「Getty Images」より

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 元国税局職員、さんきゅう倉田です。女性とのデートで最後にするのは「否認」です。

 税金界には、「行為計算の否認」という言葉があります。同族会社の行為や計算が、関係者の所得税を不当に減少させたときは、税務署が所得の決定をすることができるというものです。

 よくあるのは、同族会社の社長が自分の土地を同族会社に貸して、そのときの賃貸料を低くするものです。高くするとお金はたくさん入ってきますが、自分の会社からお金が出ていくだけですし、自分の所得税が増えてしまいます。社長ならば、所得税率は45%かもしれません。そうなると、20%程度の法人税である法人の経費が増えるより、自分の所得が増えないほうが、税負担としては良いわけです。

 このように、同族会社では、社長と会社がほぼほぼ同一の人格となり得るため、恣意的な価格設定を行えないように、行為計算の否認の制度があります。同族会社以外の法人とのバランスを調整するためです。多くは、不動産の賃借料で争われるようです。今回はその一例を紹介します。

 同族会社とは何かを正確に説明すると難解なので、役員が社長一人しかいないような小さな会社と認識してください。役員がたくさんいても、それらが社長の家族なら同族会社です。

●会社を利用して税金を低く抑えた代表者

 むかしむかしあるところに、不動産の管理を行うAという同族会社がありました。A社の代表取締役で、個人では不動産貸付業を営むBさんは、A社に土地を月額240万円で貸し付けていました。これだけでお金持ちです。しかし、A社はその土地を510万円でC社に賃貸していました。A社は差額で大儲けです。Bさんは、代表取締役としての役員報酬以外に不動産収入が発生するので、所得税の確定申告をしました。

 提出された確定申告書を見た税務署は、240万円の賃料は安いのではないかと異を唱えました。「行為計算の否認」をしようとしたのです。Bさんの所得を減らすために、安い賃料で契約しているのではないかと考えたわけです。税務署は、Bさんの土地の近隣において、類似の条件で土地を貸し付けている人たちの平均賃料を持ち出し、340万円くらいが適当な賃料だと主張しました。Bさんの設定した賃料には具体的な根拠がなく、A社がC社から受け取る賃料の半分くらいに設定してありました。

 Bさんから直接C社に賃貸すると、Bさんの所得が増えて所得税の負担も増えてしまいます。A社は法人なので、その所得に対する税率はBさんより低くなるものと思われます。そこで、Bさんの所得を圧縮するために、このような行為をしていると税務署は見たわけです。

 所得税法第157条には、通常の経済人の行為として不合理、不自然であり、同族会社だからこそなし得た行為又は計算を選択した場合において、同族会社だけが利益を操作できるような特別な場合は、実質課税の原則や租税負担公平の原則から、通常の行為や計算で税額を算定するといったことが書いてあります。

 そして、所得税の負担を不当に減少させる結果となるような、同族会社の行為又は計算に基づいて算出された所得税と、通常の行為と計算による所得税との乖離がある場合に行為計算の否認が行われます。BさんとA社との契約は、同業他社の価格に比べて低いことが調査によって判明しています。著しく低額であることが明らかである以上、A社とBさんが同族会社と代表取締役という関係でなければできないもので、客観的にみて経済的に合理性を欠く不自然、不合理な契約です。

 Bさんは税務署の更正処分によって、自ら行った確定申告の税額より多い税金を払うことになりました。社長だからといって、自分の会社を利用して納税額を減らそうとしても、がちがちに固められた税法の前に、素人の工夫では太刀打ちできないという事例です。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)