サバイバルトラップに気を付けろ!

写真拡大

なぜ、あなたの会社は利益を生み出せないのか?それは、今までの会計の公式が間違っていたから。これまでの会計原則である「売上-経費=利益」に従っていてはダメ。もっと儲かる会社にしたいのなら、「売上-利益=経費」へと頭を切り替えろ―ー。世の経営者たちにそう訴えかけるのが『PROFIT FIRST お金を増やす技術』(マイク・ミカロウィッツ著、近藤 学訳、ダイヤモンド社、3月14日配本)です。著者のマイク・ミカロウィッツは米国人の起業家で、彼自身が破産寸前にまで追い込まれたことがきっかけで、この「プロフィットファースト(利益が第一)」は生まれました。一言でいえば「借金を減らし、キャッシュリッチな会社に変わるための資金管理法」です。本連載では、多くの経営者が経営改善に成功している実証済のシステムである「プロフィットファースト」の基本を、6回にわたって紹介します。

とにかく売れ、誰にでも、何でも良いから売れ

 効果的なお金の管理システムなしでは、この自転車操業のパニック状態から脱出するために懸命に販売し続けることになります。

 もっと売る。早く売る。とにかくお金を得る。ここに落とし穴があります。これが、サバイバルトラップです。

 私の庭師、アーニーは、このサバイバルトラップに引っかかってしまった人物の好例です。アメリカの東北部の庭師にはよくあることですが、アーニーは芝生から落ち葉を掃除することでそれなりの稼ぎを得ています。それにもかかわらず、アーニーはより多くの収入を必要としたのです。

 去年の秋のこと。彼は私の家のドアをノックして「雨樋に落ち葉が溜まっているのを見つけたのですが、もしよろしければ掃除しましょうか?」と言いました。彼にとって私は他の業者を選ばないお得意様でしたし、別のサービスを売ることで、手っ取り早く収入を増やそうとしたのです。そして、屋根に上ったとき、彼は屋根板に修繕が必要だということに気が付きました。そうして、屋根の修繕を追加で提案し、さらに煙突も修理したらどうでしょうかとも言ってきました。

 自分は、なかなか利口な奴だと思ったんじゃないでしょうか?しかしながら彼は間抜けです(もちろん、アーニーは素晴らしい人物です。彼には素晴らしい目的と野心があります。彼は提供するサービスを拡大する決断をしました。その提供するサービスをさらに拡大することこそが間抜けなのですが)。

 どんな売上も良い売上のように感じられます。なぜなら、売上は一時的に我々を危機から救ってくれるからです。

サバイバルトラップとは何か?

 ここで以下の図を見てください。

 アーニーは、今ポイントAにいます。これがいわゆる、危機的状況です。彼はそこからポイントB(彼の将来的なビジョン)に向かおうとしています。ここで重要になるのが(ビジョンと呼ばれるものを持つ人の多くがそうであるように)、彼のそのビジョンが曖昧であるということです。

 ゴールを設定するとき、扱っている商品やサービス、どういったクライアントを対象としているか、といったことを明確にする代わりに、彼は「多くのお金が欲しい。それによってストレスから自由になりたい」といったような設定の仕方をしてしまっているのです。

 このポイントAからポイントBの橋渡しをしてくれるのは、「とにかく売れ、誰にでも何でも良いから売れ」というようなやり方ではありません。

 上の図を見てもらえれば分かる通り、私たちは「ただ売る」ということのために多くの決断をしており、それにより本当のビジョンとは違う方向に行ってしまうのです。

 アーニーは手っ取り早くお金を手に入れるために、新しいサービスを私に提供しようとしました。彼は、それがどんな会社にしたいとか、どんな顧客にサービスをしたいというビジョンとは、つながっていないことに気付きもしなかったのです。

 固定客がいれば、手っ取り早くお金を稼ぐために、芝生の掃除をする男から煙突を直す男に仕事を変えるのは簡単です。なるほど、確かにそれで収入は増えるかもしれません。

 しかし、それを行うためのコストについてはどうでしょうか?

 庭仕事をする上で役に立つ道具は、屋根の修繕や煙突の整備には全く役に立ちません。それらの仕事をするためには、はしごや命綱、レンガ、その他多くのものが必要です。そして、庭仕事のスキルではなく、屋根の修繕や煙突整備のスキルも必要になります。

 つまり、そういうスキルを持つ人を雇うか、学校に戻ってそういうスキルを学ぶ必要が出てくるのです。こうして簡単に売上を上げようとすれば、アーニーはそれだけ自分のもともとの仕事である庭師からどんどん離れることになるのです。

 サバイバルトラップで簡単にお金を得られるのは確かです。

 しかし、それに囚われると、その売上のためにかかる大きなコストのことを顧みなくなります。そして、ほとんどの場合、利益を生む売上と、負債を膨らませる売上を見分けることができなくなってしますのです。

