ソーシャル動画ニュースのスタートアップであるATTNが3月1日、ロサンゼルスの本社にいる数十名のスタッフにメールを送った。全社会議を翌日に開くためだ。

会議が行われる部屋には、「2月のビューに関する緊急会議」という議題が大きな文字で書かれていた。2月は終わったばかりだったが、Facebookがニュースフィードの改変を実施したのはその1カ月前だった。それ以来、バイラルパブリッシャーの投稿が減らされ、ユーザーの投稿が優先されるようになっている。

マーケティング会社のチューブラーラボ(Tubular Labs)によると、ATTNは1月の時点で、Facebookのトップ動画パブリッシャーであり、2億2200万ビューを獲得していた。それより前の2016年にも、ATTNは多くのシェアを獲得し、調査会社のニュースウィップ(NewsWhip)から新興ソーシャルパブリッシャーのトップ企業と認定されていた。つまり、これまでのATTNは、アルゴリズムの変更をうまく切り抜けてきたといえるだろう。

「ビューは追ってない」



だが、同社のビューとエンゲージメントがこの3カ月で急速に減少したことが、ソーシャルメディア分析企業のクラウドタングル(CrowdTangle)によって明らかになった。実際、前述の会議は暗い雰囲気だったという。ある幹部は、Facebookのアルゴリズムによる「混乱状態」について触れたうえで、ATTNが「企業として何とかやっていくには」ビューを気にかける必要があると語った。

ATTNのプロデューサーやエディターは、それぞれのデスクに戻ると、Facebookが優先しているという高いエンゲージメントを確実に得るための戦略に取り組み始めた。しかし、Facebookがルールを変えた可能性があることを考えれば、このような取り組みがうまくいくと、誰もが確信できるわけではない。



ATTNのメインFacebookページの推移(クラウドタングル)

Facebookというソーシャルメディアプラットフォーム上でビジネスを展開していたATTNのようなパブリッシャーにとって、今回の改変は決断を迫る出来事だ。だが、Facebookが自社の求めるものに関するルールを変えたいま、パブリッシャーは混乱状態に陥っている。リトル・シングス(LittleThings)が最近閉鎖した一件は、Facebookへの依存が、控えめにいってもリスクのある戦略であることをはっきりと思い出させてくれる出来事だ。Facebookに依存することで急成長したパブリッシャーのあいだで、メルトダウンの連鎖が起きる可能性もある。

ATTNの共同創設者マシュー・シーガル氏はインタビューで、最近のアルゴリズムの改変で不意を突かれたということはないと述べている。実際、Facebookは1年以上前から、パブリッシャーのコンテンツを少しずつ遠ざけてきた。また、前述の会議は、ATTNの動画の品質を高める方法について議論することが主な目的だったという。シーガル氏によれば、ATTNが以前からもっとも重視している動画のインタラクション率は、いまでもライバルを上回っているようだ。「ビューの数を追うビジネスを手がけたことは一度もない。我々は以前から、エンゲージメント中心のビジネスに取り組んでいる」と、シーガル氏は語った。

ATTNの成り立ち



シーガル氏と共同創設者のジャレット・モレノ氏は、若者の投票率向上を目指す非営利団体を2011年に立ち上げたあと、ミレニアル世代が政治や社会の問題に気軽に関われるようになることを目指して、2014年にATTNを設立した。バイラルメディアのアップワーシー(Upworthy)とは、その成り立ちが大きく異なる。ATTNは、司会者のライアン・シークレスト氏やコメディアンのビル・マー氏などから出資を受けて、2500万ドル(約26億円)の資金を調達。いまでは130人のスタッフを抱えるまでに成長した。

ATTNが動画で取り上げている内容は、米国で起こっている教師不足や銃を使った暴力に反対する子供たちといったテーマだ。Facebookで関心を集めるために、女優のズーイー・デシャネル氏やジェシカ・アルバ氏といったセレブを利用するようなことはしていない。もっぱら真面目な内容が中心で、奇抜な製品の動画や手だけを写したレシピ動画などは見当たらない。ATTNは2017年、動画のビューを増やす仕事を担当していた4人のライターを解雇した。ATTNの動画は、大半がFacebookで視聴されている。

