[写真]「もぐもぐタイム」が話題になった平昌五輪のカーリング女子(長田洋平/アフロスポーツ)

写真拡大 (全3枚)

 平昌五輪カーリング女子日本代表の「もぐもぐタイム」で注目を集めた韓国産イチゴをきっかけに、農作物の海外流出の問題がクローズアップされた。韓国でつくられたイチゴの多くが日本から流出した品種が基になっているからだ。日本の品種が海外で無断に栽培された例はブドウなど他の農作物でもある。

 こうした農作物の知的財産の保護がいま課題になっている。危機感を感じた開発者の中には海外での品種登録に取り組む動きがあり、農林水産省もそれを後押しする。

韓国イチゴの9割が日本の流出品種

 平昌五輪での銅メダル獲得の余韻冷めやらぬ3月13日、カーリング女子の藤澤五月選手が国産イチゴを美味しそうに頬張る姿が報じられた。

 五輪で快進撃するにつれ、ハーフタイムに選手がおやつを食べながら戦術などを確認する様子が「もぐもぐタイム」として注目を集めた。その際、おやつとして登場したイチゴが韓国産で、齋藤健農林水産相が「日本から流出した品種を基に韓国で交配されたものが主だ」と指摘する一幕もあった。こうした経緯から、青森で開かれたカーリング混合ダブルスの日本選手権の前日である13日、大会特別協賛の全農から国内産のイチゴが藤澤選手に贈られた。

 農水省によると、韓国に流出した日本のイチゴは「とちおとめ」「章姫(あきひめ)」「レッドパール」などだ。

 「とちおとめ」を開発した栃木県農政部の話では、この品種が韓国に流出した経緯は不明だという。2001年に「韓国産とちおとめ」が輸入され、初めて流出が判明した。

 「章姫」と「レッドパール」については、それぞれの品種の育成者が、韓国の生産者に利用を許したが、その後、韓国内で他の生産者に流出し、無断で栽培された。韓国では「章姫」と「とちおとめ」を交配して「クムヒャン(錦香)」など新たな品種も作られている。

 新品種の保護に関する国際条約「ユポフ(UPOV)条約」では、海外での品種登録をする場合、開発者は国内で他の生産者への利用を認めてから4年以内でないと出願できない決まりになっている。「とちおとめ」「章姫」「レッドパール」の3品種は、流出が分かった時点ですでにその期限を過ぎており、韓国での品種登録はできない状況だった。

 農水省によると、韓国のイチゴ栽培面積のうち、実に9割以上が日本からの流出品種か、その交配品種で占められている。同省は日本の育成者が得られるはずのロイヤリティー(使用料)収入の損失を年間16億円と試算している。さらに、日本からの流出がなければ韓国のイチゴ輸出を日本産イチゴで代替できたと仮定した場合、日本の輸出機会の損失は5年で最大220億円とみている。

海外での品種登録を目指す開発者も

 日本品種の海外流出は、イチゴだけではない。農業の研究機関である農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が開発したブドウ「シャインマスカット」も、中国と韓国に流出している。同機構は2007年から2012年の間に流出したとみており、「残念。それ以上言いようがない」と無念さを隠さない。2016年に行った中国での現地調査で、シャインマスカットの木を発見したが、どのような経緯で栽培されたのか、現地関係者から聞き出せなかったという。こうした海外への流出例は、他にいぐさや小豆、菊などがある。

 危機感を抱く育成者の中には、海外での品質登録に取り組むところもある。

 静岡県は2017年、中国と韓国、台湾で、同県が開発したイチゴの「キラピカ」の品種登録を出願した。静岡県には過去、イチゴ「紅ほっぺ」が海外に流出した苦い経験がある。同県経済産業部農業局は「登録されれば、相手国の法で育成者の権利が守られる」と期待する。

 海外での品種登録に要する費用は、国によって差はあるが大体100万円から200万円ほど。農水省は2017年度、海外での品種登録に必要な経費の半額を支援する事業を実施。2018年度予算案にも、出願経費の支援を含む流出防止対策事業を盛り込んでいる。

検疫が品種登録のネックになる可能性

 農業・食品分野の知的財産に詳しい吉永国際特許事務所の吉永貴大(たかひろ)弁理士は、海外での品種登録を進める上で、農作物が病害虫などに汚染されていないかどうかを確認する「検疫」がネックになる可能性があると指摘する。

 日本を含む諸外国では、病害虫の侵入を防ぐために輸入を禁止する農作物を定めている。海外で品種登録をするためには、検査用にその品種の種や苗をその国に輸出することが必要だ。吉永弁理士が懸念するのは、その国で輸入が禁じられている品種の種苗が、日本から非合法的な手段でひそかに持ち出された場合だ。「その国でその種苗が栽培され、作物が市場に出回っても、品種登録が行われていないと、当然日本側は権利侵害だと主張することができない」。流出先の国で輸入が禁止されている農作物だった場合、登録するための種苗さえもその国に持ち込めないからだ。

 吉永弁理士は「品種登録に必要な種苗はわずかな量。こういった場合はその国への輸入を認めてもらうなど、例外的な措置を国際的に検討することが必要」だと提案する。

【ことば】品種登録制度…農作物で新しい品種を開発した人(育成者)に、その品種の種や苗、収穫物、加工品の販売を独占できる「育成者権」を認めるしくみ。日本の場合、権利期間は最大25年、ブドウのような木に実る農作物は同30年。ただし、効力は国内のみで、他の国でも権利を主張するには、その国でも品種登録が必要となる。

(取材・文:具志堅浩二)