デートでは男性が多く払わなければならないのでしょうか?(写真:Kazpon / PIXTA)

女性の育児や仕事など、女性の問題ばかりが取り上げられるこのご時世。
しかし、男だって「男ならでは」の問題を抱えて生きづらさを感じています。男が悩むのは“女々しい”!? そんなことはありません。男性学研究の精鋭、田中俊之先生がお答えします。

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■今回の相談
なぜ、男性が多く払わなければいけないのか。食事や観光など、デートのときの話である。
たしかに、女性は化粧や脱毛、エステにヨガと男性よりもおカネが掛かっていることは確かでしょう。そしてたしかに、意中の女性に対して自分が多く払うことで喜んでもらいたいという思いも多くの男性にはあるだろう。
しかしながら、やはり女性にはそれを当たり前だとは思っていただきたくない。むしろ当たり前だと思わないほうが喜びもひとしおなのではなかろうか。この話をするとケチな男だと思われてしまうというのがこの悩みの正体なのかもしれません。

「多めに支払う」べきだと考えているのは男性のほう

まずは落ち着いてください。


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以前、大学生を対象にした調査で、「あなたはデート中の食事費用の支払いについて、どのようにすべきだと思いますか」という質問をしました(2012年に学習院大学・武蔵大学で実施、サンプル数=517)。

「男性が全額支払う」は全体で3.1%でしたが、女性のみでは1.6%となっており、女性はほぼ完全な「おごり」を望んでいないという結果になりました。なお、「女性が全額支払う」は0%でしたので、グラフに表示されていません。今日の若者の間では、デートでどちらかが全額支払う必要はないことがわかります。


注目したいのは、「男性が多めに支払う」です。グラフから一見してわかるように、男性41.4%に対して、女性24.4%と大きな差が開いています。つまり、「男性が多めに支払う」べきだと考えているのは、女性ではなく、明らかに男性のほうなのです。

女性で最も多かったのは「自分が食べた分だけを支払う」で、44.9%とほぼ半分を占めています。「男女同じ額を支払う」の29.1%と合わせれば、4人に3人の女性はデートで男性に金銭的な負担をかけることを望んでおらず、多く出してもらって「当たり前」だとは思っていません。

こうした価値観は20代前半の大学生に限ったことではありません。他の調査では、30代の男女に同様の傾向が見られます。

以上の結果から考えてみるべきなのは、どうして男性は女性が必ずしも希望していないにもかかわらず、「デートでは自分が多く支払わなければならない」と考えてしまうのかです。相談者さんは「彼女」ではなく「意中の女性」と書いているので、恋人同士になる前の関係の問題として考えていくことにします。

「おつきあい」と「つきあい」の大きな差

社会学者の加藤秀俊先生は、人と人とのコミュニケーションについて論じる中で、「おつきあい」と「つきあい」を区別しています。

「おつきあい」とはお互いの共通点を発見し、その話題をめぐって会話を楽しむような関係です。恋人になる前のデートは、まさにこの「おつきあい」の段階だと言えます。好きな食べ物や趣味などの共通点を探し、同じところがたくさんあると「相性がいい」と喜び、一般的には、恋愛へと至る可能が高いと考えます。  

ここで重要なのは、加藤先生が「おつきあい」はキャッチボールのようなもので、同じところをグルグルしているだけで関係が深まらない、と指摘している点です。確かに、まだお互いをよく知らなくても、似たところが見つかると会話は弾みます。

しかし、交わされている会話の実質は、それほど親しくない人と天気や出身地といった誰とでも共有できる話題でその場を取り繕っている「浅い」関係とさほど変わりません。共通点が見つからなければ初期のデートが成立しないのは確かですが、一般的な見解とは異なり、それだけでは関係を発展させるのには十分ではないのです。

「おつきあい」レベルの関係では、どれだけ楽しく会話をしていても、表面的な話題に終始しています。そのため、相手の男女観や金銭感覚が十分にはわかりません。だから、実際に目の前の女性がどう思っているかではなく、ステレオタイプの女性像に基づいて、男性側は「女性がしてほしい」と思っている行動を予想することになります。

