北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)とアメリカのドナルド・トランプ大統領(右)(写真:AP/アフロ)

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 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅大統領は、4月に板門店で首脳会談を行う。金委員長は米朝首脳会談にも前向きな姿勢を示しており、アメリカのドナルド・トランプ大統領も5月に会談を開催する意向を示している。さらに、南北と米国の合同首脳会談も噂されており、今後、どうなるか相当に不透明である。

 しかし、北朝鮮の過去の歴史は“裏切りの外交”に彩られてきた。たとえば、1994年に北朝鮮はアメリカと「米朝枠組み合意」を締結したが、援助を受けた後に合意を一方的に破棄。北朝鮮への太陽政策は効果がないとの指摘も多い。米朝首脳会談で北朝鮮はアメリカに対し、在韓米軍の撤退や核保有国の認知や敵視政策の廃棄などを要求する可能性もある。

 また、日本も拉致問題解決のため、安倍晋三首相が金委員長との日朝首脳会談開催に意欲を示しているとの報道もあり、さらに中国やロシアの思惑も加わり、情勢が複雑化している。朝鮮半島情勢は今後、どう動くのか。元防衛大臣で現防衛大臣政策参与である森本敏氏に話を聞いた。

●北朝鮮、核弾道ミサイル開発を継続

――今回、北朝鮮が南北首脳会談、米朝首脳会談などの対話に意欲を見せている背景や狙いは?

森本敏氏(以下、森本) 北朝鮮が今行おうとしている一連のアプローチは、今年の1月1日の年頭の辞に明確に示されています。その内容は、

「北朝鮮は、昨年、核大国の大業を成し遂げた。今後は、自衛的国防力の近代化を図るため、核及び弾道ミサイルの開発・生産・実戦配備に努めていく。他方、国民の生活に苦難と苦衷が見られるので、これに寄り添う気配りを行う」
「今後は、対話と接触を続けていく」

というものです。

 ここから導き出される基本的な考え方は、核弾道ミサイルの開発・生産を続けていく、ということです。北朝鮮はアメリカ本土のいかなる場所に対しても、核を搭載した弾道ミサイルにより攻撃できる能力を保有することにより、北朝鮮の体制の生存を図ることが狙いであると考えています。金日成以来、追求してきたこの戦略目標は基本的に変わることはなく、そのための戦略的アプローチをとっているにすぎないという考えです。一方、朝鮮戦争以来、南北対立のなかで韓国に対して主導権を握り、韓国をコントロールして南北統一を目指すことが目的であるという考え方も一部ですが、あります。

 私は、今、北朝鮮が行っている開発を考えれば、前者が主目的だと想定しています。

――現状の核弾道ミサイルの能力は?

森本 金正恩体制下で新たに打ち出した経済発展と核開発の「並進政策」は、バランスが取れてはおらず、核弾道ミサイル開発が突出しているのが現状です。しかし、核武装大国家を自称しても、アメリカを攻撃するすべての有効な技術手段が確立していないというのが、多くの専門家の見立てです。

 小型化はある程度成功しましたが、再突入もしくは突入後の誘導技術は未完成でしょう。弾道ミサイルは1万km近くは飛びますが、アメリカ全土ですと1万1000km以上飛ばなければいけない。北朝鮮は、核弾道ミサイルでアメリカのいかなる地域も攻撃できると自称していますが、まだ、そのレベルには達していません。

 では、アメリカ全土への核弾道ミサイル攻撃技術がいつ完成するのかといえば、先日アメリカの国務長官に就任したCIA長官のポンペオ氏は、数カ月の間、もしくは今年のいつか完成するとの見立てです。そこで、核弾道ミサイル発射実験が何回か実施されるという蓋然性は、依然として残っていると考えざるを得ません。

――経済制裁の効果は?

