ダイムラーの「スマート」は今後、完全EV化。ネット直販もスマートでは当たり前の時代になるのか?(ジュネーブモーターショーにて筆者撮影、以下同)


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「CASE」発表から1年半、マーケ戦略は成功

 日本の経済メディアでは、自動車業界の大きなトレンドを意味する「CASE(ケース)」という言葉がすっかりお馴染みとなった。Connected(通信の融合)、Autonomous(自動運転)、Shared(共有化)、そしてElectric(電動化)という、3つの技術領域と1つのサービス領域の頭文字を取ったものだ。

 確かに、CASEは自動車産業が直面している“100年に一度の大変革”を象徴している。だが筆者は記事を執筆する際、極力この言葉をなるべく使わないようにしている。

 なぜならば、CASEは独ダイムラーが作ったマーケティング用語だからだ。

 ダイムラーがこの言葉を使い始めたのは2016年9月のフランス・パリモーターショーからだ。その年の6月には、独フォルクスワーゲン(VW)グループが中期経営計画「Together - Strategy 2025」を発表している。CASEは、VWが「Together」の中で発表した「EVシフト」と連動するようなマーケティング戦略だった。

 それから約1年半が経過した2018年3月上旬、スイスで開かれたジュネーブモーターショーの記者会見で、ダイムラーはCASEを強調することはなかった。この言葉はすでに世間で独り歩きし、経済メディアでは一般名詞として使われている。ダイムラーとしては、いまさら訴求する必要性を感じなかったのだろう。

新車のネット直販が常識に?

 一方、ダイムラー幹部が記者会見で強調したのは、新たなるカスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)だった。「2025年までにメルセデスの世界販売の25%をオンライン販売にする」と言い切ったのだ。

 これだけネット通販が普及している今、クルマの世界にディーラーを通さないビジネスモデルが登場しても不思議ではない。特に20代〜30代はスマホの画面で新車や中古車の売買を行うことに抵抗感を感じることはないだろう。たとえメルセデスのような高級車であっても、“高級なコモディティ”という意識で購入するかもしれない。

 ダイムラーは、メルセデスブランドの新車をインターネット上の手続きだけで購入できるシステムを、すでにドイツと中国で本格的に運用している。メルセデスのブランド力と信用力によって、クルマのネット直販は世界的なトレンドになる可能性が高い。

 現在、ダイムラーを含む自動車メーカー各社にとって、新車のコスト上昇は大きな悩みの種となっている。車体の軽量化、排ガス規制への対応、衝突安全、通信のコネクティビティ、そして自動運転など、高コスト部品の装着が必須となり、原価低減がどんどん難しくなっているのだ。そのため、自動車メーカーとしては、クルマの流通コストを下げて収益構造を変えることが喫緊の課題となっている。ネット直販はその有力な手段である。

欧州での厳しいCO2規制に対応するため、電動化によるコスト拡大がダイムラーの悩みの種となっている


 一方、ディーラーは存在価値を問われることになる。現在、ディーラーの収益は、新車の販売益ではなく、車検や定期点検を含む修理の分野が主体となっている。例えば、日本国内の日系大手メーカーの大手ディーラーの場合、販売益全体の約8割が修理によって生み出されている。クルマのネット直販が当たり前の世界が来れば、ディーラーは、クルマの受け渡しの場、修理工場になってしまい、ディーラーという名称自体がなくなるかもしれない(例えば、「サービスセンター」というように)。

日本では既得権益との戦い

 では、クルマのネット直販は日本でも拡大するだろうか?

 メルセデスとBMWは、日本市場での新車ネット販売について、条件付きながら導入を進める姿勢を示している。こうした海外ブランドは、日本法人とディーラーとの付き合いがあまり古くないケースが多いため、契約条項の書き換えなどの交渉が比較的スムーズに行えそうだ。

 一方、日系メーカーは事情が異なる。最大手のトヨタの場合、自社の直接資本系ディーラーよりも独立系資本ディーラーの方が多い。その多くは、トヨタと古くから付き合いのある各地域の名士である。ネット直販は、そうした老舗トヨタディーラーの既得権益を奪うことになる。ディーラーがそう簡単に首を縦に振るとは思えない。

 また、直接資本系ディーラーの比率が高いスバルやマツダであっても、独立系資本ディーラーのメーカーに対する影響力が強いことなどから、ネット直販の早期実施は難しいと思われる。

 ドイツメーカーが主導し、中国市場を中心に拡大の可能性が見えてきた新車のネット直販ビジネス。今後の世界の流れと日本市場の対応に注目したい。

カーシェアリングや新しい枠組みでのローン販売など、顧客体験の改良を行う組織が「メルセデスミー」だ


筆者:桃田 健史