ハリウッドで表面化したセクハラ問題をきっかけに、SNSなどで性暴力被害者に連帯する「#metoo」運動が拡大。そして、あらゆるハラスメントの根絶、マイノリーティーの安全、平等を求めるセクハラ撲滅運動「TIME'S UP」も注目されるようになりました。そこで目を向けたいのは、一般人である女性が受けたセクハラ、パワハラについて。彼女たちが、様々なハラスメントにどう向き合ったのかを本連載では紹介していきます。

結愛さん(28歳・仮名・会社員)は、「男性から標的にされるのは生まれもった素質があると思う」と言います。彼女は東京の女子大付属の小学校から大学までエスカレーターで進級。父と兄、親類、教師以外の男性とまともに会話したのは、大学に入学するまでなかったそう。

「最初に男性と会話したのは、インカレ(他大学と交流する)サークルに、友達に誘われて食事会に行ったとき。20歳を超えた人はお酒を飲んでいたのですが、男の人は体も声も大きく、ぐいぐい距離を詰めてくるので、怖かった。それが私の最初の男性の印象です」

結愛さんは、そのときにある名門大学のイケメン男性から手首をつかまれ「ウチで飲もうよ」と誘われる。

「一瞬、言っている意味がわからなかったんですけれど、映画やドラマでの予備知識があったので、“これは恋愛っぽいことに誘われている”と感じました。でも私は18歳でしたし、両親が厳しく、門限もあったのでお断りしました。とにかく男性に慣れていなかったので、“やめてくださいー”と悲鳴を上げてしまったんです」

その声にその場がシーンとなり、2人は注目を集めてしまう。座がしらけた瞬間、男性が結愛さんに「ブース、デカい声出してるんじゃねえよ」と吐き捨てる。

「男性経験でいったら、生まれたての雛のようなものなのに、いきなり暴力をふるわれたような気分でした。あのとき、恥ずかしさと悔しさと後悔で、頭の芯がキューッとなって、動悸が激しくなってしまい……あのときから、男性に対してビクビクするようになってしまったんです」

容姿について言われたことも衝撃だった。自分では、「美人ではないけれど、不美人ではないと思う」と思っており、顔立ちはさておき、肌と髪の美しさには自信があった。

「女性から男性に対して、容姿を罵倒する言葉はありません。これって不公平ですよね。当時は“ブサメン”なんて言葉はなかったし、“デブ”や“豚”も“ブス”とはニュアンスが違う。“ブス”って全人格を否定するほど破壊力がある言葉だと感じます。また、デブは努力で改善できるけれど、ブスは生まれ持ったもので、がんばってもどうにかなるものでもない。その日はショックで何駅か乗り過ごしてしまい、門限ギリギリに家に帰りました」

傷ついて帰って来た娘に対して、父親は一喝する

帰宅した結愛さんに対して、父親は「何をしてたんだ」と怒鳴った。飲み会でのあらましを話すと「チャラついてるからだ、色気づきやがって。気をつけろ!」と続け、母親もかばってくれなかった。

「そう言われて自分のファッションを見ると、イエローのニットに花柄のヒラヒラスカートをはいている。髪を巻いてピンク色のボストンバッグを合わせて、明らかにモテを狙ったファッションをしていました。女の子っぽい格好がもともと好きなのですが、男性がいるからと、張り切って準備したんです。それを見ながら母は苦々しく思い、父に報告していたみたいです。でも、“ブス”と言われて傷ついて帰ってきた瞬間に、父から“色気づいて”と怒鳴らたら逃げ場がないですよね」

父や母が結愛さんを心配するのには、理由があった。

「私には2歳上の姉がいるのですが、この姉は自立心が強く、私と同じ小学校に行ったのですが4年生のときに“私はこの学校は嫌だ”と強引に地元の小学校に転校。高校まで公立で過ごし、それからアメリカに行ってしまいほとんど帰ってきません。だから妹の私を余計にかまうのだと思います」

加えて、結愛さんは通学時に痴漢に遭ったり、変な男性から後をつけられたことも何度もあった。

「おそらく、両親は私が男性の標的になりやすいことを見抜いていたのでしょう。中学校卒業まで電車通学は共働きの両親のどちらかと一緒でした。門限が厳しくなったのも、高校の時に知らない男性に体液をかけられ、警察沙汰になってからです」

結愛さんは確かに美人ではない。しかし、菩薩像のような柔和な表情と、ふっくらとした体形と、甘めのファッションは男性にウケがいい。真っ白でぽちゃぽちゃした手に、花モチーフの華奢な指輪をしており、それもかわいらしい。ある種の男性には“俺のことを受けとめてくれそう”であり、“俺のことを頼ってくれそう”と思い込んでしまうこともわかる。

「だから、大学に入るまでは男性を遠ざけていたし、怖かった。それでも世の中の半分は男ですから避けられませんよね。わざとぶつかって来るおじさん。友達と話していると“うるせえ!迷惑だ”と怒鳴るおじいさん、体がぶつかると舌打ちするお兄さん。電車で走り回る小学生の男の子……多くの男性を敵だと思って生きてきました。また、こちらがビクビクすると、相手はマウンティングしてくるのです」

結愛さんは派手なタイプよりも、地味な女性の方が、性的な嫌がらせの被害に遭いやすいと感じている。

姉に「男性の格好をして街を歩け」と言われ、世界が激変……〜その2〜に続きます。