佐川宣寿前国税庁長官(中央)から今度は具体的な証言が引き出せるのか(写真:共同)

政権を揺るがす「森友政局」は、国会での27日の佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問が、当面、最大のターニングポイントとなる。前代未聞の財務省による公文書改ざん事件を、「誰が」「何のため」に行ったかが明確になれば、国民が求める全容解明につながり、「政権への影響度」も測れるからだ。

喚問では与野党がそれぞれの立場から、安倍晋三首相の「関係していたら議員も辞める」という答弁との整合性や、森友学園に深入りしていた昭恵首相夫人についての"忖度(そんたく)"の有無などを、あの手この手で追及する見通し。ただ、大阪地検の捜査が進行中のため、佐川氏が肝心な部分について「刑事訴追の恐れがある」と証言を拒否することも想定されており、野党側の「喚問力」も厳しく問われることになる。

佐川氏証人喚問は、19日の与野党合意を受けて、参議院予算委員会が20日、衆議院予算委員会が22日に、全会一致で議決した。それぞれ27日の午前と午後に実施する。森友学園への国有地売却に関する財務省決裁文書の改ざん事件と安倍政権との関わりを追及する野党側は、政府が「改ざんの最終責任者」とした佐川氏だけでなく、売却交渉が行われた当時の担当者だった財務省幹部や、首相答弁の調整役とされる今井尚哉首相秘書官(政務)、さらには籠池泰典前森友学園理事長や諄子夫人と交際していた昭恵首相夫人の喚問も要求しているが、与党は「改ざん問題と無関係」と拒否する方針だ。

野党は約2時間半、連係プレーが不可欠だ

森友問題での証人喚問は、ちょうど1年前の籠池前理事長以来。参院予算委は27日午前9時半から、衆院予算委は同午後2時から、それぞれ2時間と2時間10分という時間設定で佐川氏の証言を求める。衆参ともまず予算委員長が喚問し、続いて与党、野党の順でそれぞれの立場から追及する段取りだ。持ち時間は衆院が与野党各1時間、参院は自民30分、野党約90分になる予定だ。

最大の焦点は、改ざんを指示した人物や動機、首相官邸など政治の関与の有無がどこまで明らかになるかだ。衆参予算委はそれぞれ、(1)改ざんに至った経緯と理由、(2)改ざんを指示した人物、(3)政治的関与の有無、(4)関連するその他の事項、について証言を求めることを決めた。先攻の与党は「改ざんは佐川氏主導で、財務省が自らの判断で行った」とのストーリーに沿った証言を引き出したい考え。これに対し、後攻となる野党は、立憲民主党など6党が「政治的関与の有無」を軸に佐川氏を厳しく問い詰めることで、さらなる証人喚問につなげる戦略だ。

政府与党は、27日の佐川氏喚問で「森友政局」に一定の区切りをつけ、後半国会での審議混乱を回避したい考え。首相は20日の山口那津男公明党代表との与党党首会談で「国民の信頼を回復できるよう、政府として誠実にしっかり対応したい」と改ざん事件の全容解明に努力する姿勢を強調してみせた。

一方、22日の自民党各派閥の定例会合では、安倍政権の緊張感欠如を指摘する声が相次いだ。額賀派の額賀福志郎会長は「行政や政治に対する信頼が損なわれており、来年の統一地方選や参院選などにも響く」と危機意識を露わにし、岸田派の会合では安倍昭恵首相夫人に「慎重な行動」を求める声が出た。

また、和田政宗参院議員が参院予算委員会の集中審議で太田充理財局長に「安倍政権をおとしめるため、意図的に変な答弁をしているのでないか」(後に議事録から削除)と述べたことについては、二階派の伊吹文明元衆院議長が「非常に傲慢。国会議員になれば何でもできると思っているのが支持率急落の原因だ」と指弾。さらに石破派の石破茂元幹事長は、文部科学省が名古屋市教育委員会に前川喜平前事務次官の授業内容を報告するよう求めていた問題に言及し、「あってはならない対応」と厳しく批判した。

自民党各派は22日夜の事務総長会議で「党内で足の引っ張り合いなどしないで、今は一致結束して安倍政権を支える」ことを確認したが、証人喚問を前に、党内のざわめきと動揺は収まりそうもない。

これに対し、野党側は「政権打倒のチャンス到来」(立憲民主党)と勢いづく。立憲民主党の枝野幸男代表は「証人喚問は入り口にすぎない。権力の私物化が明らかになっており、本質的な原因にたどり着くよう努めたい」と語り、共産党の志位和夫委員長は「(佐川氏は)改ざんが誰の指示で、どういう目的でやられたか、真実を語っていただきたい」と強調した。政界では佐川氏の「証言拒否」がささやかれるだけに、野党側からは「佐川さん、頑張れ」(辻元清美立憲民主党国対委員長)などと佐川氏の"全面自供"に期待する声も相次ぐ。

野党6党は事前の「籠池氏接見」で準備

そこで問われるのが野党の喚問戦略だ。これまでの森友問題での国会審議では、立憲民主、希望、民進の3党の主導権争いが目立ち、予算委などでの疑惑追及も「尻切れトンボ」になりがちだった。このため、今回は政権寄りの日本維新の会を除く野党6党が事前調整して「6党一体となっての喚問」(立憲民主党)を目指している。

