識なことだったかもしれませんが、今では十分に実現可能となっています。

オープンイノベーションに取り組む

 このような情報はネットや書籍で調べることもできますが、ベンチャー企業や大学などとの共同研究、優れた技術やアイデアを集めるイベントの開催やコミュニティーへの参加など、感度を高く最新の事情に触れ、知恵や知識を持つ人たちとつながっておく取り組みも効果的です。

 自社だけの成果として囲い込むのではなく、それぞれに知恵を出し合い、全体として成果を共有するための取り組みを通じて、ビジネスのスピードを加速することが大切です。

 事実、IoTやFinTech、人工知能などの新しい分野では、大企業とベンチャー企業、大学などが一緒になってコンソーシアムを立ち上げる例が増えています。

ステップ2「作戦(Operation)」

【この戦略を実現するための一つひとつのプロジェクトである「ビジネスプロセス」を組み立てる取り組み】

 次の段階として、どのような手順で、どのような手続きを行い、どのようなやり方で結果を出すか。そんなビジネスプロセスや業務手順を明確にして、それを実現するために最良の手立てを考えていきます。

 ここでもITの可能性を追求することです。例えば、

・スマートフォンで写真を撮れば自動的に報告書のひな形が作成され、進捗の予実についても自動的にアップデートされる
・機械の操作を音声の指示だけで行い、関係者への連絡や通知も音声だけで行い、必要とあればそれを文章にもしてくれる
・データを入力すれば、そのデータの内容を分析し、自動的に最適な図表を作成してくれる

 これらのことは既に実現可能です。このようなITのできることを前提に仕組みを作れば、仕事の効率や精度を飛躍的に高めることができるはずです。

ステップ3「戦術(Tactics)」

【そのプロジェクトを遂行するための手段や道具である「使い勝手や見栄え」を作り込む取り組み】

 次は道具としてのITを極めることです。例えば、

・どのタブレット端末が、コストパフォーマンスが高いか
・どのパッケージソフトウエアが最適か
・どの開発ツールを使えば、開発の生産性を高められるか など

 これから行おうとしている「作戦」にふさわしい手段として、最適なものはどれか、また、それを使えるようにするための手順や使いこなすためのスキルを、どのように身につければいいのか考えていきます。

 注意すべきは、実績や経験にこだわり新しいことを躊躇することです。ITの進化は日々常識を塗り替えています。その前提に立ち、その時々の新しい常識で選択肢を模索しなければ、成果も制約されてしまいます。だからこそ、事業に責任を持つ人たちが、ITの可能性と限界を正しく理解し、試行錯誤での取り組みを許容する態度を持たなくてはなりません。

 そんな文化を築いていくことも、デジタルトランスフォーメーションを実現するには必要な態度です。

筆者:斎藤 昌義