今年1月、国交省による家賃債務保証業者登録制度がスタートし、業者が守るべきルールとして「暴力団員等の排除」等が定められましたが、その登録はあくまで「任意」。いわゆる家賃保証会社の問題ある取立ては後を絶たないようです。メルマガ『伝説の探偵』では著者で現役の探偵である阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、ある家賃保証会社とのトラブルの一部始終と、「主犯」とも言える会社サイドの男から聞き出した取立てのマニュアルやトレーニング法について詳細に記しています。

家賃保証会社の問題取立て

序章

Aさんは27歳。

都内の中小企業に就職し、神奈川県の川崎市で一人暮らしをしている。

就職先では、主任となり、平日は部下への指導も含め忙しい毎日を過ごしていた。

住んでいるマンションのオーナーが変わったと手紙がきたのは、2018年1月のことだった。正月休みに届いていた手紙であり、Aさんは帰省中であったので、確認したのは1月中旬のことだった。

また、次のオーナーは賃貸保証会社を利用するので、保証会社からは保証料の請求もきていた。

当初の契約時に、すでに保証人はついており、二重に保証人が必要なのかと疑問をもったが、すぐに引っ越すというのも大変なので、Aさんは保証料を支払った。

そして、家賃を銀行引き落としにしていたため、その件で不動産管理会社に連絡をすると、「次の家賃は従前通りに引き落とされてしまうので、それについては次のオーナーさんには了解をもらっているから、大丈夫です」と言われ、手続きの変更を行なった。

ここまでは何も問題のないものであり、Aさんはむしろ、オーナーチェンジなどのことは忘れて日々の仕事に励んでいた。

ところが、2月24日土曜日にとんでもない事件に巻き込まれることになった。

日常の生活が突然、事件となる

Aさんはこの日、午後からの出勤であったため、朝は自宅でのんびりと過ごしていた。

午前10時ごろ、家賃保証会社の担当者だという電話を受ける。

担当者 「家賃の方が2ヶ月お支払いされていませんので、ちょっと困るんですよね。」

2月は家賃引き落としが25日が日曜日のため、平日の23日であった。

当然、銀行の口座には家賃には十分な金額が入っているから、まちがいなく引き落としがあるはずだ。

Aさん 「それは何かの間違いじゃないですか? 家賃は引き落としで、前回は管理会社の方に手続きが間に合わず、落ちてしまったので、管理会社の方でオーナーさんに承諾を得たと聞いているし、引き落とし先の変更はしてますよ」

担当者 「困りますよ。実際払われていないことは事実なんですよね? とぼけるんですか?」

鈴木と名乗る担当者の口調はチンピラ調であり、まさしくテレビで見る取立て屋そのものであった。

Aさんの記憶によれば、家賃保証会社はテレビCMなどもしているNS社であり、そのイメージからそこそこ信用のできる会社だと思っていた。

“新手の詐欺か?”

Aさんは、咄嗟にスマホの画面を確認した。すると、携帯の番号が表示されていた。

そこで、Aさんは、自分の住所を知っているのか聞き出そうと質問をした。

もしも、本物の保証会社ならば、その程度の情報は知っていると思ったからだ。

担当者 「おちょくってんのか! オラ! 後悔させてやるからな」

耳が痛くなるほど、思いっきり電話を切られたが、新手の詐欺を撃退したという気持ちになった。

それから、少し早めに会社に行こうと思い、自宅で準備をしていると、呼び鈴が鳴った。

不思議なのは、このマンションはオートロックであり、通常はインターフォンの呼び出しがあるはずなのに、画面には明らかに警察官とスーツ姿の短髪頭が玄関前に立っている。

どうやって中に入ったのか? 戸惑っていると、鍵を合鍵で開けられ、警察官とスーツ男が部屋に入ってきた。

Aさんは何にも身に覚えがないが、突然のことに慌ててしまった。

矢継ぎ早に質問をされたが、パニックであったという。

ただ、会社には連絡しなくてはと思い、勤務している会社に連絡をした。急遽の休みを了解してもらい、事情をわかる限り説明したが、電話の横でスーツ姿の男が怒鳴るので、話の途中であったが、電話を切った。