これは女性側から見ても同じことで、ステレオタイプの男性像に基づいて、相手の気持ちを予想する必要があります。だから、男性には、「初めてのデートは全部おごれるぐらいのおカネを財布に入れていく」、女性には「財布を出して払う気があるフリをする」といった「無難なマナー」が推奨されるのです。

以上のことから、デートの相手との関係が費用の支払いをどうするか聞けるようなレベルまで深まっていないから、相談者さんが女性から「ケチな男だと思われてしまうのではないか」という悩みを抱えるのだと言えます。

そもそも、「女性は化粧や脱毛、エステにヨガと男性よりもおカネが掛かっているから、男性のほうがデートでは多く払って当然」という見解は、誰かが実際に口にしたのではなく、ネットで頻繁に見かけるものですよね。

ただ、相談者さんの場合は、「女の子は本音ではおごってほしいものだよ」と女性から言われたり、過去におごる/おごらないで女性ともめたりしたのかもしれません。もしそうだとしても、わずかな自分の経験に基づいて、「すべての女性は男性が多く払うのは当たり前だと思っている」と結論づけるのは無理があります。

いずれにしても、自分の目の前にいる意中の女性と関係を「深い」ものにしなければ、ステレオタイプの女性像に振り回され、悩みは一向に解消できません。いまのままでは、せっかく恋愛に発展しても、「イメージと違う」という理由で別れるような危険性もあります。

それでは、どのような関係であれば「深い」と言えるのでしょうか。加藤先生は「つきあい」の本質を相互学習だとしています。「お互いが手持ちのものを出しあって、同じカードがあった、といって話をあわせるのではなく、まったく異質なものを出しあって、あたらしいカードをつくる」(加藤秀俊 1966 『人間関係 理解と誤解』中公新書)。つまり、お互いに違うところがあるからこそ、それが刺激となってより良い「つきあい」になるのです。

「女性とはこういうものだ」という思い込み

共通点を見つける気楽な「おつきあい」に比べると、「つきあい」はずいぶんと気の長い話になります。男は女を口説かなければ恋愛できないんだから、そんなのんびりしたことは言っていられないと思う男性もいるかもしれません。

気をつけてほしいのは、口説くとは辞書によれば、「異性に対して、自分の意に従わせようと、しきりに言葉で迫る」ことだそうです(『スーパー大辞林3.0』)。言葉だけではなく、実際の行動にはプレゼントや食事の支払いなども含まれていると思われます。

女性の心理に寄り添って考えてみると、おカネを多く払ってもらうと、どうしても「借り」ができたような気持ちになってしまうのではないでしょうか。「借り」があると次のデートを断りにくいなど弊害が出てきます。正直、どうでもいい相手ならば、おごってもらいたいという女性もいるかもしれません。でも、「おつきあい」ではなく「つきあい」をする相手を真剣に見極めたいと考えているならば、なるべくフェアな状態で判断したいと思うはずです。

国内外の「#me too」運動で問われたのは、男性が女性の意向を無視して、強引に自分のペースに引き込むことがセクハラと紙一重、場合によってはセクハラそのものだということです。もちろん、男性の強引さを不愉快に思う女性がいる一方で、口説かれたい女性もいるでしょう。大切なのは、男性も女性も人それぞれであり、「女性とはこういうものだ」という思い込みは、恋愛においてあまり意味がないということです。

男性は恋愛で功を急ぐ傾向があり、「デートの約束=自分に気がある=付き合える」と勘違いしてしまう人も少なくありません。正直に言えば、僕にも若い頃にはそうしたところがあり、いまでは強く反省しています。当時の自分にも言い聞かせたいですが、デートの初期はあくまで「おつきあい」です。「つきあい」に発展することも、しないこともあります。恋愛をしたい男性が目指すべきは、まず目の前の相手が自分に何を望んでいるのかをちゃんと聞けるような関係になることではないでしょうか。