プロトラブズにおける切削加工時のワンシーン(写真提供:プロトラブズ)


 家電やデジタル機器などを手がける国内もの作り企業の間で、話題を呼んでいる試作部品の製造会社がある。神奈川県座間市にあるプロトラブズだ。

 プロトラブズは米国に本社を置き、現在欧州と日本を含めた3地域で事業を展開する。日本には2009年に進出。2300社(2016年末の実績)からカスタム部品の受託製造を行ってきた。

 話題を呼んでいる理由は、見積もり回答や納期までの期間が早いこと。プロトラブズに部品の試作を依頼すると、平均3時間で見積もりが発行され、切削加工なら発注から標準3日、樹脂射出成形なら標準10日で現物が手元に届く。特急メニューを選択すれば、射出成形の試作品が5営業日で出荷が可能という。

 ものづくり分野の受発注サイトを運営するNCネットワークの赤井宣之加工事業部営業部主任は、「プロトラブズはユニークな存在。これほどのスピード感のある納期を確約してくれる試作会社は珍しい」と語る。

プロトラブズにおける射出成形の様子(写真提供:プロトラブズ)


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形状データから製造上の問題点も指摘

 プロトラブズのスピード感を支えているのはデジタル技術である。試作部品の見積もりから製造、部品の出荷に至るまでのプロセスを、情報システムがカバーしている。

 顧客である設計者にとって、プロトラブズに依頼する大きなメリットの1つは、設計した部品の3次元CADデータを解析してくれるWebサービスが使えることである。

 まず、設計者が自分が設計した部品の3次元データをプロトラブズのWebアプリケーションにアップロードする。するとプロトラブズ側の情報システムが形状データを自動解析し、製造性の解析結果を図解とともに回答。同時に、納期や費用といった見積もりの概算も返す。設計者が画面上で部品数などの条件を変更すると、それが見積もりにすぐ反映されるのもポイントだ。

設計者はプロトラブズのWebサイトに部品の3次元データをアップロードすると、設計した部品の製造性や納期の概算を確認できる。こちらはデータを投入しなくても確認できるデモ画面の例で、システムの自動診断により製造性に問題のある個所が指摘されている(出所:プロトラブズWebサイト)


同じWeb画面で、部品の仕様や注文点数に応じた見積もりの概算を確認できる(出所:プロトラブズWebサイト)


 もし問題があれば、「この設計では材料の流れ方が悪くなり、必要な部分に回りきらない可能性がある」「型から押し出す際に強度上の問題が発生する」など、製造上クリアにすべき個所が表示される。

 これらの設計上の課題について、設計者はプロトラブズのカスタマーエンジニアと電子メールや電話などで相談できる。カスタマーエンジニアは顧客の設計データと自動解析の結果を見ながら、「部品の肉厚を増やす」「イジェクターピンの当て方を変更する」といった解決策を提示する。設計者はこれらのフィードバックを通じて、製造上の問題を解決していく。

プロトラブズのカスタマーサービス部門の様子。カスタマーエンジニアが電子メールや電話などで、顧客企業の設計者が持つ製造性に関する質問などに答えていく(写真提供:プロトラブズ)


 設計が確定したら、プロトラブズに対する本格的な発注作業を経て製造に入る。先にも触れたように、切削加工であれば発注してから標準3日で出荷、射出成形であれば標準10日で出荷する。

なぜ短納期を確約できるのか

 従来、設計者と試作会社の間のやり取りはアナログ的に処理されることが多かった。一般的には、設計者から試作会社に相談が持ちかけられた後、「型打ち合わせ」というミーティングをする。ここで顧客企業の設計者と試作会社の技術者が顔を合わせ、お互いに2次元の図面を見ながら、強度などの製造性の問題を検証したり、見積もりや納期を確定したりする。内容にもよるので一概には言えないが、一般的には納品まで2週間から1カ月程度と幅がある。

 試作会社が設計者の要求にすぐに反応してくれれば、プロトラブズと同じレベルの納期で対応してくれる可能性はある。だが、「人手が足りない」あるいは「製造設備の空きがない」といった理由で、常に短納期を確約できるわけではないし、後から納品まで1日、2日の遅れが生じることもままあるという。

 また、取引実績など商習慣の問題もある。仕方のないことだが、“お得意さん”である企業の設計者であれば早めに対応するし、そうでない企業は後回しになりがちだ。

 プロトラブズの横田哲哉カスタマーサービス部部長兼企画室室長は、「当社のサービスのポイントは、納期の回答について曖昧さを取り除いたところにある」と語る。曖昧さを取り除けた理由は大きく2つ。1つは、先にも触れたように受注から出荷に至るプロセスを情報システムで一貫してサポートしており標準化していること。もう1つは、生産設備にあえて余裕を持たせたことである。