森本 「並進政策」のうちの経済発展は思った以上に進んでいません。昨年、対前年比で亡命者が3倍ほど増えています。もう一つ、漁船が昨年100隻以上、今年はすでに40隻、そのうち遺体が85体以上、生存者45人近くが日本の排他的経済水域を越えて難破、到来しています。各船に与えられた漁獲高を超えないと漁民の利益にならない。危険を押して日本に来るというのは、それだけ生活が困窮しているということです。

 一方、石油価格が3倍に、公共料金も上がっています。そこで北朝鮮は苦肉の策で、石油を獲得するために、船と船を横付けし、洋上で石油を積み替える「瀬取り」を行っているのですが、これは国連安保理決議で禁止されています。それだけ石油不足に困っているという証拠です。石油がないと核弾道ミサイル開発や工業製品の製造もできない。経済制裁の効果は大きく現れています。核弾道ミサイル開発の影響だけではなく、人民の生活にも影響が出ているのでしょう。

 そこで挑発活動をやめて韓国などと対話の道を選んだと想定できます。対話の間、核弾道ミサイルの開発は、モラトリアムをしき時間稼ぎを行いつつも、実験の準備をするという道を選択したのでしょう。

●米朝首脳会談、3つのシナリオ

――米韓合同軍事演習が4月1日に開始されますが、ここで北朝鮮はどう出るでしょうか。

森本 北朝鮮に派遣した韓国特使の説明によると、合同軍事演習には「理解を示す」との金委員長の言葉がありますが、本心は「賛成はしていない」でしょう。そこでなんらかの挑発活動を行う可能性はあります。しかし、北朝鮮の意向を見る限り、合同軍事演習を行ったとしても、南北首脳会談開催の蓋然性はあると考えます。

 それでは、北朝鮮が何を要求するか。支援として当面の食糧援助などのほかに、(1)開城(ケソン)工業団地の再開、(2)金剛山(クムガンサン)プロジェクトの実施などが考えられます。しかし、人道援助以外は国連安保理決議違反です。そもそも韓国は平昌五輪の時に、北朝鮮に対して数億円支出していますが、これも違反しているのです。南北会談を通じてどういう援助が行われるか注目しています。

――米朝首脳会談は実現するのでしょうか。

森本 会談の場所、議題は何か、どのようなチャンネルで、誰が随員になるのか、まだ何も決まっておりません。今後のシナリオは3つあります。

1.事前に話し合いをしたが、議題さえ合わず、双方の目的が合致しなかったため、首脳会談に至らない。
2.首脳会談は成立したが双方の立場が合致せず、引き続き、事務レベルで協議することとなり、長期化する。
3.北朝鮮が非核化を認め、廃棄措置のプロセスについて実務的に話し合いを続ける。

 まずアメリカ側の要求は、早期に検証可能な不可逆的な完全非核化です。一方、北朝鮮は、(1)アメリカによる北朝鮮の敵視政策の中止、(2)核保有国の認知、(3)在韓米軍の撤兵や今後の米韓合同演習中止・削減、(4)体制の保障、(5)休戦協定を平和協定に改定、(6)経済制裁の中止や経済援助の要請、(7)B-1、B-2のグアムからの撤去などを要求する可能性があります。

 シナリオ1で事前折衝がまったく折り合わなかった際は、北朝鮮としてはメリットがないとみて首脳会談を受け入れない可能性が十分あります。望ましいのはシナリオ3です。シナリオ1であれば北朝鮮は挑発活動を再開するでしょう。そうなると今度はアメリカが実力行使に出る。カギは南北首脳会談ではなく、米朝首脳会談にあるのです。ただ、マクマスター大統領補佐官が強硬派のボルトン元国連大使に代わることもあり、今後の政策にどのような影響があるのかも注目されます。

●韓国政府による“日本外し”

――日本の動向は?

森本 韓国特使団が北朝鮮で金委員長に面会して、聞いた話をアメリカや日本に説明しましたが、これは伝聞の情報が伝えられたものです。それは韓国が伝えたメッセージであって、北朝鮮が本気で非核化するかについてメッセージを出していない。そこで日米韓は、北朝鮮がどこまで真剣かを見極め、実際に、非核化のプロセスがとられるまでは、経済制裁の手綱を緩めるわけにはいかないということで、制裁と圧力を続けています。しかし、韓国政府には“日本外し”が見受けられる。この問題は米韓朝の3国で行い、日本を入れると複雑になるという判断が働いているようにみえます。

 日本の大事なポジションとしては、4月に安倍首相が訪米してトランプ大統領と日米首脳会談を開催します。日本としては同盟国の立場で、アメリカが北朝鮮に対して安易な妥協することのないよう、同盟国と緊密に連携しつつ、北朝鮮との交渉をすすめるよう求めることは重要です。

