「新しい学習指導要領の考え方」より

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●2020年、小学校で新学習指導要領による教育がスタート

 センター入試に代わる「大学入学共通テスト」が実施される2020年は、日本の教育の今後を決める大きな分岐点となりそうです。というのも、同年度は大学入試改革に加えて新学習指導要領が施行される年だからです。

 学習指導要領というのは、全国のどの地域で教育を受けても、一定の水準の教育を受けられるようにするため、文部科学省が学校教育法等に基づいて、各学校で教育課程(カリキュラム)を編成する際の基準を定めたもの。これまでほぼ10年ごとに改訂をされてきました。そして、2020年度から小学校で、その後、中高で順次、新学習指導要領が実施されます。

 日本では、基本的にこの枠組みのなかで教育を行うことが求められているので、これからの教育の方向性に大きな影響力を持つものだといえるでしょう。かつて、「ゆとり教育」から「学力重視」へと振り子のように揺れた日本の教育ですが、そのときどきの学習指導要領をみるとその変遷がよくわかります。

 しかし、一般にはその内容が十分理解されているとはいえないので、2020年度から実施される新学習指導要領について解説をしたいと思います。

●狙いは、変化の激しい社会を生き抜く力の育成

 まず、2020年度から順次施行される新学習指導要領のねらいは、なんでしょうか。文科省は次のように言っています。

 ずいぶん盛りだくさんですね。要約すると「子どもたちが、変化の激しい時代を生き抜き、社会の中で活躍できる資質、能力を育成する」ということでしょうか。

 背景としては、次のことがあげられます。

 これまで日本は、マニュアルを覚えて正確に再現する「暗記力」「再現力」で世界一になってきましたが、今は海外のマーケットで戦わなくてはならないなかで、競争が激化し、中国やインドなどに技術力でもかなわなくなっているといわれています。加えてAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、量子コンピューターなど、圧倒的な技術の進化もあり、先行きの見えない、変化と競争の激しい時代に突入しているなかで、手をこまねいていると、既存の企業がなくなるかもしれないという瀬戸際にきているといわれています。

 AIの進化で労働人口の49%が自動化される可能性が高いという研究結果(※1)もあるなか、もしこれまでどおり、今ある仕事に就くための教育をしていくと、大量の失業者をつくり出すことになりかねません。ですから、自ら社会の問題に気づき解決する人材、新しい価値を創造できる人材を育てなくてはならないというのが、日本が置かれている状況です。

 一方、個人としても予測できない変化に手をこまねくのではなく、主体的に向き合い、そのなかで自分の能力を発揮しながら、幸せに生きていくことが大切でしょう。そのために必要な力を教育のなかでいかに身につけさせていくかが、今回の学習指導要領を貫くテーマです。

●何を学ぶか、何ができるようになるか、どのように学ぶか

 さらに、新学習指導要領の特徴は、「何を学ぶか」だけでなく、その結果「何ができるようになるか」まで踏み込んでいること。さらに、「どのように学ぶか」というところまで含めて提唱されていることです。また、この改革を実現するためには、学校教育を学校の中だけに閉じずに、社会に開いていくことが重要だとしています。

●小学校での英語の教科化・プログラミング教育の必修化が決まる

 では、変化の激しい時代を生き抜くために必要な資質・能力として、「何を学ぶ」のでしょうか?

 象徴的なものとして小学校3・4年生から「外国語活動」を行い、 5・6年生で「英語」を教科化すること。小学校でのプログラミング学習の必修化が決まっています。最近英語とともにお稽古事の人気上位にプログラミングが上がっているのは、この決定の影響が大きいようですが、プログラミングそのものを学ぶというより、プログラミング思考つまり論理的思考を身につけるのがねらいだと文科省は言います。

 いずれにしても、これらは先に述べた社会の変化に対応するために必要なスキルですが、学校でどこまで本気で取り組まれるのかはわかりませんし、学校教育のなかだけで、習得できるかは正直疑問が残ります。

 しかも、英語やプログラミングを学べば、それで変化の激しい時代を生き抜けるというわけではもちろんありません。それより大切なことは、学んだ知識を生かして「何ができるようになるか」という部分です。

 それが、次の図にある3つの柱です。

 文部科学省は、「個別の知識の定着を図るとともに、社会における様々な場面で活用できる知識として身に付けていくことが重要」としていますが、今回の改訂で注目されるのは、新しい時代に必要な資質と能力の育成のために、学校教育のなかで何を行い、それをどのように評価しようとしているかということです。

 これまでの学校教育では、図3左下の「何を理解しているか何ができるか(知識・技能)」 の評価が大きなウエイトを占めていましたが、今回は、「知識や技能を習得する」だけではなく、 それをもとに「理解していること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力)」、「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力・人間性等)」までを含めて、教育の成果と定めています。以前このコーナーで紹介した21世紀型能力もこうした考え方に沿ってつくられています。

●「主体的・対話的で深い学び」で授業が変わる

 そして、そうした資質や能力を育てるための指導方法として今回提示されているのが、「主体的・対話的で深い学び」(図2参照)です。

 ずいぶん回りくどい表現ですが、教員による一方通行の授業から、 生徒自身が主体的・能動的に参加する授業や学習のことです。アクティブラーニングという表現のほうがわかりやすいかもしれませんが、「教えなくていいのか」という誤解も生まれるし、深い学びに到達することが大切ということで、この表現になりました。

 最初に紹介した、学習指導要領のねらいの冒頭にあるように、いまだかつてなかったような急速かつ激しい変化が進行する社会を、一人ひとりの人間が主体的・創造的に生き抜いていくためには、「主体的・対話的で深い学び」を定着させていくことが欠かせません。そのためには、ゆとり教育の総合学習が失敗だったといわれたときのように、21世紀型スキルを画一的に学ぶ方向ではなく、学校を社会に開いてともに学ぶ教育が実現することが欠かせません。

 そういう意味で、2020年度は、日本の教育が本当に変われるのか、あるいは掛け声だけで終わるのか、その重要な分岐点になるといえるでしょう。
(文=中曽根陽子/教育ジャーナリスト)