小田急の新型ロマンスカー「70000形」(愛称:GSE)が3月17日に運行を開始した(撮影:梅谷秀司)

プラットホームからあふれんばかりの鉄道ファンに見送られて、真新しい赤い列車が新宿駅を出発した。3月17日午前9時、小田急電鉄の新型特急ロマンスカー「70000形」(愛称:GSE)がデビューを飾った。だが、この日は小田急にとってそれ以上に重い意味を持つ。1989年から続けてきた複々線化工事がようやく完了し、複々線化のメリットを存分に生かした新ダイヤがスタートした日でもあるからだ(「小田急vs京王『多摩の陣』で最後に笑うのは?」)。


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「感無量。ようやくここまで来た」。小田急の星野晃司社長が心境を語る。複々線化の工期は約30年。さらに1964年の計画策定時までさかのぼれば50年を超える大プロジェクトがようやくゴールを迎えた。

沿線各地で開発がスタート

そして今、複々線化に続く小田急の開発プロジェクトが各所で始動している。たとえば海老名駅前では2025年度竣工を目指し、3万5000平方メートルの敷地にタワーマンションや商業施設を建設する大型再開発が進行中。小田急は322億円を投じる。


小田急が約30年を費やした複々線化が完了。3月3日には、下北沢駅で開通式が行われた。参列者の前列右端が小田急の星野晃司社長(撮影:梅谷秀司)

線路を地下化した下北沢では2019年度中に商業施設がオープンする。沿線自治体の川崎市とは2016年に、秦野市とは2017年に連携協定を締結。ダイヤ改正で競争力が高まった鉄道の魅力を武器に「日本一暮らしやすい街」(星野社長)を目指し、不動産開発や駅の機能強化を進めていく。

プロジェクトの中で、ひときわインパクトが大きいのが、小田急が本拠地とする新宿駅西口の再開発計画だ。小田急はまだ具体像を明らかにしていないが、実現すれば、新宿の姿を大きく変えることは間違いない。

新宿駅西口周辺には小田急が運営する商業施設がずらりと並ぶ。新宿駅の真上には旗艦百貨店である「小田急百貨店」、駅を出て右側にはビックカメラなどが入居する「小田急ハルク」、左側に曲がって小田急百貨店と京王百貨店の間にある専門店街「モザイク通り」を抜けると、ファッションビル「新宿ミロード」がある。そして、地下広場にはショッピングモール「小田急エース」が広がっている。


新宿駅西口には、小田急の商業施設が集積している(撮影:梅谷秀司)

小田急小田原線(新宿―小田原間)が開業したのは1927年のことだ。戦後、小田急は新宿駅西口の開発に本腰を入れ、1967年に小田急百貨店が入居する駅ビル、1984年に新宿ミロードが入居するビルを相次いで完成させた。さらに2000年に小田急ハルクが現在入居する東京建物新宿ビルを取得。

2011年にはかつて富士重工業(現・SUBARU)が本社を構えていた「新宿スバルビル」を買収するなど、新宿駅西口で自社物件を増やしてきた。再開発の期が熟するのを待っていたのだろう。2015年、ついに小田急は、中期経営計画で新宿西口再開発の検討を始めると発表した。


小田急の思い描く将来像

新宿駅西口を出て真っすぐ歩くと、そこは超高層ビルが立ち並ぶ新宿副都心。1971年竣工・開業の京王プラザホテルを皮切りに、1991年に東京都の新庁舎が完成した。最近でも2008年にモード学園コクーンタワー、2011年に住友不動産新宿グランドタワーが竣工するなど、副都心の街並みはつねにその様相を変えている。

新宿副都心は人気のオフィス街ではあるものの、ショッピングやエンターテインメントの面で魅力は乏しい。それらの一翼を担う新宿駅西口には、ショッピング面では小田急、京王などの百貨店やヨドバシカメラなどの家電量販店が集積しているが、建物自体は1960年代に造られたものが多く、発展性に乏しい。そこで、再開発によって新宿駅西口の装いを一新し、新宿副都心の玄関口としての機能を高める――。おそらく、これが小田急の描く新宿駅西口の将来像だ。

同じく新宿駅西口に土地・建物を持つJR東日本(東日本旅客鉄道)、京王電鉄、東京メトロ(東京地下鉄)といった鉄道事業者や明治安田生命保険、ヨドバシカメラにとっても再開発はビジネスチャンスとなる。


新宿エリアの再開発では、小田急など鉄道事業者も重要な役割を担う(写真:まちゃー/PIXTA)

一方で、新宿区は2007年、東京都は2009年、国は2012年に新宿区の整備に向けて検討を開始。そして2017年6月、都と新宿区は2040年代を見据えた新宿の拠点づくりの指針をまとめた。その内容は、新宿駅西口に限定せず、東口も含めた新宿エリアの一体的な再開発を行い、東西の人の行き来が深まるような新宿の将来像を模索するというものだ。

新宿の再開発に関する検討委員会のメンバーには、小田急をはじめとした鉄道各社も名を連ねる。小田急の星野社長は、「新宿駅東口も交えた大きな拠点再整備になることは間違いない」と話す。委員会には西武鉄道も参加している。つまり、新宿駅からやや離れた西武新宿駅とその周辺も再開発の対象になる可能性があるわけだ。

西武新宿駅は歌舞伎町への玄関口。近年の歌舞伎町は大型シネコン「TOHOシネマズ」の開業もあり、ファミリー層も楽しめる街へと少しずつだが変貌しつつある。まだ猥雑な雰囲気が残る西武新宿駅周辺も再開発で変わるかもしれない。

世界一のターミナル駅

かつて日曜・祝日は閑散としていた東京・丸の内だが、2000年代以降の再開発によって、ショッピング客や観光客で絶えずにぎわう街になった。駅前広場が先頃完成した東京駅は、今や観光名所だ。


渋谷駅直上で建設が進む「渋谷スクランブルスクエア東棟」。2019年度の開業を目指す。建設中の「渋谷ストリーム」の33階から撮影(記者撮影)

渋谷は、駅周辺に高層ビルが次々と建設され、エンターテイメントだけでなくオフィスの街としての魅力を高めつつある。東京急行電鉄が今年秋に完成させる「渋谷ストリーム」にはグーグル日本法人の入居が決定している(「東急がグーグル渋谷凱旋を熱烈歓迎する理由」)。2019年度には渋谷駅の真上に「渋谷スクランブルスクエア東棟」が開業、ミクシィの入居が早くも決まっており、今後も有名企業の入居をもくろむ。

その丸の内、渋谷に続き、今度は新宿が大型再開発の舞台となる。「新宿駅周辺は、約半世紀にわたり大規模な再編整備が行われていない。老朽化等により、都市の魅力や活力が低下するなど、機能更新の時期を迎えている」。都と新宿区が作成した資料では、再開発の理由についてそう説明されている。

7路線8駅が結節し、1日約340万人の乗降客を誇る世界一のターミナル駅が新宿だ。その規模にふさわしい「新宿の顔」としての機能をいかにして形作るか。そのカギを握っているのが小田急である。