バスの底部に取り付けられた「MIセンサ」モジュール

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 トヨタ自動車グループの素材メーカーである愛知製鋼が、高感度磁気センサー「MIセンサ」を自動運転向けに売り込んでいる。道路に埋めた磁石から出る磁気を車載のMIセンサで読み取って走行するシステムで、このほど事業化に向け自動運転システムのベンチャー企業に出資。MIセンサはこれまで自動車用の特殊鋼や鍛造品を主力とする愛知製鋼にとっての“隠れたヒット商品”だったが、今後は“本業”に近い分野で採用を狙う。

 2月上旬、寒風吹きすさぶ長野県伊那市の山あいの道を1台のバスが走り抜けた。先進モビリティ(東京都目黒区)が開発する自動運転バスだ。国土交通省が2017年度に全国13カ所で実施する実証実験の一環だ。

 バスの底部をのぞき込むと、前輪付近に細長い緑色のモジュールが横方向に搭載されている。愛知製鋼のMIセンサを24個並べたものだ。

 一方、路面には直径3センチメートルの丸い磁石が2メートル間隔(カーブでは50センチ間隔)に並ぶ。バスは磁石の微弱な磁気を検知し、自動運転でゆっくりと走る。記者も試乗したが、乗り心地はさながら“軌道のない路面電車”のようだった。

 世界で開発が進む自動運転技術は、車にカメラやレーダーなどを搭載して走る「自律型」と、車外に通信機器などを設置する「協調型」に分かれる。

 愛知製鋼などのシステムは典型的な協調型。磁石などのインフラ整備費用がかかるが、視界の悪い荒天時や白線の見えない雪道、トンネル内といった「自律型」が苦手な場面での信頼性に強みがあり、特定の場所での自動運転を補完するシステムとして提案している。

 実は磁気検知システムの歴史は古く、90年代から日本や米国などで実証が行われてきた。05年の愛・地球博(愛知万博)ではトヨタが会場内の輸送に磁気マーカーによる次世代交通システム「IMTS」を開発した。

 商用化を阻んできたのは磁気マーカーの敷設コストだ。自動運転のために全国の道路に広く磁石を埋めるのは現実的ではなかった。

 こうした課題を乗り越えるべく、愛知製鋼は17年に新しいMIセンサを開発。携帯電話の電子コンパスとして供給する従来品と比べ、感度を約100倍に高めた。これにより磁気マーカーも愛知万博時の焼結磁石ではなく、低磁気のフェライト磁石を採用し、コストを大幅に下げた。

 愛知製鋼は長野県での実験の約2週間後、先進モビリティに3億円を出資した。20年を目指す磁気マーカーシステムの実用化に向け、ビジネスモデルの検討を進める。

 まずは少子高齢化の進む中山間地域などでの公共交通の自動運転化などを狙っており、将来的には高速道路での磁気マーカーシステムの実現も視野に入れる。
(文=名古屋・杉本要)