小松製作所本社(「Wikipedia」より)

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 脱中国、脱化石燃料、脱ハードなど、“脱”という表現をよく見かける。この背景には、新しい市場の開拓、原材料の調達、ビジネスモデルの構築を目指す企業の取り組みがある。

 建設機械のように中国でのインフラ投資や不動産開発から業績が左右されやすい企業の経営者にとって、中国市場から撤退したり、事業規模の縮小を検討すること自体が、かなり難しいはずだ。世界の自動車業界の経営戦略が中国政府の見解によって大きく転換するように、中国の影響は大きい。

“脱中国”の現実的な対応は、収益源の分散だろう。地理的、製品・サービスの観点から事業ポートフォリオの分散を図ることで業績の安定と成長を目指す。その結果として、業績に占める中国の割合を低下させることができれば、中国での事業リスクを抑制することは理論上、可能だ。そのための取り組みを進められるか否かが、競争力を左右するだろう。

 この発想を実行している企業のひとつに、国内建機最大手の小松製作所(コマツ)がある。同社は、中国を成長期待の高い戦略市場と位置づけている。その需要をうまく取り込みつつ、収益性を高めるために同社はICT(情報通信技術)関連の事業を強化し、新しいビジネスモデルを構築しようとしている。

●中国の需要を取り込んで成長したコマツ

 コマツの業績を振り返ると、中国ビジネスの重要性がよくわかる。2000年代以降、コマツをはじめとする建設機械メーカーの業績は、中国の経済成長にけん引されてきた。当時、中国経済は繊維などを中心とする工業化の初期段階にあり、徐々に重化学工業の発展が進んだ。それに伴い、インフラ投資や不動産開発が進み、オーストラリアなどの資源国では鉄鉱石などの採掘活動が拡大した。その需要を取り込んで、コマツの業績は拡大した。

 リーマンショック後の世界的な景気後退のなか、中国政府は4兆元(当時の邦貨換算額で57兆円程度)の財政出動を決定し、インフラ開発などに取り組んだ。この対策は2011年半ばごろまで中国経済の回復を支えた。この結果、コマツの中国ビジネスのウェイトが高まった。2005年度末、同社の売上高の4%程度が中国で獲得されていた。2008年度にその割合は8%を超え、2011年度には13%を超えた。この時点で、コマツの中国ビジネスは、米欧市場での事業を上回る規模にまで成長した。

 その後、コマツの中国ビジネスは成長のドライバーから、足かせに転じた。リーマンショック後の景気刺激策が過剰な生産能力の蓄積につながったためだ。2011年、中国の三一重工が増産・販売強化を進めたことなどを受けて、中国の油圧ショベルカー市場でコマツは首位から陥落した。それ以降、コマツは中国メーカーの攻勢に押されているとの見方が増え始めた。

 中国市場でのシェア低下は、コマツの業績に対する警戒につながった。2011年半ばから2016年半ばまでの同社の株価は、おおむね1500円から3000円の範囲で推移してきた。市場参加者は長期的な成長の可能性よりも、目先の中国経済の動向などを判断の尺度としてコマツの経営状況を評価してきたといえる。

●建機不況を耐え凌いだコマツ
 
 2011年度末に売上高の20%以上を占めるに至ったコマツの中国事業は、2012年度以降、急速に低下した。2013年度末、コマツ全体の売上高に占める中国の割合は10%を下回り、2014年度には、中国での売上高が前年度から32%減少するなど、想定以上に需要が落ち込んだ。これは中国での建機不況といわれている。

 中国での建機需要が落ち込むなか、景気回復に伴う米国や国内の売り上げ増加が同社の業績を支えた。2016年半ばごろからは共産党大会を控え、中国政府が景気刺激のためにインフラ開発などを実施したことが建機需要の回復につながった。

 この結果、本年1月にコマツの株価は最高値を更新した。対照的に、一時、中国脅威論ともてはやされた三一や中連重科など中国企業の株価は、右肩下がりのトレンドをたどっている。無人大型ダンプトラックの運行システムの実用化など、コマツの技術が評価されてきたといってよいだろう。

 同時に、コマツのライバル企業である米キャタピラーの株価も、本年1月に最高値を更新した。キャタピラーの業績も中国の建機需要の持ち直しに支えられた部分が大きい。リーマンショック後、米国の景気回復が世界経済を支え、そのなかで中国経済も持ち直し安定してきた。この点で、多くの建機メーカーの業績は、個社要因としての技術力だけでなく、世界経済全体の景気循環によって持ち上げられた部分もある。

 景気が持ち直し需要が上向く局面では、多くの企業の業績は拡大する。それが自然だ。反対に、景気が減速し、需要が低迷した時こそ、経営戦略の真価が問われる。米国の景気は徐々にピークに近づいていると考えられる。また、中国経済の先行きにも不透明な部分がある。今後も長期的に建機需要が増加トレンドをたどることは想定しづらい。新しい収益源を確保したり、付加価値の高い商品を創出できるかが競争を左右するだろう。

●新しいビジネスモデルに向けた取り組み
 
 そのためにコマツが重視してきたのが、ICT事業だ。コマツは、情報通信技術を活用して、生産性を高めること、従来にはなかったビジネスを生み出すことに取り組んでいる。実際に同社の取り組みが実社会に広がると、建機メーカーへのイメージが大きく変わるだろう。

 1998年にコマツは盗難防止などを目的としたGPSシステム「KOMTRAX(コムトラックス)」をオプションで装備し始めた。2001年にはGPSを活用して建機の稼働状況などに関するデータを収集できることから、コムトラックスは標準装備化された。これはモノがインターネットとつながるIoT(モノのインターネット化)の先駆け的な取り組みだ。

 その効果として、コストの削減が期待される。建機の稼働状況をリアルタイムで把握することは、盗難の防止だけでなく、適切な保守・点検のタイミングの把握など、経営効率の向上につながる。過剰在庫の削減などはその一例だ。その取り組みを強化することで、企業は従来以上にコストを削減し、経営資源の効率的な配分を通した付加価値の創出を行うことができるようになるだろう。利益水準の向上、その安定性の引き上げだけでなく、株主への価値還元を強化するためにも重要だ。

 また、省人化など新しい事業の開拓にもICTは欠かせない。建設や鉱山開発の現場は、労働力確保の問題や従業員の安全性確保の点から、省人化ニーズの高い分野といえる。少子高齢化が進む地域であれば、なおさらだろう。

 それに加えてコマツは建設現場の環境、機器、資材、労働力などをICTによってコネクトし、管理するためのソリューションビジネス(スマートコンストラクション)にも取り組んでいる。将来的には、建機の製造・メンテナンスに加え、建設や進捗管理などに関するコンサルティングサービスなどが同社の収益を支える可能性もある。ICTが同社の中国ビジネスや、競争優位性にどう影響するか興味深い。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)