中国ユニコーン企業を支える「シリコンバレー的楽観主義」 

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スタートアップの資金調達状況を伝える米国のデータベース「CB Insight」によると現在、世界のユニコーン(評価額が10億ドル以上のスタートアップ)企業の数は222社。そのうち米国が109社、中国が59社となっている。

企業数だけでみれば米国がリードを保っているものの、2017年にユニコーンの仲間入りを果たした企業は米国28社に対し中国は22社と、その差は縮まりつつある。昨年、企業価値10億ドルを超えた中国企業にはニュース配信アプリの「今日頭条」をはじめ自転車シェアの「Mobike」や「ofo」、人工知能領域では「センスタイム」などがあげられる。

中国の新興企業は成長スピードが速い点も特徴だ。ボストンコンサルティンググループ(BCG)はスタートアップがユニコーン化するまでの年数を「米国は平均7年。中国は平均4年」とした。

爆発的スピードで進化を遂げる中国のスタートアップの成長の裏側には何があるのか。その答を探るためForbes JAPANは今回、北京や深圳、厦門の3都市の注目スタートアップ5社を取材した。

その結果、見えてきたのは中国の新興企業らは西側メディアが察知するずっと以前に「スマートフォンの次」を見据え、新たなイノベーションを加速させていたことだ。

日本のメディアが中国のテック企業に本格的に注目し始めたのは16年だった。この年の11月、アリババのEコマースの祭典「独身の日」の売上が1日で1.7兆円を突破。それ以降、中国のモバイル決済の普及ぶりや自転車シェアに関するニュースが連日伝えられるようになった。

2014年が転機となった

しかし、近年の中国のスタートアップの勃興は、2014年が節目になったというのが今回の取材から見えてきた事実だ。2014年と言えば、フェイスブックがVRヘッドセット企業のオキュラスリフトを20億ドル(約2130億円)で買収して話題になった年。

当時、南京大学の4年生だったリウ・ジンカンはロシアのウェブサイトで観たVR映像に衝撃を受け、360度カメラの製造を思い立ち翌年、深センで「Insta360」を立ち上げた

一方でウェアラブルの概念が広まったのも2014年だ。北京本拠の音声認識に強みを持つAI企業「モブボイ」は当初、WeChat向けに音声検索アプリを提供していたが、グーグルグラス向けアプリ開発を始めた2014年に「ウェアラブルこそが次世代の検索プラットフォームになる」と確信。その後、グーグルの「アンドロイドウェア」の公式パートナーに認定され、スマートウォッチ「TicWatch」で世界的評価を確立した。

さらに、17年末にホンダと自動運転分野で提携した香港のAI企業「センスタイム」にとっても、2014年がブレイクスルーを迎えた年だった。香港中文大学が生んだ”大学発ベンチャー”の同社はこの年、ディープラーニングを活用した顔認識プロジェクトで人間の顔認識精度を超える99.15%の認識力を持つアルゴリズムを開発。それを契機に急成長を遂げた。

また、アリババが米ニューヨーク証券取引所に上場を果たし、250億ドル規模の資金を調達。世界最大規模のIPOとして注目を集めたのも14年だった。さらに、深センの「Royole」が世界で最も薄い0.01ミリの有機ディスプレイを発表し、世界の注目を集めたのも14年だった。

中国のテクノロジー分野の隆盛に関しては、グーグルやフェイスブック等を遮断した”排外主義”がその背景にあるとする見方も強い。しかし、人口14億人を誇る中国はスマホの勃興期の09年から11年までのわずか3年で、3億人を超えるスマートフォンユーザーを獲得。テンセントのメッセージアプリWeChatは14年時点で既に4億人の利用者を獲得するなど、自国内で完璧なエコシステムを創出した。

また、クレジットカードの普及度が低い中国では、WeChatペイやアリペイといったモバイル決済が爆発的に普及し、そこから自転車シェア等の新たなビジネスが生み出された。

さらに「もはや西側企業が追いつけないレベルに達した」と言われる顔認識技術に関しても、中国では政府発行の写真付き身分証明書の取得が義務付けられており、この巨大なデータベースがテクノロジーの発達を後押しした側面がある。

シリコンバレー的な楽観主義
 
ただし、そのような中国固有の要素を抜きにしても、取材を通じて強く感じたのは、社会全体に満ちあふれる経済成長への強い自信と、イノベーションに向かう貪欲な姿勢だ。西側の基準では無謀とも思える”乗り捨て自由の自転車シェア”にアリババやテンセントらは莫大な資金を注ぎ、カオス的状況を生み出しつつも、物事を前に進め海外進出まで果たした。

さらに「マネタイズを考えるのは後から。まず大事なのは利用者をつかむこと」という、かつてのシリコンバレーを思わせる楽観的マインドセットを持つ企業も中国には多い。

14年に企業価値20億ドルを突破し、香港市場に上場を果たした美顔アプリ企業の「メイトゥ」のCEOは「創業以来、通年で一度も黒字を生み出していない」と涼し気な顔で言い放つ。しかし、その強気の姿勢の背後には世界4.8億人のMAUという圧倒的なユーザーボリュームがある。

中国のインターネット人口は現在7億1000万人という驚愕の数字だが、普及率は約50%程度であり、まだまだ成長の余地を残している。一方で、自国で成功を収めた中国のテック企業らは、インドネシアや東南アジアでその成功を再現しようと、Eコマースやモバイル決済方面に盛んな投資を行っている。

「かつて西側のコピーとみなされた中国のネット業界は独自のイノベーションを生み出す存在になった」とPwCは2016年のレポートで述べたが、その状況はますます加速している。中国のテック企業の飽くなき拡大戦略はまだまだ続いて行きそうだ。