ワークショップにて用いられたソニーのMESHは、小さなブロックの形をした電子タグで、それぞれ動きセンサー、ライト、ボタン、明るさセンサー、温度センサーなどのさまざまな機能を持つ。

 MESH専用アプリでプログラミング言語を知らなくても、簡単に機能を組み合わせることができる。例えば動きセンサーが特定の動きを感知したら、スマートフォンへ通知がいくなど、タグの組み合わせによって無限の可能性が生まれる。

 ワークショップは約6時間という短い時間ながら、生徒たちはプロトタイプを作成するまで力を振り絞った。あるグループは「掃除の作業自体を楽しくする」という課題を設定、ほうきを動かすたびに拍手の音や、ギターの音、歌声などが鳴り、掃除することでバンド演奏ができるというアイデアを発案。

 ほうきの柄の部分に動きセンサーのタグを取り付け、床を掃くたびに音が鳴る仕組みを構築した。実演の際、きれいな演奏にはならなかったが会場を大いに盛り上げた。

奈良で進む教員のICT活用
 なぜ高大連携WGに奈良県教育委員会が所属しているのか。なぜ奈良県の高校で今回のワークショップが開催されたのか。14年、ICT活用が遅れている奈良県の県立高校にアドビのツールが全面導入されたことに遡る。

 文科省の「平成25年度 都道府県別教員のICT活用指導力の状況(全校種)」の調査結果で、奈良県は最下位に。この結果に危機感を抱いた奈良県教育委員会は、アドビとクリエイター向けプロツールであるCreative Cloudの包括ライセンス契約を締結。県立校の教員がアドビのソフトウェアを自由に活用できる環境を整備した。
 
 そして現在、アドビとのつながりをもとに、教育行政の立場として高大連携WGに参画し、授業レシピを実践する場を提供している。

 アドビ教育市場営業部担当部長の楠藤倫太郎氏は、「子どもたちに新しい技術に触れてもらい、アイデアを直感的にカタチにできる、新たなものづくりの楽しさを知ってもらいたい。子どもたちが感じている、ものづくりやICTに対するハードルを取り払う。そのためにはとにかく体験の場を増やしたいので、教育行政が参画している意義は大きい」と話す。

 また、奈良県教育委員会は「教育エヴァンジェリスト」というICT活用の知見を教育現場に伝えていくポジションを設置。今回のワークショップにもエヴァンジェリストの方々が参加している。

 エヴァンジェリストの松下征悟氏は、磯城野高校で農業を専門科目で教えている。「情報教育の授業だけではなく、科学や社会、畜農などすべての授業でICTを活用した授業を展開できるようにすることが目標」と松下氏。

 SFC研究所 准教授・高大連携教育WGリーダーの中澤仁氏も「奈良県と私たちが目指しているのは、ICT教育ではなくICT“活用”教育」と語る。情報という授業でICTについて教えるのは当たり前。全ての授業でICTを活用して教育効果を高めるのが狙いだ。

 ワークショップのプログラムが終了後、視察に来ていた教職員とエヴァンジェリストによる研修会が開かれた。プログラムの進め方の改善点や、学校の授業にどう取り入れていくかなど、ワークショップから見えてきたことを話し合った。

 奈良県では今回のワークショップのような実践を定期的に開き、子どもたちの体験を増やすと同時に、教員の研修と授業のブラッシュアップを進めていく。

(文=大森翔平)