 アメリカは中間選挙を控え、対北政策の成果が必要ですので、功を焦る可能性があります。アメリカが、もし北朝鮮が非核化プロセスを約束し、核実験をしないという約束の見返りに、暗黙であれ、米国が印・パキスタンのように事実上の核保有国として認知し、在韓米軍を減らすなどの判断を下すことになれば大変なことになり、日本の役割は重要です。ですから、日米韓の3国の連携は依然として重要なのです

 日米首脳会談での安倍首相のメッセージには、大きな意味を持っています。今はその内容を見極めようとしている段階です。まずは、4月の南北首脳会談がどういうかたちで行われるかを注視して、すべてのプロセスがうまくいくと南北協議と米朝協議がすすむという可能性もありますが、どちらかが崩れれば、北朝鮮はまた、挑発活動のパターンに戻り、9月9日の建国記念日前後に、例年のごとく、核実験の実施に踏み切るシナリオもあり得ます。

 今までは夏に行われる米韓合同軍事演習に対してミサイルの発射を実施した例があるので、南北、米朝対話がスムーズに進むことを見極めることが必要です。しかし、今のところ実態としては北朝鮮の核・ミサイルがまったくく廃棄されているわけではなく、基本的に脅威が存在しているという事実に変化がないので、日本としては経済制裁や圧力の手を緩めず、引き続きこれを続けていくのが望ましいです。

――開催予定の日中韓首脳会談と、一部報道にある日朝首脳会談については?

森本 まず日中韓首脳会談については、中国の李克強首相の訪日は前から意向を示しておられ、今度は日本が議長国ですから日本政府としては5月に開催したい。その意味では安倍首相が平昌五輪に出席した意味は大きく、韓国の文大統領としては訪日のいいチャンスです。当然、朝鮮半島全体が議題に上がることになるでしょう。

 そして日朝首脳会談も米朝首脳会談が、いい雰囲気のなかで行われたら拉致問題解決のチャンスでもあります。トランプ大統領も拉致問題への関心は強く、国連で横田めぐみさんに言及したこともあります。これは安倍首相とトランプ大統領との首脳会談でも議題になるでしょう。初めから拉致問題の解決は議題にはなりませんが、北東アジアの雪解けの醸成が上がっていけば良いですし、自民党総裁選までに少なくとも協議できる態勢を実現したいと考えているのではないでしょうか。

●繰り返された韓国の誤りの歴史

――韓国の文在寅大領領は、米韓朝の3国首脳会談の可能性について言及しました。

森本 韓国の最大関心事は、6月の地方選挙です。平昌五輪の際に支持率が下がったので、韓国がリードして一気に朝鮮半島のイニシアティブを取り、決めようと判断し、前のめりになっています。一方、リスクも高いです。韓国から働きかけたとしても、何回か繰り返してきた誤りですが、北朝鮮に“いいところ”だけ取られることになる可能性があり、政権がレイムダックになった歴史もあります。

――中国、ロシアの考えは?

森本 中国は決して、金正恩体制と良い関係ではないです。しかし、北朝鮮の国家体制の崩壊はもとより、アメリカが軍事力を行使し、北朝鮮を崩壊させることは認められません。しかし今の段階で、南北対話と米朝対話が開始するなかで、不要なメッセージを発することで他国から非難を受けるのは避けたいので、今は静観しています。いずれにしても、朝鮮半島の将来が中国の国益になるような方向に進むことを優先させつつ、中国としてはイニシアティブを取るチャンスをずっと狙っていると考えています。

 次にロシアですが、アメリカが朝鮮半島情勢で主導権を握ってきたことを不快に思っています。常に北東アジアはロシアにとって出入り口であり、朝鮮半島はロシアの問題でもあり、北東アジア問題を解決する際、ロシアを外すことは受け入れられず、どちらかといえば米国が半島に軍事的に手を出すことを牽制する意味からも北朝鮮サイドに立っています。

 深刻な量ではありませんが、ロシアは北朝鮮にわずかな量の石油を供給しています。北朝鮮は、ロシアから支援を求めることは全体をバランス良く牽制する上で必要と考えているでしょう。ロシアも援助することで、北朝鮮問題に関与するポジション確保を狙っています。また、国連は北朝鮮が挑発活動を起こしていないので静観している状態です。
(構成=長井雄一朗/ライター、協力=森本敏/防衛大臣政策参与)