スーツ姿の男は、首からぶら下げた身分証なるものをチラッと見せて、「NS社の鈴木だ」と名乗った。警察官は、賃貸人と連絡がつかなくなって、中で死んでいるかもしれないと言われて同行したとのことだった。

Aさんは当然抗議をしたが、いわれのない事情聴取を受け、「家賃を払わないのが悪いんじゃないの」と軽い説教までされてしまった。

通帳の記帳を見せようと思ったが、記帳をしたのは2018年1月の頭であったため、通帳を見せて身の潔白を主張することもできなかった。

鈴木 「今すぐ、一緒に銀行に行って、2ヶ月分の家賃を払ってもらいます。もし払えないなら、出て行ってもらった上、保証人さんに全額払ってもらいます」

「どんな手段を使っても、絶対に払わせるからな」

Aさんは咄嗟にICレコーダーの録音スイッチを押した。

Aさんは過去、悪質な当たり屋の被害に遭い、その際の調査で会話を録音したことがあった(この依頼を引き受けたのが私の探偵社であり、録音機は私が譲ったものだ)。

その内容は、まるでその筋の取立て屋が部屋に居座り、債務者に仕立て上げられたAさんが難癖をつけ続けられているものであった。

その場にいる警察官は、どう思ったのだろうか?

結局、Aさんは支払いを拒み、不動産管理会社にクレームを入れて、担当者を呼び出し、その場は収束した。

しかし、NS社の鈴木は謝罪をすることはなく、「会社のデータではそうなっていた」と、自分は悪くはないと主張し、バツが悪いと思ったのか、すぐに引き上げてしまったそうだ。

賃貸保証会社大手のNS

このNS社について調べてみると、かなり強引な手段で取立てを行うことで各所でトラブルを起こしていた。

Aさんが受けたケースは、よくある被害ケースのようで、これが横行していると考えるのが妥当だろう。

不動産管理会社と新たなビルオーナーに話を聞くと、「鈴木」という男性にはあったことがなく、トラブル時に初めて顔を合わせたとのことであった。また、その後謝罪に来た営業マンは、部課が異なり、会ったことはないということであった。

ただ、オーナーらは営業マンから、賃貸保証会社には、取立て専門の部や課は通常存在するもので、貸金業のような強い規制は受けないため、強引な取立てはしばしば起きるという話を聞いていた。裏を返せば、強い取立てができるということは、賃料の取りっぱぐれはほとんどないわけだから安心ですということらしい。

オーナーからすれば、それはありがたい話ではあるが、強引な取立てが元で争いが生じたり、妙な噂が立って、借り手がつかないなど、自制を求めたということであった。

今回の件は、肝心のオーナーが了承しており、賃借人に何の落ち度もない。賃貸保証会社が暴走した、ただそれだけなのである。

一体どうなっているのだろう。

私はNS社に直接問い合わせてみたが、答えは予想通り、「個別の案件には答えられない」の一点張りであった。

一方で、担当者鈴木について調べてみた。

鈴木氏は、Aさんからの電話は着信拒否をしているが、別の電話からだとあっさりと電話に出た。名前は確かに鈴木であり、身分は契約社員だということだった。

今回の件で、マンションオーナー企業から本社にクレームが入り、その責任を取って、現在謹慎中とのことであった。

内情を聞くと、取立てマニュアルは内部にあり、取立てのトレーニングのようなことはするのだそうだ。今回は、そのマニュアルに沿っただけであり、この取立て方法はNS社の推奨的取立て方法であると不満げに話していた。

マニュアルには、一旦訪問してから不在もしくは居留守であれば、警察官もしくは管理人に「賃貸保証会社であると名乗る」「賃料未納で連絡も取れない状態である」「何かの事件に巻き込まれたとか室内で自殺、病死している可能性もある」と申し出て、立会いを要請する。

とあるそうだが、トレーニングでは、マニュアル通りでは逃げられるから、できれば交番に行って警察官に焦った様子でまくしたてるように、部屋で死んでいるかもしれないと話して、同行してもらえば、管理人などは容易に合鍵を出すと教わったそうだ。

