佐川宣寿氏(写真:AP/アフロ)

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 森友学園への国有地売却に関する決裁文書改ざん問題をめぐり、当時財務省理財局長だった佐川宣寿前国税庁長官に対する証人喚問が27日、行われた。佐川氏は改ざんの経緯などについて一貫して証言を拒否し、真相は解明されなかった。これまで1年にわたり森友・加計問題がくすぶり続け、自民党内でも来年の統一地方選挙や参議院選挙への影響を懸念する声が上がっているという。今後の政局はどう動くのか。政治ジャーナリストの朝霞唯夫氏に話を聞いた。

――佐川氏の証人喚問に対する永田町の反応は?

朝霞唯夫(以下、朝霞) 野党は、森友学園問題に関する多くの事案は、佐川氏の前任の理財局長だった迫田英典氏(元国税庁長官)の在任期間に起こったことで、迫田氏や安倍晋三首相夫人の昭恵氏に加え、夫人付職員だった谷査恵子氏らを証人喚問しないと全容がわからないという姿勢です。一方、自民党は首相官邸の関与を否定し、これで幕引きを図りたい意向です。今でも自民党の小泉進次郎議員や石破茂議員は、「これは議員と国民が騙されている話だから、最後まで真相追究すべき」という意見です。佐川氏の証人喚問で幕引きにすれば、国民のフラストレーションは高まり、確実に内閣支持率は下がります。

 今の野党の反応を見る限り、最低でも迫田氏と谷氏の証人喚問を行わないと収まらないでしょう。昭恵氏をかばうわけではありませんが、昭恵氏の背後でいろいろとやっていたのは谷氏ですから、谷氏が時系列で詳細に説明しないと今後の国会運営はうまくいきません。

 一方、佐川氏は今後、書類送検で終わるのか逮捕までいくのかは不透明です。決裁文書改ざんをスクープしたのは朝日新聞ですが、情報源は大阪地検、しかも上層部だとみられています。森友前理事長の籠池泰典被告の拘留は約8カ月に及んでいますが、その理由は、大阪地検が実はいまだに全容解明ができていないからではないか、ともいわれています。ただの詐欺事件であれば昨年内で立件して終わる話ですが、籠池被告の証言には裏が取れていないものも多いという話もあります。大阪地検としては、決裁文書改ざんを端緒にして、全容解明に全力を尽くしているのでしょう。

 問題となっている土地は特例として森友に貸し付けられ、その後売却となり、地中からゴミが出たということで多額の値引きが行われるという、おかしな経緯をたどっています。小泉議員が指摘するように、国会議員全員が一丸となって調べることが求められていますが、ただ自民党が安倍首相を守るためだけに汲々とするならば早晩、支持率は下がり内閣はもたなくなります。

●自民党内、急速な安倍離れ

――自民党の地方県連が最近、安倍首相に対する批判の声を強めているようです。

朝霞 数日前に複数の自民党議員に話を聞いたところ、「この問題を逃げ切ろう。しかし、自民党は安泰ではない。これから通常国会が閉幕して、安倍さんは次の自民党総裁選には出ないのではないか。いずれにしても、不出馬を表明してもらわないと困る」と言っていました。その理由は、来年の統一地方選挙や参議院選挙を“安倍総裁”では戦えないからだといいます。25日の自民党大会に参加した地方県連のなかからも、「安倍総裁では難しい」という声が多く上がっています。

 まだ政党支持率はマスコミ各社の世論調査では35%程度確保されていますが、世論調査を見ながら政局は動きます。実は、自民党も独自に世論調査していますが、あと5ポイント下がれば、より流動的になります。

 安倍首相は党大会で憲法改正を訴えましたが、地方県連はしらけていました。県連にとってみれば憲法改正は絵空事の話なので、来年の選挙で敗北するよりも、自民党総裁を辞任して幕引きを図ってほしいというのが地方県連の願いです。安倍首相の4月辞任説は私のかねてからの持論ですが、安倍首相はまだ粘ろうという意向も持っています。やはり、妻の昭恵氏がからんでいる問題で辞任したくないという気持ちがあるようです。辞任するにしても、綺麗なかたちで引き際を鮮やかにしたいのでしょう。

――次の総裁候補では、石破氏が有力です。

朝霞 平時では岸田文雄政調会長が有力でしたが、来年の選挙を迎えるなかで、岸田氏待望論が党内でわき起こってこない。そして、岸田氏は安倍首相の禅譲を狙いつつ、一方で麻生太郎財務相に近づき、首相の椅子を狙ったことで安倍首相の逆鱗に触れました。先週発売の「フライデー」(講談社)に岸田氏と暴力団関係者のツーショット写真が掲載されていましたが、官邸のリークという話がもっぱらです。安倍首相は「岸田には次の首相の椅子を渡さない」という意向のようです。

 安倍首相が退任すれば、自分と反目していても憲法改正論者であり、人気のある石破氏しかいないと考える議員が自民党内にはいます。安倍首相の出身派閥である清和会は、安倍首相を支える方向に変化はありませんが、ただ、いろんな思惑で各派閥が調整する動きに走っており、党内は“なんとしても安倍首相を支える”という空気ではありません。

 これからは地方の声、世論調査の動向を見つつ、各派閥が国会の流れも合わせ、様子見の期間が続くか、動きが速まるのか、今後永田町の動きに注目です。“安倍やめろ”という発言は出ないでしょうけれど、安倍首相も党内世論には敏感なので、晩節を汚したくないという思いで引き際はしっかり考えるでしょう。

●地方の怒り

――地方からは、憲法改正よりも地方創生をしっかりやってほしいと言う声が強いようです。

朝霞 今、地方創生はほったらかしです。石破氏は次の総裁選に出馬しますが、すでに政治家を引退した青木幹雄氏が牛耳る竹下派(平成研究会)、そして二階派と連携する根底には、巨大派閥「大経世会復活」構想もありますが、地方創生を重要視しなければならないという考えがあります。それが、安倍批判につながっています。また、石破氏は日頃から地方を熱心に回っており、党内にも「国民から人気が高いのは石破氏」という声が強いです。

 安倍首相夫妻の問題である森友・加計問題に加えて憲法改正が優先され、地方政策はおざなりにされたままです。たとえば、4月に「主要農作物種子法(通称:種子法)」が廃止されますが、これはろくに審議もされないまま国会で可決されたものです。

 これまで、地域性に伴った優良な種子が農家に行きわたるようにするため、農業試験場の運営にかかる費用など、必要な予算は国が責任を持って調達することになっていました。これが廃止されることに、地方はカンカンです。「これでは日本の農業は守れない」ということで、地方は本気で安倍首相に対して怒りを持っています。なんとか地方の窮状を救おうという人物が総裁にならなければ、自民党は地方から認めてもらえないでしょう。

――“地方の乱”がこれから起きる可能性はあるのでしょうか。

朝霞 これまでも東北では、自民党候補者にノーを突きつけた歴史があります。まだ全国的には「野党に任せたらダメだ」という意識が残っていますが、それも弱まってくるかもしれません。「東京五輪後の日本はまずい」という危機感を、国民は薄々感じ始めています。
(構成=長井雄一朗/ライター)