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ディープラーニングに代表される先進的なAI(人工知能)技術を、軍事利用する動きが加速している。

米国防総省は「プロジェクト・メイブン」という特別チームを結成し、グーグルの協力を仰いで、紛争地帯などに配備する監視システムを僅か半年足らずの間に構築した。

しかし、グーグルのような大手IT企業が蓄えた高度技術や、迅速な経営スタイルが軍事利用されることには、倫理的な問題も指摘されている。

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国防関係のビッグデータ解析を自動化

今から約1年前の2017年4月某日、米国防総省のロバート・ワーク副長官(当時)は短い通知文書をしたため、素早く省内に配布した。

https://www.govexec.com/media/gbc/docs/pdfs_edit/establishment_of_the_awcft_project_maven.pdf

そこには近年、急激に国力を増強している中国やロシアなど競合国に対抗するため、国防総省がAI(人工知能)の軍事利用を加速する特別チームを結成する旨が記されていた。

この特別チームの正式名称は「Algorithmic Warfare Cross-Functional Team(AWCFT)」だが、むしろ「プロジェクト・メイブン(Project Maven)」という通称で、よく知られるようになった。

その使命は、最先端のAI技術「ディープラーニング」を使って、国防関係の膨大なビッグデータ解析を自動化することだ。

米国防総省のデータベースには、スパイ衛星が撮影する紛争地帯の画像情報や、諜報部門からのインテリジェンスなど生データが時々刻々と蓄積されていく。仮にこれら全てを人手で分析しようとしたなら、それは同省の職員全員が一生かけても処理しきれない程の分量に達している。

そこでプロジェクト・メイブンでは、人間とは桁違いのスピードでビッグデータを分析できるディープラーニングに、その処理を任せることにしたのだ。

半年以内に実戦配備せよ

こうした技術的なアドバンテージを追求する一方で、プロジェクトの運営方針にもスピードを求めている。その背景には、以下のように「遅々として進まない軍事改革」への反省もある。

米国防総省は2012年に発令した「国防総省指令3000.09」を契機に、「第三の軍事刷新(3rd Offset)」と呼ばれる抜本的な軍事改革に着手。自律的なミサイルやドローンに代表される、「AI」と「ロボティクス」を次世代兵力の要にしようとしている。

ところが、既に研究開発費だけでも74億ドル(約8000億円)もの巨費を投じたにもかかわらず、非効率な官僚組織の弊害などによって、それらの実用化はなかなか進まない。一方で、米国の動きに刺激された中国やロシアは、最近、AI開発を含む新型兵器の増強に注力し始めた。冒頭の通知文書の中にも、こうした状況に対するワーク副長官の苛立ちが滲み出ている。

そこでプロジェクト・メイブンでは、「特別チームの発足から6ヵ月以内に、何らかの研究成果を戦場で実用化する」という異例の目標を設けた。

同チームが正式に発足したのは2017年7月。僅か6名のメンバーで構成されたプロジェクト・メイブンは、国防総省内の専門家や軍事産業の関係者よりも、むしろシリコンバレーに代表される民間のIT企業と連携し、そのAIに関する先進技術や効率的なマネージメント・スタイルを取り入れることによって、プロジェクトをとにかく前に進めることを最優先した。

彼らが手始めに取り組んだのは、イラクやシリアなど紛争地帯の上空から「IS(イスラム国)」を監視する、ドローンが撮影したビデオ映像の解析だった。これを迅速に成し遂げるため、特別チームは米グーグル(アルファベット)に協力を求めた。

彼らは共同で、グーグルの「TensorFlow API」と呼ばれるフレームワーク(ディープラーニング・システムを構築するための開発基盤)を利用し、僅か数ヵ月で監視用の画像解析ツールを構築。これは2017年中に世界各地の紛争地帯に導入され、その上空を飛ぶ「ScanEagle」や「MQ-9 Reaper」など、米軍ドローンが撮影したIS関連映像の分析に活用された。

つまり「半年以内に実戦配備する」という当初の目標を達成したのだ。

この取り組みは国防総省内で非常に高い評価を受けた。その結果、今回のドローン撮影映像の分析にとどまらず、今後は同省内で同時進行する数多くのプロジェクトに、今回と同じような方式が採用される見方が強まっている。

グーグルの従業員は反発

が、その一方で、グーグルのような民間企業の協力を仰ぐことには、倫理的な懸念も残されている。

実際、当のグーグル社内では一部従業員から、自分達の研究成果が軍事利用されたことに反発する声が聞かれるという。

もっとも国防総省やグーグルの公式見解では、「今回の画像認識システムはあくまでビッグデータの解析が目的であり、武器を使用する軍事利用には当たらない」としているが、いずれはそうした軍事用途にも応用される可能性もある(たとえばドローンのカメラが撮影した映像からテロリストが発見されたら、即座にこれを銃撃するといった用途)。これをグーグル従業員らは懸念しているようだ。

他方、グーグルがなぜ今回のプロジェクト・メイブンに協力したのか、その理由は不明だ。

かつてグーグルは、自ら買収した日本のロボット・メーカー「シャフト」が、(米国防総省傘下の)DARPA主催のロボット競技会に出場する予定をキャンセルしたことがある。このためグーグルは軍需ビジネスには消極的と見られていた。

そのグーグルが国防総省のプロジェクトに協力したとなると、(理由はひとまず置いて)「今後、同様の動きが他の大手IT企業にも広がるのではないか」という懸念も生じている。

「自動運転」「医療」「兵器」――「雇用崩壊」「シンギュラリティ」以前に、もっと深刻で危機的な状況が身近に迫っている