お互いに居心地がよく、尊敬し合い、支え合うことができる人と結婚したほうがいい(イラスト:堀江篤史)

もっと早くに結婚するべきだったと後悔していませんか。遅い結婚でよかったというならばその理由は何ですか?

筆者は35歳以上で結婚した「晩婚さん」たちに、少々失礼な質問を投げかけ続けてきた。同じく晩婚さんである筆者自身がその問いへの答えを見つけたかったからだと思う。


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2014年8月から開始した本連載。すでに90回を超えている。夫婦でインタビューに応じてくれた人たちを含めると、来週掲載予定の回でちょうど100人の晩婚さんと語り合ったことになる。

さまざまな晩婚さんケースを取り上げてきたが、彼らは「早婚さん」と比べるとどのような傾向や特徴があるのか。幸せを実感しているのだろうか。100人という区切りを迎えたいま、過去の取材を振り返り、晩婚さんの実態についてまとめてみたい。

約8割の人が「遅い結婚のほうが自分にはよかった」

改めて原稿を読み直して集計してみたところ、100人中79人が「遅い結婚のほうが自分にはよかったと思う」と答えていることがわかった。8割に迫る数字だ。

この集計結果には主に2つのバイアスがかかっている。1つは、わざわざ時間を割いて取材に協力してくれるのは、現在の生活に満足していて、精神的にも経済的にもゆとりがある人が多いこと。「晩婚で大失敗。今すごくつらい」という人がいたとしても、本連載にはあまり登場してくれない。

もう1つのバイアスは、誰しも自分の人生を否定はしたくないこと。「晩婚でよかったのだ」と信じたい。他の人にもそのように伝えることで自己肯定をしたいのだ。

そうしたバイアスがかかっていることは前提として、この79人が「晩婚さんでよかった」と語った理由を確認した。大きく分けて3つあるようだ。1つだけ当てはまる人もいれば、3つすべてに該当する人もいる。

1つ目は、若い時期に独身生活をやりきったこと。仕事や恋愛だけでなく、スポーツなどの趣味に夢中で取り組み、燃え尽きるほどの達成感を得た人は少なくない。

たとえば、39歳のときに5歳年下の男性と結婚した女性。地方のテレビ局に入社して以来、ひたすら仕事に邁進してきた。そして、放送関係の大きな賞を獲得するなどの目標を37歳までに達成。だからこそ、心置きなく結婚へと向かうことができたと振り返る。

この女性は子どもが大好きだと公言し、小学生向けの教育ボランティアも行っている。夫との間には子どもはいない。「子どもができたらすごく幸せだけど、できなくても2人で楽しく暮らしていく」ことで合意している。

「こんなに子ども好きなのにどうして早く結婚しないのかと周囲に不思議がられた時期もあります。でも、私の場合はアラサーの頃に結婚して母親になっていたら、きっとフラストレーションがたまってしまったはずです。あの頃は自分のことしか考えていなかったから……。30代後半になって仕事をやりきったと感じて、時間やエネルギーを自分だけではなく誰かのためにも使いたいと思うようになれました」

もう少し切実な例としては、いわゆる「毒親」から心身ともに抜け出すために、結婚という共同生活ではなく、一人暮らしの期間が必要だったケースがある。一人きりになることで毒が少し抜け、再び誰かと一緒に暮らす勇気を持てた。「自由気ままな独身生活を満喫した」「時間はかかったけれど自分もある程度は大人になれた」と自覚したからこそ、現在の家庭生活に安心や喜びを見いだせているのだ。

年齢と経験を重ねてからの結婚だからこそ

2つ目の理由は、年齢と経験を重ねてからの結婚なので、ともに生活をしていくのに適切な相手を謙虚な気持ちで選べたという確信だ。若い頃は、明らかに相性がよくない異性に恋心を抱き、勢いで結婚してしまうこともある。その失敗を生かし、再婚で幸せな晩婚を果たした人は、この連載の中でも少なくなかった。

20代後半のとき、総合商社の同期男性と婚約をしていた女性。婚約中に彼が転勤となり、遠距離恋愛の不便さでお互いにいら立ち、結婚式の準備でケンカになってしまった。双方の親の意向を受け流すこともできなかった。長いブランクを経て、30代後半で出会ったのは「バツ2子2人」という8歳上の男性だった。