ただ、与党喚問で佐川氏が「理財局の判断で公文書書き換えを指示した」などと政権側のシナリオに沿った証言をした場合、野党側がそれを覆す喚問ができるかどうかがポイントだ。政権への打撃を避けたい与党は、秘密裏に財務省側と綿密な打ち合わせして喚問に臨むとみられており、野党が成果をあげるためには「政府与党内調整」と「刑事訴追のおそれ」という2つの大きな壁を乗り越える必要がある。

野党側がその有力な材料と位置付けるのが「籠池氏の言葉」だ。立憲民主など野党6党は勾留中の籠池氏との面会を大阪地裁に申請して認められたため、23日午後に立憲民主、希望、共産各党の代表者3氏が大阪拘置所で45分間、接見した。

代表者3氏によると、籠池氏は決裁文書から削除された昭恵夫人の「いい土地ですから、前に進めてください」との発言について「確かにそういうふうにおっしゃっていた。間違いない」と語った。また、国有地に関する交渉については、昭恵夫人や夫人付き職員に「こういう状況になっています」などと逐一報告していたと説明した。さらに財務省による文書改ざんについては「まったく知らない。びっくりした」と述べた。

これを踏まえ、週明けの26日も民進、自由、社民各党の代表者3氏が同様の接見に臨む。6党は一連の接見内容をすり合わせた上で、具体的な「籠池氏の言葉」として佐川氏に突き付け、同氏の国会答弁や証言内容との食い違いなどを浮き彫りにする戦略だ。

籠池氏は昨年7月末に詐欺容疑で逮捕されて以降、弁護人以外とは面会できない状態が続いてきたため、今回の野党の接見は弁護士以外で初めてとなる。各党は「籠池氏の主張を真摯(しんし)に受け止めて分析し、証人喚問につなげていきたい」(希望の党)などとしている。与党側は「詐欺師が何を言っても客観的に信用されるはずがない」(自民国対)とけん制するが、「新事実でも暴露されれば、佐川氏の証言にも影響が出る」(同)と不安も隠さない。

注目されるのは各党の喚問者の顔ぶれだ。特に、野党6党の喚問者は「政権攻撃のための重大証言を引き出す役割」(希望の党)が求められている。当然、各党とも検事や弁護士出身、さらには官僚OBの論客を選ぶことが予想される。特に、午前中の参院予算委の喚問が全体の流れを左右するが、自民党はトップバッター候補として丸川珠代前五輪担当相の名前を挙げる。東大卒の民放アナウンサー出身で弁が立ち、容姿に似合わぬ鋭い突っ込みで自民党の追及ぶりをアピールする作戦だ。これに対し、参院で野党側のトップバッターになるのは民進党で、大塚耕平同党代表や検事出身の小川敏夫同党参院議員会長が浮上している。

メディアが注目するのはやはり「絵になる喚問者」(民放テレビ幹部)だ。とくに、国会審議での"首相の天敵"と位置付けられている女性議員たちの出番に期待が集まる。具体的には、立憲民主党国対委員長の辻元清美氏、同参院国対委員長の蓮舫氏、社民党の福島瑞穂副党首(参院)らだ。辻元、蓮舫両氏については国対委員長に起用した枝野代表が「安倍シフト」と解説した経緯もあり、「持ち前の鋭い突っ込みが、鉄仮面の佐川氏にとっても脅威になる」(立憲民主幹部)との声が広がる。

一方、立憲民主が野党の一番手となる衆院の喚問では、同党の枝野代表とともに「女性の切り札」と期待されていたのが、2年前に「保育園落ちた、日本死ね!」で首相を追い詰めた山尾志桜里氏だ。ところが、22日発売の『週刊文春』に、半年前の「ダブル不倫疑惑」の続報として、山尾氏との親密交際が指摘された男性弁護士の元妻の手記が、特ダネとして掲載された。「山尾志桜里さん、夫と子供を返して」との大見出しで、不倫疑惑の果てに離婚に追い込まれた元妻・A子さんの「2人が夫婦の寝室で過ごしたことに、立ち直れないほどのショックを受け…」などの赤裸々な告白が暴露されている。

山尾氏は不倫関係を否定して昨年10月の衆院選に無所属で出馬して当選、その後、立憲民主党に入党して活動している。もし今回、喚問者として「佐川氏のウソ」を暴こうとすれば、与党側から「喚問する資格があるのか」と野次られ、テレビのワイドショーなどでも面白おかしく取り上げられるのは避けられないだけに、立憲民主党も二の足を踏んでいる。

「本当のことを話せば幸せに」と呼びかける前川氏

27日の佐川氏喚問が決まったことで、国会での与野党攻防やメディアの政局報道も「すべて喚問の結果待ち」となりつつある。しかし、過去の証人喚問劇でも「真相解明どころかかえって疑惑が深まった」(自民長老)というほろ苦い結末が大半だった。現在は鎮火している加計学園問題での「爆弾証言」で政権を揺さぶった前川喜平前文科事務次官は佐川氏に対し、「本当のことを話すと幸せになれる」と呼びかける。枝野代表も街頭演説で「佐川さん、国民のために証言してくれ」と絶叫して聴衆の大喝采を浴びている。

「誰が、何の目的で」、という多くの国民の疑問に、公僕だった佐川氏が真摯に証言することができるのか。「刑事訴追のおそれ」という壁に遮られて、これまで何回も繰り返された「通過儀礼の政治ショー」に終わるようなら、国民の政治不信の高まりが政権を直撃し、「日本の民主主義が問われる事態」(自民長老)にもなりうる。