単に「頑張れ!」と言われるだけでは、やる気になることは難しい(写真:phototechno/iStock)

まもなく新年度。職場に新人が入ってきたり、OJTなどで若い人たちと仕事をする機会が増える時期です。若い人たちのパフォーマンスを引き出すには単に「頑張れ!」と声がけするだけではなかなか相手の心に火をつけるのは難しいものです。相手の感情に寄り添い、力を引き出す声がけのコツをご紹介します。

励ましにはテクニックがある

私は外資系コンサルティング会社に勤務していた時に、外国人エグゼクティブのスピーチを聞く機会が多かったのですが、日本人エグゼクティブのスピーチと比べると前向きな表現が多く、力強さを感じた記憶があります。またスピーチだけでなく、外国人のスポーツインストラクターやコーチの方も非常に選手や生徒をのせるのがうまいというイメージがないでしょうか?


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ある時、スピーチコンサルタントの方に聞いたところ、アメリカでは「ペップトーク」と呼ばれる励ます技術が確立しているとのことでした。ペップとは「元気・活気・やる気」という意味の英語で、ペップトークとはスポーツの試合前に監督やコーチが緊張している選手たちの心を奮い立たせるための言葉がけのことです。

このことを知って以来、自分なりに研究し、自分のスピーチで実践したところ、それまでに比べて相手の方に言葉が染み入るようになってきたと実感。プレゼンテーション研修などでもテクニックを紹介したところ、受講者の方から効果があったという声をたくさんいただきました。

単に「頑張れ!」と言われるだけでは、やる気になることは難しいのは皆さんも実感されているのではないでしょうか。自分では励ましているつもりなのに、場合によっては、相手の心が離れてしまうこともあるかもしれません。特に立場や年齢が離れている場合には、単に激励の言葉を並べるだけでは、「人の気も知らないで……」となってしまいがち。むしろプレッシャーに感じてしまい、相手の緊張感を高めて逆効果になることもあるでしょう。

激励の言葉をきちんと相手に届けるためには、その前に相手に寄り添い、この人に理解してもらえたと思ってもらうことも必要です。では、どのように効果的に励ますのか、4つのステップをご紹介します。

相手の心に火をつける4つのステップ

まず1つ目のステップは「受容」です。ここでは相手が置かれている事実や状況をしっかりと受け止めます。よくやってしまいがちなのは、相手が緊張したり、落ち込んでいるのに、「リラックスしろ」「もっと元気を出そう!」など、相手の置かれている状況を否定してしまうことです。実際に自分がこの言葉をかけられても、あまりやる気が出るとは思えませんが、つい人には言ってしまいがちですね。

こういう場合にはまずは相手の感情や置かれている状況を理解していることを示さないと本気で励ましているつもりでも逆効果になります。相手の心が不安な感情でいっぱいのときにいくら前向きな言葉をかけても入る余地がないからです。まずは相手の気持ちをいったん酌み取って、励ましの言葉が入る余地をつくるのです。よい例と悪い例で比較してみましょう。

例1:大事なプレゼンテーションを控えている相手に
NG:リラックスしよう! 不安になってもしょうがないだろ
OK: こんな大事なプレゼンなんだから緊張して当たり前だよ
OK: 私も以前はものすごく緊張したからその気持ちが想像できるよ
例2:取引先を怒らせ、不安になっている相手に
NG:もっと元気出そう!
OK: 私も以前すごくつらかったからその気持ちわかるよ
OK: こういう状況では不安になるよね。当然だよ
例3:社長やリーダーが、業績低迷で不安になっている社員に対して
NG:わが社は絶対に大丈夫だ!
OK:今われわれの業績は前年比マイナス20%と厳しい状況に置かれています
OK:今、われわれの競合にとって圧倒的に有利な状況だと言われています

相手が「この人はわかってくれている」と思ったら次の「承認」のステップです。ここでは受容した感情をポジティブにとらえ直してプラスの感情に変えていきます。逆境と思われる状況でも逆転の発想でとらえ方を変えるのです。