彼女はいま、「若い頃の理想の結婚」とは異なる、予想もしなかった家族の形を楽しんでいる。ずっと実家暮らしだった自分と比べて、結婚と育児の経験があり、家事もできる夫は頼もしい存在だ。同居はしていない義理の子どもたちとは「親戚のお姉さん」ぐらいの立ち位置で付き合っている。

社会人として仕事や生活をしていると、日々生きるだけで精いっぱいなときもある。そんな経験をすると、一時期の燃え上がるような恋よりも、もっと実質的で穏やかな人間関係を大事に感じるようになる。お互いに居心地がよく、尊敬し合い、支え合うことができる人と結婚したほうがいい――。われわれ晩婚さんは、こんな当たり前のことが腑に落ちるまでに時間が必要だったのかもしれない。

そして、3つ目。精神的にも経済的にも自立した「晩婚さん」の暮らしには余裕があることだ。山あり谷ありの結婚生活を朗らかに続けていくには、社会人としての実力がいる。もともとは他人だった結婚相手の短所を許容し、補い合い、ときにはビシッと注意する。ある程度は大人として自立した人間同士でなければできないことだ。

大人2人が支え合うことで、ゆとりのある生活になる。それは大きな余剰エネルギーを生み出し、家族だけでなく周囲にも良い影響を与えることがある。自分たちには実子がいなくても、里親として「みんなの子」「地域の子」を自宅で育てている晩婚さんもいた。

「晩婚で後悔」している人もいる

ここまで「晩婚で正解」と話してくれた人たちの例を挙げてきた。それでは、取材した100人の中で、「晩婚で後悔」と率直に明かしてくれた21人はなぜそのように語ったのか。

最大の理由は不妊だ。結婚相手との生活が愛情に満ちているからこそ、「子どもが欲しい」と強く願う人は少なくない。ようやく生まれてきた子どものかわいさに驚愕し、2人目ができにくい年齢に達してしまったことを悔いている人もいた。「息子が大きくなったときにはすでに自分は年老いている。仕事を教えてあげられない」と嘆く自営業の男性もいた。

若い頃はおカネがなかったり、闘病生活をしていたことが理由で結婚できなかったというケースもあった。彼らも「晩婚でよかった」とは決して口にしない。現在の結婚生活があまり楽しそうでない人も少数ながら登場してくれた。彼らはそもそも結婚には向いていないのかもしれないし、晩婚であっても相手選びを間違えてしまったのかもしれない。

来週掲載予定の回で登場する46歳の女性は、自らの晩婚を惚気(のろけ)ぎみに「後悔」してくれた。結婚がこんなに楽しいともっと早くに気づいていればよかったのに、と悔やんでいるのだ。自分には結婚生活は絶対に無理だとずっと思っていたが、実際は違った。驚くほど快適だ。

「でも、早くに結婚してしまっていたら、現在の夫には出会えなかった。だから、今の年齢で結婚したのがちょうどいいのだと思います!」


3年半前に本連載を始めたとき、もっと暗くて深刻な内容になると予想していた。しかし、やたらに楽しそうな晩婚さんが予想外に多く、語り合ううちに筆者も日々の晩婚生活を前向きにとらえ直すことができた。

夕方、仕事場から帰ってきた妻が料理をしている間に、筆者は風呂に入り、洗濯物を畳んだり食器を並べたりしながら気分を高める。準備ができたら、ちょっとした炒め物か焼き物でビールを飲む。そして、ワインか日本酒に切り替えて鍋物などのメインを食べる。

飲み足りない夜もある。妻が風呂に入っている間に食器を洗って片付け、同じ食卓の隅に移動する。テレビを観ながらの2次会だ。つまみは板海苔やみそで十分。

夕食の間、妻とあれこれとしゃべりまくる。仕事や人間関係のちょっとした悩み事や心配事は薄らいでいく。食後は歯を磨いて寝るだけ。安心でリーズナブルでおいしくて楽しい。夢というのは、将来における目標達成だけではなく、今晩の食事にも存在するのだとようやく知った。

約8割の人が「遅い結婚でも幸せになれた」と慎ましい笑顔で語ったという事実は、晩婚さんおよび晩婚さん予備軍に励みになることだと思う。自己肯定でもいいじゃないか。今までの失敗や後悔を「成功への糧」と受け止められることは、運命共同体のようなパートナーにようやく恵まれ、安心と自由と喜びにあふれた生活を送っている証拠だと思う。人はいつでも結婚できるし、それによって幸福を得られるのだ。