「以前はほぼ完全にFacebookに依存していた」と、2017年にATTNに在籍していた元従業員はいう。「ATTNのメインサイトに人々を呼び込む取り組みは、ほとんど行われていなかった。また、Twitterやほかのソーシャルネットワークでは、ATTNのプレゼンスはほとんどない。Facebookに運命をゆだねていたのだ」。

他エリアへの進出



シーガル氏は、テレビやFacebookの「Watch(ウォッチ)」向けのオリジナル番組とシリーズ番組を増やしている最中であることを強調した。具体的には、シリーズ番組の「ウィ・ニード・トゥ・トーク(We Need to Talk)」をリニューアルしたほか、新しい試験的なドキュメンタリー番組をテレビ局のショータイム(Showtime)に販売。また、「アメリカバーサス(America Versus)」をもとにしたシリーズ番組をパラマウント・テレビジョン(Paramount Television)と制作することを発表している。こうした取り組みを合わせると、ATTNの収益の30%を占めるとシーガル氏は説明した。残りは、コンサルティングの収益が30%、ブランデッドコンテンツの収益が40%だという。シーガル氏はATTNの財務状況について具体的な数字を挙げなかったが、「利益を出せる状況にかなり近づいている」と語った。

「Facebookが人々を自社のプラットフォームに呼び戻すことを重視している限り、ATTNはニュースフィードで好調なパフォーマンスを維持するだろう」と、ATTNでCTO(最高技術責任者)を務めるジェイク・マグロウ氏は話す。「いまは、Facebookでの成功を土台にして、ほかのエリアに進出しているところだ」。

ATTNのようなパブリッシャーは、Facebookでエンゲージメントの向上に成功したことをセールスポイントに、自社の動画コンテンツをほかのプラットフォームに売ろうとしている。だが、FacebookがATTNやほかのパブリッシャーのリーチを減らす動きに出れば、このようなビジネスモデルを維持するのは困難になるだろう。

問題は、Facebookがパブリッシャーにとって、信頼できるマネタイズのパートナーではないことだ。また、ほかのプラットフォームとともに番組を制作して利益を上げられるようになるには、長い時間がかかる可能性がある。Facebookの「Watch」用の動画をほかのプラットフォームで公開しても、収益はなかなか増えないのが現状だ。

懸念すべき問題



ATTNは、オーディエンスを多角化するための策を講じている。それでも、膨大なユーザーを抱えるFacebookの利用をやめることは、ソーシャルパブリッシャーにとって難しい話だ。シーガル氏は2017年11月のDIGIDAYポッドキャストで、自社のサイトにオーディエンスを呼び戻すことを「勝ち目のない戦略」だと語っている。しかし、もっぱらFacebookのオーディエンスを頼りにすることも、それほど勝ち目のある戦略とは思われない。

ATTNは、ほかにも懸念すべき問題を抱えている。出資者のひとりであるシークレスト氏がセクシャルハラスメントの疑いをかけられたのだ。そのあとには、やはり出資者のマー氏が元女性従業員から訴えを起こされている。訴えによれば、彼女はマー氏が番組で人種差別的表現を再三用いていることをとがめた結果、解雇されたという(ATTNは、事業戦略転換の一環として彼女を解雇したと述べている)。3月2日の全社会議に出席した従業員によると、幹部たちはシークレスト氏の状況を注視していると発言したようだ。ATTNの広報担当者は、「ライアン・シークレスト氏とビル・マー氏は数多くいる株主のひとりであり、ATTNの日常業務には何ら関わっていない」と述べている。

結局、ATTNが近いうちにFacebookから離れることはなさそうだ。「多角的なアプローチを採る必要があるという事実は、常に意識している」と、シーガル氏はいう。「とはいえ、オーディエンスを一から獲得する最適な場所はFacebookであり、Facebookは意味のあるインタラクションを求めている。我々はいまも、成功するための場所としてFacebookに注力し続けているのだ」と、シーガル氏は語った。

Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)