俗嬢として働く年数が長い女性ほど、業界から抜け出せない(写真:リディラバジャーナル)

「50歳過ぎるとどうなっちゃうのかな。先輩は、連絡がつかなくて、何やってるかも分からないです。めちゃくちゃ格安の店に一時期いたってのは知ってるんですけれども。あれだけ稼いでて、ついにあそこ行ったのかって、みんな言うから」


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39歳で現役ソープ嬢のリエさん(仮名)は、売れっ子だった先輩女性について振り返りながら、自身の将来について漠然とした不安を打ち明けました。

今回の記事で編集部が注目したのは「風俗嬢を辞めるとき」。性風俗業界に見られるのは、風俗嬢として働く年数が長い女性ほど、業界から抜け出せないという問題です。

「風俗で働くと共通してヤバイことは、みんな年をとると辞めざるを得なくなることです。若いころ風俗で稼げていても貯金をしていない人も多く、辞めたあと生きていけないと大変なので、風俗行くと引退のときに結構困るんですね」

一般社団法人GrowAsPeople(以下GAP・東京都)は、昼の仕事に転職する風俗嬢のサポートをしています。代表の角間惇一郎さんはこう語ります。

「みんな、なんで働いているのかという入口の理由を聞くんですよね。でも実際に現場にいると、そんなにドラマチックな理由を持った人っていうのはあまりいないですよ。自分たちが一番重視していることは、出口で女性が抱える現実的な悩み。風俗をやるってことは必ず辞める瞬間があるんです」

性風俗を辞められる人、辞められない人

第一回「99.99999%がお金のため。そのくらい風俗嬢はきつい仕事です」では、風俗嬢を始める理由のほとんどは「お金のため」であることを見てきました。一方で、彼女たちが辞めていくきっかけは多種多様。


GAP代表・角間惇一郎さん(写真:GAP提供)

例えば、稼ぐことができず「自分には向いていない」とすぐに業界を出ていく人もいれば、大学卒業や結婚などのライフイベントをきっかけに辞める人もいます。

独立や留学など将来のための目標貯金額を達成したり、マッサージやネイルアートの資格を取得したりなど、次のステップへの準備を整えて出て行く人もいます。

「目標意識が高い人というのはすぐ辞める傾向があるんですよね」と語るのは、風俗嬢の生活・法律相談サービスを運営する一般社団法人ホワイトハンズ(以下ホワイトハンズ・新潟県)代表理事の坂爪真吾さん。

また、坂爪さんによると「プロ意識の高い人は、講師業や執筆業をすることも多いですね。『稼げる風俗嬢講座』など」。

風俗嬢としての経験を生かし、風俗嬢講師や経営側へ転向するケースもあるのです。

風俗を辞められる人は、きっかけがあった人

これまでの話をまとめると、風俗を辞められる人は、


セミナー講師を務める現役ソープ嬢のあや乃さん(写真:あや乃さん提供)

・風俗では稼げなかった

・貯金ができたり資格を取得したりなど目標を達成した

・ライフイベントがあった

などのきっかけがあった人々。

そして、そのタイミングをつかめなかった人が、次のステップへ進めないまま歳をとっても業界に残ります。

ホワイトハンズの坂爪さんは、業界で働く風俗嬢についてこう語ります。

「途中で結婚とかライフイベントがあってずばっと辞めるか、にっちもさっちもいかなくなるまでダラダラ続けるか」

取材の際に関係者や風俗嬢当人が異口同音に口にしたのは、風俗を「ダラダラやってる」「ズルズル続けてる」というネガティブな響き。

風俗作家の吉岡優一郎さんは、「40歳になってもズルズルと風俗をやってて辞められずに悩むのは、典型的な人」と表現します。


(写真:リディラバジャーナル)

稼げているうちは良いのですが、歳をとればいつ稼げなくなるかわかりません。角間さんは、いざ稼げなくなったときに、「性風俗から昼の仕事へのシフト」がスムーズにいかないことを危惧しています。

風俗嬢に引退はない?

