相手の心に届く文を作るには?(写真:ExperienceInteriors / iStock)

文章をつくる際、要点を的確にまとめることは“基本のキ”。では、人に読んでもらえるような文章になっているでしょうか?
「短くなっても、面白い。つい読んでみたくなる、人に話したくなるような文章」を指南するのが、『博報堂スピーチライターが教える 短くても伝わる文章のコツ』の著書を持つ、ひきたよしあき氏です。
ひきた氏は、30年あまり博報堂でコピーやCM作りに携わり、現在では、政治、行政、大手企業などのスピーチライターを務める人物。これまで実践してきた中で、本当に役に立つ、文章作成のノウハウを公開します。

何を言いたいのかわからない文章

トイレで、こんな貼り紙を見かけたことがありませんか?

「ペーパーハンドタオルが床に置かれたままですと、誤ってほかの人がトイレに流してしまう詰まりにより使用ができなくなります。次の方のためにも、皆様、ご協力をお願いします。」

わかりにくい文章ですね。何を「ご協力」すればいいのでしょう。なぜ、こういう表現になってしまうのでしょう。この貼り紙は、もっと簡潔にまとめることができるはずです。

「使用済みのペーパーハンドタオルは、所定のごみ箱に捨ててください。」

このほうがずっとわかりやすいでしょう。

これを書いた人も、はじめはそのつもりだったのかもしれません。しかし、書き進むうちに「強い書き方をしてクレームがくると嫌だな」とか、「命令口調って苦手なんだよなぁ」という感情が湧いてきたのだと思います。

このように、いきなり書きはじめると気分や感情に支配され、文章にエクスキューズ(言い訳)が増えていきます。さらに、「もっと詳しく説明したほうがいいのではないか」という迷いが生まれ、文章がどんどん長くなります。

まずは、「トイレにこの貼り紙を掲示する目的」を書く。「使用済みペーパーハンドタオルを、ゴミ箱に捨てさせる」という要約文を書くことができれば、あとは文章を多少やわらかくしたり、状況を説明したりすればいいのです。言いたいことから逃げ、要点をぼかすと、文章は長くなるのです。

報告書やメール、企画書などを書いたとき、みなさんの中でも、心当たりのある方はいらっしゃいませんか?

「君の文章、長いうえに、よくわからないなぁ」

と上司や取引先に言われて落ち込んだ経験のある人は、知らず知らずのうちに要点から逃げているのかもしれません。

上記のトイレの貼り紙の例は、伝えたい要点が明確でした。

しかし、レポートや企画書、提案書を書く際には、文章を書く対象となる本や資料から、まずは要点をつかみとる作業をしなければならないことも。これが苦手だという人は少なくないでしょう。

膨大な情報の中から要点を絞るために、私が行っている方法のひとつが「1ページ・1ライン法」です。

大切な部分にアンダーラインを引く、それはきっと誰でも行っている方法だと思いますが、この方法では“1ページに1カ所だけ”しか引けないという縛りを設けます。この原則を頭に置いて、必要のない部分をバンバン捨てながら読んでいきましょう。

1回目の粗読みではラインは入れません。パラパラと全体を読み通したうえで、もう一度はじめから読んでいきます。そのときに、1ページに1カ所を目安に大切なセンテンス、単語を探す。「ここだ!」と思った単語、または文章に短くラインを入れます。

そのページに核心がないと判断した場合は、ラインを引かなくてもかまいません。逆に「いくつもあるな」と思った場合でも、それらを比較しひとつに絞ります。

本や資料にもよりますが、仕事に有益な箇所はせいぜい、文章全体の10%前後だと言われています。ポイントをつかみ読みするクセをつけ、捨てる覚悟を持って読み進みましょう。

文章の書き出しは『桃太郎』の冒頭の順に

さて、要約のコツはつかめました。いよいよ報告書やレポートの文書に落とし込んでいこう……というところで、いきなりつまずきがちなのが「文章の書き出し」です。

よく言われるのが、「5W1Hでまとめる」こと。いつ(When)、どこで(Where)、誰が(Who)、何を(What)、なぜ(Why)、どのように(How)の6つの要素に加え、さらにビジネスの場では「どのくらい(Howmuch/Howmany)を加えて「5W2H」にするとより明確になるとされています。

しかし、文章の冒頭にこれらの要素を全部入れようとすると、詰め込みすぎてぎゅうぎゅうになり、読みにくくなりませんか?

