究極は安請け合いをなくすこと(写真:maroke/iStock)

日本の労働生産性は先進国の中でも低いと言われますが、その原因は「安売りしすぎている」「業務効率が悪い」など諸説あり、それも相互に関係しているため、現状ではなかなか前途多難だと言えます。

ただ、現状への対症療法をしていくのではなく、スタートまでさかのぼって、仕事の「よい始め方」をすれば、仕事の「結果」もよくなる可能性が高いと言えます。

どんな仕事も「提案」から始まる

過去に私が携わっていたコンサルティング業界では、顧客の事業概要を調査し、その結果を分析して、「こうしたらもっとよくなるのではありませんか」「こうすればその事業計画はうまくいきます」といった「提案」をすることが仕事の始まりでした。その提案を採用してもらうことができて、はじめてコンサルティングの仕事に入るわけです。もちろん、提案が的外れなものであったり無理に背伸びしたものであったりすると、後で苦労することになります。

一方で、仕事を依頼する側にしても、実際に相手にうまく動いてもらうためには、さまざまな細かい「提案」が必要になります。それが適切でないと、手間やコストだけが増えて、あまり効果が出なかったりするからです。

つまり、「提案」は、単に仕事の受注に必要なだけでなく、その後の仕事の質を決める重要なファクターでもあるのです。この意味で、提案とは「仕事の本質」と言っても過言ではありません。そして、この「提案のプロセスの型」を身に付けることは、あらゆる職場において成果を出す可能性を秘めていると言えます。

拙著『どんな会社でも結果を出せる! 最強の「仕事の型」』でも解説していますが、提案プロセスの型として、私が以前に所属していた野村総合研究所において、口頭で伝承されていた「GISOV(ジーアイエスオーブイ)」という提案書作成の型(フレームワーク)を紹介します。

GISOVとは、

Goal(ゴール:目的・目標)
Issue(イシュー:課題)
Solution(ソリューション:課題の解決策)
Operation(オペレーション:解決策の実行計画)
our Value(バリュー:自分たちが提供できる価値)

という5つのステップから成る提案の型です。この視点に沿って各要素が提案書に盛り込まれているかを確認するだけでなく、各要素の整合性が取れているかを確認するための型にもなります。

承認する相手にとっても断る理由のない形式

「GISOV」の順番は、提案の内容を深めて完成させるための5つのステップであるのと同時に、プレゼンテーション(以下、プレゼン)の流れとしても、承認する相手にとっても断る理由のない「驚き」「安心」「納得」という3つの要素を含んだベストな形式になっています。「GISOV」と3要素の関係性は以下のとおりです。

驚き……G・I:相手に驚きを与える(その結果、共感を得る)
安心……S・O:相手に「解決策が実現できそう」という安心感を与える
納得……V:承認する理由が明確になる

この「驚き(共感)」→「安心」→「納得(その理由)」という流れは、プレゼンの王道であり、最も論理的に理解してもらいやすい形式です。つまり、「GISOV」という順番そのものが、プレゼンとしても説得力が高い「よい提案」になるということです。

特にコンサルティングや営業の場合、顧客側の担当者は、日々、現場の業務に触れているため持っている情報量が多く、課題にも向き合っています。そんな中で、当たり前の課題を提示しても「は? そんなこと、わかっているよ」と言われて、それ以降の解決策の提案は聞いてもらえないでしょう。

だからこそ、「そもそも本当に目指すべきゴールは何か」「ゴールを達成するために発生している『真の課題』は何か」を見いだすために足を運んで調査し、考え抜き、顧客がよりよくなる前提で、目標(ゴール)と課題(イシュー)を「再設定」するのです。そうすることで、顧客=解決策の「当事者」に「あっ、その視点があったか」「こう考えればいいんだ」と興味を持っていただくことが大事なのです。

とはいえ、「驚き」だけの提案であれば、アイデア勝負でどんなことでも言えてしまいます。「驚き」を与えたゴール設定や課題を「具体的にどう解決して実現するのか」や、「その解決策をどんな手順でやればいいのか」が見えないことには、机上の空論で終わってしまうでしょう。「驚き」に加えて、実現できそうという「安心」が加わることで、発注者としても、はじめて解決策として提案を受け入れる土壌ができます。

しかし、安心感を与えたその会社が、自分に仕事を発注するとは限りません。なぜなら、方法論を知ったいま、「自分たちでもできる」と思っても不思議ではないからです。さらに残酷な(でも実際にはよくある)話をすれば、自分たちの提案を、価格の安いどこかの他社にやってもらうこともできなくはないわけです。

そこで、提案者が伝える要素として大事になるのが、「自分たちが提供できる価値(バリュー)」です。バリューの内容は、他社でも顧客企業の担当者自身でもなく提案者のわれわれがなぜこの提案を行うのか、自社・自分の得意領域や、顧客に絶対に約束しているポリシーなどの要素を統合したものになります。

「頼む理由」を醸成する

わかりやすい例だと、宅配ピザの「30分以内に届ける」というポリシーです。ほかにもピザデリバリーがある中で、ピザ自体の味や価格的な安さでもなく、この会社がこだわったのは、注文を受けてから届けるまでの「時間」でした。お腹をすかせた顧客には、多少の安さよりも「時間」というのは、より優先順位が高く、注文する「理由」につながっていきます。

そして、バリューの提示は、発注者側にとって「頼む理由」の醸成にもつながります。たとえば、提案の場面でよくあるのが、「担当者」と「決裁者」が分かれていることです。特に自分の経験が少ないうちは、決裁者に直接アプローチするのは限界がありますから、多くの場合は担当者と相談する形になるのではないでしょうか。

こうした場合、顧客の決裁者は、担当者に対して、おそらく「なぜこの会社に頼むの?」という理由を聞いてくると思います。その時に、こちらが「GISOV」がしっかり整った提案をしていれば、担当者が相手の社内で「わが社が達成したい目標を実現するには、○○を大事にし、強みを持っているこの会社に発注したほうが、投資対効果は高いんです」といったように、われわれを推薦してくれる提案者・説得者に変わっていくのです。


「GISOV」という提案の「型」には、もう一点、大事なメリットがあります。それは、あくまで顧客の言うことそのままに仕事を遂行するのではなく、「自社の誇り(われわれにしかできない理由)」と「顧客の実現したいこと」が重なる領域で提案をするため、顧客から仕事を「安請け合い」することがなくなることです。つまり、仕事を受けるうえで自社の利益が確保されることになるのです。

この視点は、中長期で顧客の発展を考えるときには非常に重要になっていきます。なぜなら、一方的に発注者の要求に応えて身を削っていたら、財務的にもいずれ「期待に応えられなくなる日」が訪れます。顧客にとっても頼りにしていたパートナーを失い、急きょビジネスの方向性を変えざるをえなくなります。場合によっては、ビジネスの前提条件から変わってしまうかもしれません。

そうならないためにも、「顧客と共に栄える」という視点は、ビジネスを持続発展するうえで非常に重要になってきます。