3月27日、証人喚問に応じる佐川宣寿氏(写真:ロイター/Toru Hanai)

結果は「野党の完敗」といっていいだろう。3月9日に国税庁長官を辞した時、佐川宣寿氏はいわば「霞が関を追われた身」だった。「3カ月の減給20%」の処分を下した財務省は、佐川氏を守ってはくれなかった。ということは、洗いざらい話すのではないか…野党サイドはそんな淡い期待を持っていたのだが、佐川氏は官邸を守ることによって、自らの古巣をも守ったといえる。

憲政史上の汚点ともいえる「誘導質問」

しかも、3月27日に衆参両院で開かれた証人喚問は、日本の憲政史上に汚点を残したともいえるひどいものだった。まずは自民党の「誘導質問」だ。トップバッターをつとめた丸川珠代参議院議員はたたみかけるように、公文書改ざんについての質問でこのように尋ねている。


「この書き換えを誰が指示したのかというのは、国民の非常に大きな関心の的でございます。理財局の内部で書き換えが行われたということでございますが、改めて確認をいたします。佐川さん、あるいは理財局に対して安倍総理からの指示はありませんでしたね」


このように念を押したかのような言い方は、昭恵夫人に関する質問でも重ねて行われている。
「念のために伺いますが、安倍総理夫人からの指示もありませんでしたね」
。しかしこれ以降、丸川氏は菅義偉官房長官以下についても「関与」を尋ねているが、このような“誘導的な”尋ね方をしていない。安倍晋三首相・昭恵夫人は「特別」である証拠だろう。

丸川氏の質問に対する佐川氏の答弁も奇妙だ。書き換えに際して昭恵夫人の名前を削除した理由について尋ねられた時には答弁を拒否したものの、なぜか国有地貸付に昭恵夫人の影響がないと断言した。

そしてこれを受けた丸川氏は「少なくとも今回の書き換え、そして森友学園に国有地の貸し付け並びに売り払いの取引について、総理、総理夫人、官邸の関与はなかったということは、証言を得られました」と確認するように述べている。これは丸川氏が「課せられた役割を無事に果たした」という宣言だったのか。

それにしても、些細な事項に関する質問に対してでさえ、佐川氏は「答弁拒否」を繰り返し、頑なな態度を崩さなかった。昭恵夫人の名前を見た時期ですら答えず、補佐人が与党関係者と連絡をとっていたか否かについても、「刑事訴追を受ける可能性がある」と答弁を拒否した。これでは証人喚問を行った意味がない。
 

証人喚問で明らかになったことの中にも、細かな矛盾は数多い。たとえば佐川氏は昨年、理財局長として国会で答弁に立つ際に、森友学園問題について「勉強した」と述べている。だが、連日の野党の相次ぐ質問に備えて「勉強した」とするなら、契約締結時に理財局長だった迫田英典氏に話を聞かなかったのは不自然だ。迫田氏は佐川氏の前任者で、共に1982年旧大蔵省入省の同期。よほど仲たがいしていない限りは、容易に連絡を付けられる相手のはずだ。


細かく矛盾を突く戦法もあったはずだが…

もっとも証人喚問で真実が明らかにされなかったのには、野党にも責任がある。佐川氏のこれまでの答弁を細かく調査してその矛盾を突けば、なんらかの成果が出たかもしれない。今回の証人喚問では、そのような丁寧さを欠いていた。


たとえば民進党の小川敏夫参議院議員だ。元検事の小川氏はその鋭い追及力で「国会の鬼検事」との異名を持ち、疑惑追及ではエース級と言われている。ところが今回は、いまいち切れが悪かった。佐川氏の答弁に関して官邸と協議があったのではないかと追及したが、いとも簡単に佐川氏にかわされている。

また籠池泰典元森友学園理事長からの依頼を受けて“昭恵夫人付き”だった谷査恵子氏が田村嘉啓国有財産審理室長(当時)に問い合わせた件について、小川氏は谷氏からのなんらかの「関与」を引き出そうとしたが、佐川氏は「田村氏は谷氏から電話を受けたのみで、谷氏が籠池氏に送ったファックスには実務的な間違いがある」と答弁。籠池夫妻が田村氏と面会した時に録音したテープの内容についても、佐川氏は逃げ切った。

共産党の小池晃参議院議員にも、証言拒否で乗り切っている。そもそも佐川氏にとって、もっとも手ごわい相手は共産党だろう。証人喚問の「前夜祭」とも言える前日の参議院予算委員会では、若手のホープである辰巳孝太郎参議院議員が質問に立った。午後の証人喚問では宮本岳志衆議院議員が立つ予定だった。そして午前の小池氏の質問は、そのクライマックスだったといえる。

だが小池氏の持ち時間はわずか12分で、核心への追及には少なすぎた。質疑は2度にわたって中断され、佐川氏は「訴追の恐れがある」として逃げ切った。

時間が少なすぎたのは、小池氏以外の質問者も同じだ。日本維新の会の浅田均参議院議員は10分、希望の会の森ゆうこ参議院議員、立憲民主党の福山哲郎参議院議員、無所属クラブの薬師寺みちよ参議院議員の持ち時間に至ってはそれぞれ6分に過ぎなかった。

午後の衆議院で行われた証人喚問でも、佐川氏の“逃げ切り戦法”は変わらなかった。しかし安倍首相と昭恵夫人の関与については明確に否定。近畿財務局の職員の自殺についても、「亡くなった経緯について一切承知していない」と断言した。

答弁拒否の権利が濫用されていないか

野党が佐川氏に対して「決め手」となる材料を持っていなかった点も、佐川氏を逃がしてしまった原因のひとつだろう。さらに日本維新の党を除く野党は森友学園問題についてチームを結成し、合同でヒアリングを重ねてきたゆえ、質問方法や時間についてうまく連携すれば、もっと効率的に行えたのではないかとも思われる。証人喚問を終えた今なお、胸の中のモヤモヤ感が依然として消えない国民が多いのではないか。


(写真:ロイター/Toru Hanai)

そもそも証人喚問は憲法が衆参両院に保障した国政調査権のひとつでもある。その証人は議院証言法に基づき、自己または一定の範囲の親族、後見人などが刑事訴追を受け、または有罪判決を受けるおそれのある場合は、宣誓、証言あるいは書類の提出を拒むことができるが、その一方で、正当な理由なく証言を拒んだ場合、1年以下の禁錮または10万円以下の罰金に処されうる。

4時間余りの証人喚問の中で50回以上もの答弁拒否の全てが違法とはいえないだろうが、その権利が濫用されたのなら民主主義に反するものに他ならない。