そこで参考にしたいのが、森鴎外が各所に散らばっていた『桃太郎』をまとめた、あの有名な書き出しです。

「むかしむかし(When)、あるところに(Where)、おじいさんとおばあさんが(Who)、いました(What)」

どうでしょう。この一文だけで4つのWを使っています。この順番で冒頭の文章を書いてみると、端的に状況を説明することができるのです。

時間(When)と場所(Where)は、どちらが先でもいいように思いますが、人間の心理は、どこで起きたのかよりも、いつ起きたのかを先に知りたいものなので、この順がベストといえます。
 
「昨日16時、大手町の鹿島商事で、山崎社長と面会しました」
「2017年6月10日、京都市伏見の螢據璽僉璽燹璽鵑如太田社長が新製品を発表しました」

「1868年3月14日、田町の薩摩藩邸で、東征大総督府下参謀・西郷隆盛と、旧幕府徳川家陸軍総裁・勝海舟の会談が行われた」

この方法は、報告書やレポートなどを書くときはもちろん、口頭で報告するときにも有効です。シャープな印象を人に与えることができるでしょう。

結論をわかりやすくする「早い話が」の力

こうして、文書を書き出したら、次に続くのは、「結論」です。「結論を先に述べよ」とはよく聞く言葉ですが、とくに、ビジネスでは大切なこと。

非常に参考になるのが、コピーライターの仲畑貴志さんの言葉「『早い話が』と言ってからコピーを書け」です。

「早い話が」という言葉を思い浮かべたのちに「カゼは社会の迷惑です」(武田薬品工業・ベンザエース)となる。

「早い話が」ときて「目の付けどころがシャープでしょ」(シャープ企業広告)と続く。

当時の仲畑作品を眺めながら「早い話が」の力に驚いたものです。

みなさんも、このやり方を応用してみましょう。結論を示す際、前置きはいりません。「早い話が」に続く文章を書くのです。

「(早い話が)これからの受験生には読解力が必要です」

「(早い話が)この商品は、市場導入は時期尚早という結論に至りました」

じつに気持ちよく、結論がわかります。この結論の前に、先ほどの『桃太郎』の冒頭4Wを足してみましょう。

「昨日、東京大学で光永教授と新入試制度について話してきました。これからの受験生には読解力が必要です」

これだけで、相手はあなたと同じ認識の土俵で報告書やレポートを読むことができます。この順番で書き出しをはじめ、その後に、目的や利用を表す「なぜ(Why)」と、手段や方法を示す「どのように(How)」という、文章の主目的になる部分を書いていく。こうすれば、あなたの文書は格段に読みやすく、興味をそそるものになるでしょう。

読み手に「頭を使わせる」テクニック

さて、基本の短い文章が書けるようになったなら、忙しい相手に確実に、必要な部分を読んでもらうためのテクニックをひとつお教えしましょう。

それは、「Q&A(問いと答え)」方式で書くことです。相手が疑問を抱く内容を想定し、それに応えていく。たとえば、

地下フロアは、マーケットとしての利便性のみならず、レストラン機能が充実している面も強調すべきである。なぜならイートイン機能のついたコンビニが増え、「買ってすぐ食べる」スタイルが定着しつつあるからである。

と書くよりも、

Q.なぜ、地下フロアのレストラン機能を強調する必要があるのか。

A.マーケットの利便性だけでは顧客満足が得られないから。イートイン機能のついたコンビニが増え、「買ってすぐ食べる」スタイルが定着しつつある。

と、「Q:質問」の部分を設けたほうがわかりやすくなります。

テレビの世界でも「苦しいときのクイズ頼み」という言葉があるように、クイズ形式には人を惹きつける力があります。それは、視聴者に「ちょっと考える」ことを強いるからです。文章も同じ。ときには読み手に「頭を使わせ」ましょう。


「Q&A」で文章を書いていくテクニックを身につけるには、日頃から何にでも自問自答する習慣を身につけることが大切です。たとえば、スーパーマーケットの店員なら、

「なぜ今日は、肉が売れたのか?」

「それは熱帯夜が3日続いていると訴えたから。危険なほど暑いときは、さっぱりした食品を訴求するより、“スタミナ”を訴えたほうがいい」

「なぜ急に、オイルサーディンの缶詰が売れたのか?」

「受験の季節なので、テレビで“DHAの脳への効果”という情報が流れたから。この季節は、受験生向けの商品が売れる」

など、つねに「なぜ」「〜だから」と自問自答するようにします。これも、文章力をアップさせるコツです。

以上、短くても相手の心に伝わる文章のコツをいくつかご紹介しました。企画書、提案書、メール、エントリーシート、SNS、手紙など、文章を書く場面はたくさんあります。これまで文章を書くのが憂鬱だったという人も、コツさえつかめば相手の心に届く文を作ることができ、書くことが楽しくなるでしょう。これらのテクニックが、みなさんの文章力向上に役立てば幸いです。