例1:大事なプレゼンテーションを控えている相手に対して
→緊張しているのはこれまでしっかりと準備をしてきた証拠
例2:不安になっている相手に
→不安だったり心配になるのはそれだけ相手のことを大切に思っているから
例3:社長やリーダーが、業績低迷で不安になっている社員に対して
→この問題を乗り越えれば大きな成長につながる。つまりこれはチャンスだ

こんなふうに、マイナスの状況をプラスの状況に置き換えることができる人は、場の空気をうまく変えることができます。「忙しくて時間がない」→「だからこそ、仕事の効率化のチャンス」などプラスの置き換えを日頃から考えるようにしておくと、とっさのときにも出てきやすくなります。

相手にやってもらいたいことを伝える

相手が自分の置かれている状況をプラスになりうる状況だと認識できたら、いよいよ相手にやってもらいたいことを伝える「行動」のステップです。

ここで注意すべきなのはネガティブな表現を使わないことです。心配のあまり「××するな」という表現を使ってしまいがちですが、ネガティブな言葉は相手の頭の中にそのイメージを作り出します。「するな」という打ち消しの言葉よりもイメージが浮かんでしまうのです。ここでもNG例とOK例を挙げてみましょう。

NG:ミスしないようにね
OK:言葉の細部に意識を向けてね
NG:焦っちゃダメだよ
OK:落ち着いて相手の言葉をよく聞こうね
NG:あきらめてはいけない
OK:最後まで笑顔でしっかりとやり遂げよう

こう並べてみると、ミス、焦る、あきらめる……などネガティブな言葉は悪いイメージが頭に浮かびやすいのが実感できるのではないでしょうか。言われた方は、そのイメージにとらわれ、かえって緊張や不安が増してしまうかもしれません。それよりも、相手にとってもらいたい具体的な行動をポジティブな表現で伝えたほうがいざというときにその言葉が浮かんできます。

ただし、同じポジティブな言葉でも、結果を強く意識させる言葉は逆効果になります。たとえば、「絶対に売り上げ目標を達成しろ!」「必ず契約をとってこい」「試験に絶対に受かれ」……と言われたら、どう感じるでしょうか? ポジティブな表現でも結果を強く意識させる言葉は、プレッシャーに感じますね。

上述のOK例の声がけは、望ましい結果を出すためにやってほしい行動を伝えています。このほうが、相手は具体的に何に集中すればよいのかがわかり、やってみよう、それならできる……という感覚を持ちやすいのです。

最後は、いよいよ背中を押す「激励」のステップです。ここでは相手が言ってほしい言葉をかけることが重要です。気合いを入れてほしいのか、自信を与えてほしいのか、寄り添ってほしいのか、安心感を与えてほしいのか……相手が何を望んでいるのかを見極めるのです。

例:気合いを入れてほしい、奮い立たせてほしいと思っている相手には
「大丈夫、君ならできるよ」「あの努力は誰にもまねできない」「思い切って力を出し切ろう」「私たち以外にこの問題を解決できるチームはいない」「今、すごくいい風が吹いてきている。思い切りのっていこう」
例:安心感を与えてほしい、自信を持たせてほしいと思っている相手には
「いつでもサポートするから」「何かあったらすぐに助けるよ」「みんな君の味方だ」「いつもどおりで十分だよ」

自分自身の自己肯定感を高めることもできる

人は、それぞれ言ってほしい言葉があります。状況によってもかけてほしい言葉は変わってきます。誰に対しても「頑張れ!」の一点張りではなく、背中を押す一言を考えてみましょう。


この4つのステップで考えると、相手の気持ちや状況を認め、プラスに転換し、集中すべきことに心を向け、背中を押す声がけができ、結果的に相手の自己肯定感を高めることにつながります。そして、この声がけは自分自身や子どもに対しても有効です。

日本人は自己肯定感が低いという調査結果をよく耳にしますが、自己肯定感が低い状態では当然ながら困難な状況に立ち向かうのは難しいと言えます。ビジネス環境が激しく変化する時代、いいことばかりではありませんが、そんなときこそ、このペップトークの4つのステップで周囲や自分に声がけしてみましょう。マイナスの状況をプラスに変換する励ましができれば、いま抱えているさなざまな問題を乗り越えていく活力が生まれてくるでしょう。