 日本法人の設立当初、国内拠点の敷地面積は約1000平米だった。今の拠点である座間では約9000平米と当初の9倍に拡大。現在、切削加工の機器は36台、射出成形の機器は13台配備している。横田氏は「注文が集中しても柔軟に対応できる生産設備を整え、見積り依頼をいただいた段階で納期を確約できるようにしている」と説明する。

プロトラブズの横田哲哉カスタマーサービス部部長兼企画室室長


 家電などの分野は市場の成熟化に従って、多品種小ロットの生産案件が増えている。また、IoT(モノのインターネット)の普及や製造技術の向上が後押しし、例えば「見守り」系の製品など、市場性の観点から実現が難しかったニッチな製品がビジネスとして成り立つ環境ができつつある。

 こうした中で焦点となっているのが、製品開発プロセスの前半における要(かなめ)、試作フェーズである。設計者は試作を通じて、狙い通りの機能、強度、使い勝手を備えた製品になっているかどうかを検証する。

 この時、設計者が試作品を素早く手にして検証できるかどうかがポイントだ。限られた開発スケジュールの中で、「見積もりに時間がかかり、試作部品調達の時期がなかなか確約できない」「予想よりも納期が延びる」となると、設計者にはストレスがかかる。ところがプロトラブズのように見積もりの回答が早く、納期に曖昧さが取り除かれているとなれば、安心して試作に取り組めるし、設計の質の向上も期待できる。

新製品の開発期間が半分になったメーカー

 色彩測定器・水質測定器メーカーの日本電色工業は、ポータブル水質計「WA-2/WA-2M」の試作品パーツの製作、そして最終製品の量産のそれぞれにプロトラブズを採用した。結果、従来の半分程度の開発期間で新製品を市場に投入できたという。短い期間の間にも筐体や内部パーツの形状について繰り返し検証でき、それが開発期間の短縮に特に寄与した。

 また、セイコーエプソンはスマートグラス機器「モベリオ」の開発段階で、プロトラブズの試作サービスを利用した。スマートグラスはユーザーの頭部に装着するため、装着時の違和感のなさが商品価値を決める重要なポイントとなる。設計者は従来なら1回だった試作品の検証回数を2回に増やせ、納得度の高い設計ができたという。

 ハードウエア分野の新興企業もプロトラブズのサービスを利用している。例えば高級トースターのヒットで有名になったバルミューダだ。サーキュレータ製品「GreenFan Cirq」の開発時に試作部品の製造を依頼。セイコーエプソンや日本電色工業と同様、プロトラブズのスピード感が高評価の理由だったという。

「限りある期間内で、繰り返し設計を検証できるのが大きな売りの1つ」と横田氏は語る。「デザイン上の難易度が高い製品であれば特に、開発期間内の早い時期に問題が洗い出せる。つまり、設計をもっと詰めることができる。市場競争が激しくなっている今、お客様企業に貢献できるところは大きいはず」(横田氏)。

課題は顧客企業側の社内体制

 設計者にとってはメリットの大きそうな“デジタル試作会社”のサービスだが、そのスピード感を生かせるかどうかは、発注者側の社内体制が左右しそうだ。

 例えばプロトラブズを利用するメリットの1つは、設計した部品の製造性や納期の概算をWebサイトの画面上ですぐに確認できることである。だが、それには顧客企業の設計者は部品の3次元データをプロトラブズのサーバーにインターネット経由でアップロードする必要がある。このアップロードというアクションが顧客企業社内のルールに抵触するおそれもある。「資材調達部門が定めた手続きを経なければならない」ならまだしも、「社外のサーバーに開発部品のCADデータをアップロードしてはならない」といったルールがあれば、設計者としてはプロトラブズを使う際に慎重にならざるを得ない。

 プロトラブズ側ではこうした企業側の事情を考慮し、「ご相談の内容に応じて個別対応も実施している」(横田氏)という。例えば顧客企業のサーバーを経由してデータを授受する、製造性の解析結果や見積もり結果は資材調達部門を経由して設計者に渡す、といった具合である。

 ただそれでも、現場の設計者がプロトラブズのサービスを機動的に使いたくても使えずに終わることも多いようだ。例えば、コスト削減の要請から資材調達部門が調達先を絞り込んでおり、設計者側の都合だけではなかなか増やせないというケースである。コスト削減に注力したい資材調達部門と、良いものを作りたい設計者の意図は、必ずしも合致するものではない。

 現場の設計者からの強い要請を受けて資材調達部門が折れたのだろうか、横田氏は「特例として緊急の部品試作の相談にいらしたような雰囲気のケースもある」と打ち明ける。

 ものづくりに携わる企業が機動的なデジタルサービスの恩恵を受けて、その真価を発揮できるかどうかは、組織によくある縦割りの都合をクリアできるかどうかにかかっているのかもしれない。デジタルに理解のあるマネジメント層が、個々の組織の利害関係を超えた采配を下すことが必要だろう。

筆者:高下 義弘