「Gettyimages」より

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 自動車免許を取得しようと自動車教習所に申し込む際、マニュアル(以下MT)免許とオートマチック(以下AT)限定免許、どちらのコースにすべきかで悩んだ経験のある方もいるだろう。

 MT車は、自動車の走行中にギア(変速機)を手動で切り替える必要があり、AT車は自動で切り替わる。MT免許を取得していれば両方とも運転できるが、AT限定免許ではMT車を運転できない。

 だが、AT車全盛の現在、MT車を運転する機会はどれほどあるのだろうか。自動車ディーラーの全国組織である日本自動車販売協会連合会の統計によれば、軽自動車と輸入車を除く2016年の新車登録台数は、なんとAT車が98%以上だという。このような状況でMT車に乗る機会はほとんどないのではないだろうか。好んでMT車を運転したいという人でなければ、AT限定免許で十分という見方もできてしまう。

 実際、警察庁が発表している「運転免許統計」の最新版を参照すると、2016年には128万5520人が普通自動車第一種免許に合格しているが、そのうちAT限定免許取得者は73万7800人で、その割合は約57%と半数を超えている。AT限定免許が創設された1991年11月以降、長らくMT免許取得者のほうが多い状況が続いていたが、実は2010年からは比率が逆転しているのだ。

●AT限定免許は短期間で安く取得できるが、一部職種で不都合も

 そこにはどのような背景があるのかを探るべく警察庁に取材を申し込んだが、あくまでも警察庁では免許取得者数などの統計を発表しているのみで、「MT免許とAT限定免許はどちらが人気」といった見解を示す立場にはないとの回答だった。

 続いて、都内の教習所各校にコメントを求めるも、春休み中の大学生や卒業を控えた高校生の入校が増える繁忙期ということもあってか、4校に打診したがいずれからも回答は得られなかった。

 なお、前出の「運転免許統計」では、16年に指定自動車教習所を卒業したのは115万8327人で、そのうちAT限定は68万9187人。教習所でも、やはり半数以上の生徒がAT限定コースを選んでいるということがわかる。

 ではなぜ、AT限定免許の取得者の割合が増えているのだろうか。MT免許とAT限定免許、それぞれのメリットに着目すると、教習所における卒業しやすさの違いは無視できないだろう。技能教習はAT限定免許のほうが3時限少なくてすみ、合宿免許であれば卒業までの最短日数は2日短くなり、その分だけ取得費用も安価となる。一例だが、東京都のある自動車学校の場合、MT免許よりもAT限定免許のほうが約1万3000円低くなっている。

 ただ、ひとつ気になる点がある。同教習所公式サイトの「よくあるご質問」コーナーで、「男性はMT免許を取ったほうがいいのか?」という質問に対し、「意見が分かれるところですが、男の人はMTで免許を取ったほうがいいかと思います。まず、MTはATより上位免許です。男性は将来、仕事・その他でMT車を運転しなくてはいけない場面があるかもしれません」と記載されている。

 確かに、職種によってはMTの商用車を採用しており、AT限定免許では仕事が務まらないケースもあるだろう。特にトラックやバスなどはMT車のほうがAT車よりも価格が安いということもあり、また燃費も抑えられるため重宝される傾向がある。

 AT限定免許の取得者が、あとからMT免許に変更する場合、「AT限定解除」の教習を受けなければならない。前出の自動車学校のケースでは、最短4時限の教習で、費用は約6万円かかる。はじめからMT免許を取得する場合に比べて割高になってしまう。約4割の人々が今でもMT免許を選択しているのには、長期的な可能性を視野に入れているという意味合いがありそうだ。

●若者のクルマ離れで免許取得者も減少か

 将来的にも絶対にMT車に乗ることはないと断言できるのであれば、AT限定免許を取得したほうが労力も費用もかからないのは事実。かつては、「MTを運転できない男性は格好悪い」といった風潮もあったが、今やそのようなイメージは薄れてきたのではないだろうか。

 そもそも、昨今は若者の車離れが叫ばれて久しい。「運転免許統計」によると、16年末の運転免許保有者数は、40〜44歳の年代層が全体の11.1%、45〜49歳が10.8%を占めており、この年代がボリュームゾーンとなっている。一方、20〜24歳の運転免許保有者数は全体の5.8%、25〜29歳が6.9%で、年々減少傾向にあるのだ。

 また、ソニー損保が1000人を対象に実施した「2018年 新成人のカーライフ意識調査」では、今年の新成人の運転免許保有率は56%。運転免許を取れる年齢になったからといって、誰もがすぐに教習所通いを始めているわけではないようだ。ちなみに、56%の内訳はMTが22.7%、AT限定が33.3%と、ここでもAT限定が数で上回っている。

 もっとも、都市部と地方では事情も変わってくるだろうが、今後は自動車の運転に消極的な若年層がますます増えていく可能性もある。そんな彼らが「ペーパードライバーになったとしても、とりあえず運転免許は持っておこう」と思い立ったとき、取得の難易度や料金が低いAT限定に傾くのは自然なことなのかもしれない。
(文=A4studio)