東海道新幹線(「Wikipedia」より)

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 東海道新幹線は、JR東海の超ドル箱路線として知られる。JR東海は系列会社も含めると鉄道事業・不動産事業・小売業など、さまざまな分野に進出しているが、本業でもある鉄道事業のシェア7割以上を東海道新幹線が占めている。まさにJR東海は「株式会社 東海道新幹線」と表現できるだろう。

 JR東海は、東京−大阪を最速で結ぶ「のぞみ」にリソースを集中させている。なぜなら、乗客の大半は東京−大阪の利用が占めているため、各駅停車の「こだま」、そして「ひかり」よりも「のぞみ」を大量に運行したほうが効率的に稼ぐことができる。

 東海道新幹線「のぞみ」は東京駅を出発すると、品川駅、そして新横浜駅に停車する。新横浜駅の次に停車するのは、愛知県の名古屋駅だ。静岡県には停車しない。静岡県内には、東から熱海駅・三島駅・新富士駅・静岡駅・掛川駅・浜松駅の6つがある。静岡県は、横に長い。そのため、東名高速道路を走っているドライバーや在来線の東海道本線利用者からは、「いつまで走っても終わらない静岡県」などとも揶揄されてきた。

 そうした地形的な事情もあり、「静岡県はJR東海に対して静岡県に『のぞみ』を停車させるよう要望していました。それが無理なら、せめて『ひかり』の本数を増やすように求めていました」と語るのは、静岡県の職員だ。6つも新幹線駅を擁しながら、「のぞみ」がまったく停車しない。そんな状況に、静岡県の政財界は長らく頭を痛めてきた。

 JR東海が「こだま」や「ひかり」の運転本数を削減し、静岡県を素通りする「のぞみ」の運転本数を増やすことを発表した際、静岡県の石川嘉延知事(当時)は「静岡県を素通りする新幹線には課税する」と怒りを露わにした。「のぞみ」が静岡県をスルーする問題は、静岡県にとって決して容認できない問題であり、JR東海が「のぞみ」シフトを鮮明にすることは、静岡県全体の経済・ポテンシャルにもかかわる話だ。

●首都圏第3空港

「のぞみ」が停車しないとはいえ、静岡県は東京からも近く、静岡駅から「ひかり」で約2時間しかかからない。東名高速を利用しても、約2時間半〜3時間。近年では熱海や沼津といった静岡県東部から東京へと通勤・通学する県民も増えている。決して静岡県は交通の便が悪いわけではない。

 そんな東京に近い静岡県は、1987年に静岡空港の建設を決定。静岡空港は羽田・成田と中部国際空港に挟まれた位置にあり、静岡県民からも「ごく一部しか使わないのではないか」と疑問を呈されてきた。

 実際、静岡空港から静岡駅まではバスで約1時間の距離。発着便数や就航地といった利便性を考慮すると、静岡空港の存在意義は薄かった。空港の利用促進策として、静岡県は「首都圏第3空港」を打ち出して、静岡空港のPRを積極的に展開する。そして、秘策として打ち出されたのが東海道新幹線の静岡空港駅計画だ。

 静岡空港は、東海道新幹線が走るトンネルの真上にある。そのため、ここに静岡空港駅をつくり、新幹線の駅と空港とを直結させれば「東京から約1時間半でアクセスできるようになる」と主張。JR東海に、静岡空港駅を設置するように請願した。

 しかし、静岡空港駅をつくっても需要は未知数。当時のJR東海は、東京駅−新大阪駅間を結ぶことに傾注していたこともあり、その中間に駅を新設することには消極的だった。途中駅ができれば、所要時間が長くなる。また、東海道新幹線のダイヤはすでに過密で、新たな各駅停車の新幹線を設定できる余裕はなかった。それらの事情から、JR東海は静岡空港駅に難色を示した。

 JR東海が難色を示したことから、静岡県の静岡空港駅計画は小康状態のまま忘れられていった。

●東京、“空の渋滞”

 しかし、ここにきて風向きが変わりつつある。今般、訪日外国人観光客が増加し、再国際化した羽田空港の発着回数が限界に近づいてきている。政府や財界からも「首都圏第3空港」を望む声が上がり始めた。そうした声が大きくなるにつれ、一度は見送られた静岡空港駅が水面下で検討されるようになっているのだ。

 従来、鉄道関連の政策・計画は国土交通省の鉄道局が担当する。ところが、静岡空港駅を水面下で検討しているのは、国土交通省鉄道局ではない。航空政策を所管する航空局だ。国土交通省職員は、その背景をこう説明する。

「今般、訪日外国人観光客が急増し、羽田・成田の需要は高まっています。しかし、羽田・成田のキャパシティは限界で、発着便数を増やすことは難しくなっています。国交省では、羽田の発着回数を増やす取り組みとして、さまざまなアイデアが出されました。羽田には全部で4本の滑走路があります。滑走路を増設することで、空港の発着回数を増やそうという案も出ました。しかし。羽田・成田のキャパシティは滑走路の増設では対応できません。なぜなら、東京上空には、羽田や成田から飛び立つ飛行機のほか、着陸待ちの飛行機もたくさん航行しているからです。“空の渋滞”が起きているため、羽田・成田の滑走路を増やしても、発着本数を増やすことはできないのです」

 そうした状態にあるため、首都圏第3空港を東京圏域につくることはできない。国土交通省内では、羽田・成田と干渉しない首都圏第3空港の検討が水面下で始められている。東京からの距離を勘案すれば、有力候補として挙がるのは、茨城空港か静岡空港のどちらかしかない。

 茨城空港は自衛隊基地と併用しているため、旅客機の発着本数を簡単に増やすことはできない。また、東京圏から茨城空港までのアクセスはバスしかない。横田基地を軍民両用化するという案も出ているが、「軍民両用化すれば飛行機が絶えず発着することになります。基地周辺は市街化しており、騒音問題が解決できません」(前出・国土交通省職員)との理由から横田の軍民両用化は難しいとの判断がなされている。

●援軍登場

 一方、静岡航空に新幹線駅ができれば、東京から静岡空港へのアクセスは飛躍的に向上する。現在、東海道新幹線はダイヤ的な余裕はない。それも、中央リニアが完成すれば話は変わってくる。中央リニアの開業により、東海道新幹線のダイヤには余裕が生まれ、静岡空港駅は実現に向けて前進するだろうとの読みが国土交通省内にはあるのだ。静岡県の空港担当者も、こう期待を寄せる。

「現在、静岡空港は国内線・国際線が発着していますが、なによりも好調なのは静岡空港と中国各地を結ぶ便です。静岡は世界遺産の富士山もありますし、海の幸も美味しい。そうした観光コンテンツが、たくさんの中国人観光客を呼び寄せています。羽田・成田のキャパシティが限界なら、その分は喜んで引き受けたい」

 リニアは2027年に開業を予定している。静岡空港駅が実現に動きだすとしても、かなり先の話ではある。また、談合問題で完成が遅れるとの観測も流れている。だが、国土交通省の鉄道局ではなく、およそ新幹線とは縁遠い航空局ではあるものの、援軍が現れたことは静岡県にとっても心強いことだろう。

 援軍の登場により、静岡県の悲願である静岡空港駅は実現に動きだすのか。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)