風俗を辞められないという状況は、店を辞められないという話ではありません。実は、一度業界を去っても、また戻ってくることが多いのは、性風俗業界の特徴のひとつです。

「貯金ができたからと辞める人がいるけれど、基本的にすぐ戻ってくるんですよ。資格に飛びつく人もいるけれど、やはり戻ってくる」

こう語るのは、GAPの角間さん。ソープ嬢リエさんも、いわゆる“出戻り”についてこう話します。

「友達は、結婚して子ども産んで、また戻って来た。旦那はいるけど、旦那の給料じゃ生活できないからって」

年齢層が高い風俗嬢はいわゆる「熟女」店で働くことがありますが、そのほとんどはこれまでに性風俗で働いたことのある人という調査もあります。

ホワイトハンズの坂爪さんは、著書『性風俗のいびつな現場』(筑摩書房)で、40代以上の熟女専門を売りにした、とある風俗店の面接にやってくる女性たちのうち、8割以上が業界経験者であると明かしています。何らかのきっかけで業界に戻ってきた女性や、他店で売れなくなった風俗嬢が、「熟女」を売りにした店に流入してくるケースが多いのです。

性風俗業界に詳しいノンフィクション作家の吉岡優一郎さんは、「(性風俗業界に)戻っても何百万も稼げると思ってしまう」と心境を分析しています。


ノンフィクション作家の吉岡優一郎さん。これまでに300人以上の風俗嬢にインタビューをしています(写真:吉岡さん提供)

「引退ってないんでしょうね、風俗ってね。プロレスラーも一度やめてもまた戻ってくる。風俗嬢とプロレスラーは引退はないというのが持論」

元風俗嬢で作家の酒井あゆみさんは、『売春論』(河出書房新社)の中で、風俗嬢について「麻薬性がある職業だと思います」と述べています。

また、GAPの角間さんは、「そもそも辞めるという概念がない」と性風俗産業特有の働き方に言及しました。

「なんとなくキャスト(風俗嬢)として登録して、なんとなく働いて、気づいたらいなくなっている。登録制なので、ふらっと帰ってくることができる」

「プロレスラーと風俗嬢に引退はない」と語ったノンフィクション作家の吉岡さんと同様に、角間さんは「アスリートと風俗やっている方って本当に近くて」と話します。一方でその引退時期に関しては、吉岡さんと逆の指摘をします。

「風俗が他の仕事と違うのは、職業寿命が短いということ。これって、引退が体力勝負であるスポーツ選手に近いんですよね」

業界を抜け出せない要因は

さらに、前出のノンフィクション作家・吉岡さんは、日払い制度は風俗嬢が貯金をする習慣がつかず業界を抜け出せない要因になっていると指摘しています。

「居心地が良すぎる。今日1万円使っちゃっても、どうせ明日また日払いで1万円入ってくるから。毎日貯めれば月30万円は貯まるのに、やっぱり貯めてない子は多い」

性風俗業界の「戻りやすさ」について、ホワイトハンズの坂爪さんは、同じく働き方のシステムに触れました。

「風俗って完全自由出勤で日払いっていう特徴がありますけれど、それに近いものがもっと現実世界(非性風俗・水商売業界)にあればいい」

性風俗業界は、「昼の社会」にない、女性にとって「働きやすく居心地の良い」労働環境を提供しているといえます。しかしGAPの角間さんが指摘するように、風俗嬢は「次に行かなければいけない仕事」。

貯金ができていない女性は少なくなく、それが転職に踏み切れない大きな要因の一つです。次回は、風俗嬢の多くはそもそもどうしてお金が貯められないのか、その構造を見ていきます。

【まとめ】

・風俗嬢を辞めていくタイプは、稼げない、結婚、目標達成など他に選択肢ができた人。そうしたきっかけがなかった人は、業界に残りがち。

・一度辞めても、業界に戻っていく女性も多い。

・風俗嬢の職業寿命は短い。いつ稼げなくなるかわからない職業であり、歳をとってから生計が立てられなくなってしまうことが問題視されている。

【問いかけ】

今の仕事から得ている収入が、40歳から下がるとしたらあなたはどうします(していました)か。

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