徳島の「阿波おどり」は毎年、8月の4日間で120万人超を集める大イベント。なのに常に大赤字で徳島市観光協会は「破産状態」。なぜ「イベント地獄」になったのか(写真:めいおじさん/PIXTA)

徳島市の夏の風物詩である「阿波おどり」が、「イベント地獄」であることが表面化し、大騒動となっています。徳島市と阿波おどり共同主催者の徳島市観光協会・徳島新聞社の「3者対立」が、かなり「ヤバイ状態」なのです。


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3月2日には徳島市が、民間会社で言えば「連結子会社」にあたる徳島市観光協会に対し、債権者として破産手続きを開始するよう、徳島地方裁判所に申し立てました。

のちほど詳しく説明しますが、簡単に言えば、金融機関が観光協会に貸していたおカネを、「親」の徳島市が「子」である観光協会に代わって返済。銀行に代わって債権者になったうえで「観光協会はおカネを返す力がないから、破産させてくれ」と裁判所に申し立てたというわけです。破産すれば、観光協会は解散、清算のために税金が投入されます。

観光客120万人超なのに「補助金入れても大赤字」の謎

イベントは始めると数が減らず、どんどん増殖していく傾向にあります。「地方は儲からない『イベント地獄』で疲弊する」でも紹介するなど、イベント地獄については本連載でも何度も警告してきました。典型例はこんな具合です。「今年の動員数は10万人だった。では来年は15万人」というように集客目標がどんどんと高められる。観光振興の名のもとに、自治体からは多額の補助金が投入され、「ほれもっと頑張れ」と望まぬ拡大を強いられる運営メンバー。そして、いつの間にかイベント開催そのものが目的化し、誰も「もうやめようとか、変えよう」などと言いだせない。赤字構造が放置され、関係者一同も儲けがあるわけでもなく、ひたすらやればやるだけ皆が消耗していく……。このように「イベント地獄」と化している地域が、全国各地にあります。

では、阿波おどりの何が問題なのでしょうか。同イベントは、8月のわずか4日間で観光客が120万人を超えるお祭りです。しかし、これだけ多くの人が来ているにもかかわらず、なぜか万年赤字体質が放置されていたのです。主催者の観光協会が、その赤字分を市の保証付きで銀行借り入れによって埋め合わせてきていました。その累積債務がざっと4.2億円。それが明るみになったのは2017年のことでした。

そもそもの話、阿波おどりの主催者は誰でしょうか。前出のように主催者は徳島市観光協会と徳島新聞社の2社です。この態勢は昔から続いていたのですが、全体の収支についてまったく公開されていません。さらに、市が毎年観光協会に補助金を出しても、なお万年赤字運営だったようです。この赤字分を、観光協会が「丸呑み」する代わりに、市が裏で保証する形式で、銀行から借り入れを起こして、やり過ごしていました。市はまた、「阿波おどり会館」等の公共施設の指定管理者として観光協会を指名、観光協会側に委託料を支払うなどして、同協会の収入を補填することもしてきました。

では、阿波おどりのもう一方の主催者である、徳島新聞社はどうでしょうか。同新聞社は、こうした市と協会の関係を知りながら、市と協会に「雨天時のチケット払い戻し」などの事業リスクを負わせつつ、一方ではイベントの主催者として、有利なチケット販売や宣伝広告事業などを自社のビジネスにしていた構図があった、などと報道されています。

このような「歪んだ状態」が長年放置されていたものの、赤字問題などが深刻化するなか、市、観光協会、徳島新聞という、地域内での「三つ巴の覇権争い」が、不透明な運営を白日の下にさらすことになったようです。

イベントが慢性赤字化する「3つのヤバイ過程」とは?

一見すると恐ろしい話ではありますが、実はこの種の話は、観光事業、再開発事業、道の駅開発など「地域をあげた一大事業」では、結構よくある話でもあります。そして以下の3つの過程を経て、負の連鎖は止まらなくなることが多いのです。3つの過程を一つひとつ見ていきましょう。

(1) 客数増のために「無料」でなんでもやってしまう

一大事業は観光客数、動員数といった「人数」を追い求めるようになります。そのため、集客数をあげるためにはなんでも無料サービスを展開してしまいがちになります。ただし、人が来れば来るほど、当然ながら対応する人員、施設の維持などに多額の予算が必要となり、運営赤字が拡大。「経済効果があるから地域にとっては大きなプラス」などといいながら、肝心の「経済効果から稼ぐ仕組み」を作らず、あろうことか、補助金を入れてもなお赤字の事業構造も放置されてしまうのです。