「絶対に取り立てる」というような張り紙を玄関に貼ったり、居ない間に鍵交換をするなどは、追い出し行為でのちに裁判を起こされると負けるので、現在はこの手段は用いないんだそうだ。

テレビで見るような玄関に「借金返せ」とか「出てこい」というような張り紙をされたというのは、ネット検索でも散見していたが、今はしないとトレーニングで教わっているのなら、それこそ、とんでもない社員教育をしていると言える。

さらに、鈴木はこう続けた。「そもそも、保証契約時に、取立ての際は、部屋に勝手に上がることには、みんな承諾していることになっているんです。保証を受けているのは、その借主なんですから、その代理権も委任されていることになっているわけです。どうせ、日本人は契約内容を読みませんし、読んでも理解しませんから、堂々と小さい字で書いておけば、申し込み氏名にしっかりと、承諾しますってサインをするわけです。嫌なら保証会社がつかず、借りられないだけですから、みんなサインするんですよ」

実はこの手の被害は社会問題化していた

私は借家派であったので、長いこと賃貸マンションなどで暮らしてきた。家賃の支払いに関して言えば、月末の振込日を失念していたり、インフルエンザで身動き取れず、少し遅れてしまったことはある。その際はオーナーに直接電話をしたり、不動産屋に連絡をして、しばらく待ってもらった。

持ちつ持たれつ誠意を持って対応していれば、保証会社の出番などないはずだ。

賃貸保証会社発足に尽力した人物に話を聞くと、高齢化社会により、身寄りのない人物は保証人をつけられないという問題の解消などニーズはあったし、回収不能率は極めて低いから儲かるビジネスモデルが出来上がったのだということであった。

不動産オーナーを長くやっていれば、出ていかない賃借人や問題行動をする者、家賃滞納を繰り返す者による被害は何らか受けていることも多く、その場合の回収は大変だから、保証する会社が好条件を提示すれば、客はつくと考えたそうだ。

しかも保証業務は、金融業にも当たらないし、不動産業にも当たらない。だから、届出る必要もなければ、規制する法律もないわけだ。

また、賃貸保証会社は本来保証を受ける賃借人がお客筋なのではなく、不動産オーナー側賃貸人が主なお客であり、不動産管理会社が客なのだ。なぜなら、「この物件は賃貸保証会社必須です」と、不動産オーナーもしくは不動産管理会社に条件をつけてもらえばいいのだ。

不動産を借りるのだから、相応の初期費用は誰もが覚悟しているから、家賃の20〜30%程度、保証料で上乗せされてもケチをつける確率は低い。嫌なら借りられないだけなのだ。

Aさんのようにすでに保証人を立てていても、オーナーの意向で賃貸保証会社と保証契約をするケースも多いであろう。

ただ、やはり歪なのだ。保証契約をしているのは、賃借人であるのに、保護されるのは不動産オーナー、搾取される側は常に賃借人であり、保証人をどうするか選ぶ選択権すらない。

人生何かのトラブルはあろう。入院するかもしれないし、事故にあうかもしれない。Aさんのように、一方的な難癖で払っていないことにされることだってある。その際に、滅茶苦茶な取立てに遭うなどあってはならないことだ。

国土交通省が動き出す

家賃債務保証業者登録制度がやっと2017年10月に始まった。ただ、未だにその規制は無いに等しい。まだ登録は任意であり、業者に対しては登録にあたり、暴力団ではないことや契約時の書面交付、財産の管理についてなど当たり障りのない条件に留まっている。

消費者トラブルが多く、規制に動いてもまだ、試しにやってみよう程度のものだ。

また、国土交通省によれば、この家賃債務保証業者の定義は、「賃貸住宅の賃借人の委託を受けて当該賃借人の家賃の支払いに係る債務を保証することを業として行うこと」となっており、物件により保証会社必須でないと借りられないというような現在通常に横行している不動産賃貸の実態とはかけ離れているものだ。

まずは、保証人を指定するのであれば、保証料はそもそもの保護を受ける不動産オーナーが支払うべきだろう。そうした根本的な規制をしなければ、突然不当な取立てを受ける被害者は後を絶たない。

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