(2) 事務局は大赤字、受益者は「ただ乗り」で儲ける

運営側が、ひとたび赤字補填のために補助金や委託事業をもらってしまうと、それが当たり前のようになり「補助金や委託事業ありきの運営体制」になってしまいます。さらに何をやるのにも補助金をあてにして運営する人々ばかりとなり、「稼ぐプログラム」を考えられる人材が運営組織内からいなくなります。結局、集客の核となるイベントや集客施設を支える事務局は、補助金漬けでも大赤字に。その一方で集客した人たち相手の宿泊業や飲食店、メディア事業などを営む事業者は儲かるという「フリーライド(ただ乗り)構造」が成立。政治的にも「行政が赤字を支えるのは仕方がない。民間が儲かるのだから」と支持してしまう。

(3) 「闇」が継続、「常識」になり誰も手を出せなくなる

どこの地域の祭りやイベントにも、常識に照らせば「おや、これはおかしいのでは?」と疑問がわくような「闇」があります。しかし、昔から続くものであればあるほど、その闇は地域の「常識」となり、誰かがそれを変えようと手を出せば、利害関係者から批判されます。結局は「おかしい」と思っていても誰も手を出せず、運営赤字は放置され、行政の負担は拡大し、儲かるところが潤うだけの不均衡な構造がそのまま継続され、負のスパライラル(連鎖)は拡大していきます。

「徳島の阿波おどり騒動」では、観光協会という市の連結対象にもなっていた外郭公益団体が、長年「負の受け皿」となっていました。今回は、ついに地域内の争いが激化する中、市が補助金を打ち切り、観光協会への債務保証も放棄し、破産を申し立てるに至っています。観光協会も問題ですが、長年赤字を垂れ流してきたことを事実上認めてきた市も「一蓮托生」、そして阿波おどりのもう一人の主催者である、徳島新聞も同様です。未だ「潰す、潰さない」と揉めていますが、結局は阿波踊りの運営に関わる全ての大人達の長年に渡る、ずさんな運営の結果に他なりません。

しかし、他の地方自治体は阿波おどりの話を笑えないはずです。他の地域でも、地域の一大事業を担う、万年赤字の団体や第三セクターを抱えており、阿波おどりのように、補助金や指定管理による委託料、債務保証による借り入れで赤字を穴埋めしているケースが多々見られるからです。要は、どこの地域でも明日はわが身なのです。単に、たまたま明るみに出ていないだけで、潜在的に同様の問題は放置され、衰退の原因の1つになっています。

「稼げる企画」か「稼いでいる人が支える企画」への転換を

阿波おどりに代表されるような赤字企画を根本から変えるには、大きく2つの方向があります。


1つは、企画自体をちゃんと稼げるようにすることです。たとえば、宮崎県宮崎市の青島ビーチパークでは、事業者がさまざまな出店を行っています。5月から10月までの、通年ではないシーズン限定にもかかわらず、23万人を集客。この企画では、事業者が、海岸エリアの使用料を県と市にきちんと支払っています。民間も稼ぎ、そして自治体にも収入があがる企画となっているのです。

また、札幌大通公園の夏のビアガーデンも稼ぐ企画です。実施期間中、約25万人が集まる人気イベントですが、各ビール会社がイベント設備を整え、出店料等を札幌市などに払ったうえで儲けるだけでなく、売り上げの一部については、福祉予算として協賛するという稼ぐ企画となっています。このように稼ぐ企画として成立しているものは日本全国で多数あり、近年は増加傾向にあるのです。


もう1つは、地域で稼ぐ人が、資金を出して支えるということです。そもそも昔からの祭りというものは、はたまた橋も道路もですが、かつてはまちで稼いだ人たちの資金によって支えてきました。

たとえば、博多祇園山笠など各地の伝統的な神事にまつわる祭りは、まちで稼いだ人たちによって支えられています。博多辛子明太子を開発したことで有名な「ふくや」の創業者である川原俊夫氏も、生前は「山笠に何かあったら、全財産をつぎ込んでもどうにかする」と語り、大いに私財を山笠に投じたと言います。その他、各地の伝統的な祭りの多くが、時代時代に地域で稼ぐ人が支え、次の世代に受け継がれています。

少なくとも、今でも120万人超が訪れる阿波おどりは、十分に稼げる企画です。むしろ年間の観光振興予算をこの開催期間中の稼ぎによって、捻出することも可能でしょう。たとえば、オンラインによる、天候条件や時間などを加味した価格変動型チケット販売、VIP桟敷席の充実、ビアガーデンなどの飲食出店事業、臨時宿泊施設としてのクルーズ船停泊など、いくらでも企画は考えられます。さまざま企業から提案を受ければ、できることは山ほどあるでしょう。

祭りを食い物にするのではなく、祭りで稼ぐ知恵を出すか、もしくは自分たちの資金で支えるという覚悟を持つことこそが、運営にかかわる責任者たちに求められています。