 何かで世界一を目指したり、効率性の高い完璧なサービス提供のプロセスをマスターする代わりに、様々なことに手をつけるようになる……。それにより効率性が失われビジネスの運営が難しくなり、かかるコストも高くなっていくのです。

サバイバルトラップは、ビジョンに向かう原動力ではない

 危機を脱するために何らかのアクションを起こすときにはまってしまうトラップです。

 上の図に記されている矢印のアクションは、どれも、その瞬間には危機を脱出するのに役立ちます。

 でも、こうしたアクションを実行に移すことで、ポイントBとして記されている私たちの本来のビジョンからは遠ざかってしまうのです。

 誰彼かまわずお金を取れる相手からはお金を取り、悪いクライアントからお金を受け取り、見通しのないプロジェクトにお金を使い、ポケットに2セントのコインとガムの噛みかすと糸くず以外にまだ残っていれば、そのお金を差し出す。

 こうして、私たちはジェットコースターに縛り付けられたまま自転車操業とパニック状態の中をサバイバルしていくのです。

サバイバルトラップは、醜いモンスター

 上図に示されているいくつかのアクションは、ポイントBと真逆と言うほどではなくても、斜め方向に進んでいます。ビジョンをビジネスの中に実現することができるのは、点線で示された平行線の間を進む選択をしたときだけです。

 サバイバルトラップがそれと気付きにくいのは、これに引っかかると、ビジョンに向かって多少は近づいていると錯覚してしまうからです。

 自分が反射的にとった行動が賢い選択であり、直感的に正しい判断をしたのだと錯覚してしまうのです。その選択が、経済的な自由という約束の地に導いてくれるのだと、私たちは信じてしまうのです。

 たとえば、「単に売る」というアプローチが、単なる偶然で、私たちをビジョンに近づけてくれることもあります。こうなると、正しい方向に向かっていると信じ込んでしまい、ときとして私たちは、自分たちのビジョンやそこに至るまでの道筋を考慮しないままに危機(ポイントA)の決断を下してしまいます。

 しかし、それが上手くいくこともあります。単なる偶然が起こるのです。そして、私たちは、「それ見たことか、これが正しいのだ。歯車は噛み合った。結果は後からついてくる」とつぶやきます……。

 しかしこれは、何かにフォーカスしたり明確にした結果ではなく、危機から生まれた偶然の産物であり、本物の結果ではありません。これは、宝くじが一度当たったことを理由に、宝くじは良い投資だと信じ込むのと似ています。このような思考は、我々をすぐに危機モードに引き戻してしまうでしょう。

 それは、あなたの時間を稼いでくれるかもしれませんが、その間にモンスターはどんどん大きくなります。そしてあるときあなたの方を向いて、何の躊躇いもなくあなたを破滅に追い込むのです。

危機の中では、サバイバルトラップが模範的なやり方になる

 継続的に利益を生むには、効率性が必要です。

 危機にあるとき、効率的になることはできません。たとえそれが税金の回避や魂を売ることであったとしても、危機の中では、今すぐにお金を得ることが正当化されます。危機の中では、サバイバルトラップが模範的なやり方になってしまうのです。

 そうしてやがて、サバイバル戦略だったはずのものが、新たな破滅的・危機的状況を作り出すのです。それは私たちを脅かし、多くの場合、ビジネスから撤退させることになります。

 この問題の一端は、預金残高会計のとらえ方にあります。

 預金残高にあるお金を1つの財布と考え、税金の問題やあなた自身の給料や利益のことを全く顧みずに事業を運営してしまいます。この考え方は売上から始まって売上に終わる、売上至上主義にあなたを誘導します。こうした考え方を助長するのが、すべての上場企業が用いており中小企業も喜んで用いる伝統的な会計手法、一般に公正妥当と認められる会計原則です。

[著者]
マイク・ミカロウィッツ(Mike Michalowicz)
米国人のアントレプレナー。2社の1億円超企業を創業し売却。また、プロフィットファーストプロフェッショナルズの共同創業者として、同メソッドを伝える会計士、コーチを組織化する。元ウォールストリートジャーナルのコラムニストで講演家としても著名。TEDxなどでビジネスや起業家精神についてのスピーチを行っている。
他の著書に、『THE PUMPUKIN PLAN』(日本未完)、『トイレットペーパーの起業家』等がある。
[訳者]
近藤 学(こんどう・まなぶ)
日本人初のプロフィットファーストプロフェッショナル。
京都府で税理士事務所を開業。ネットベンチャー企業のCFOとして創業に参加。
中小企業の家庭に育ち両親の資金繰りの苦労を目の当たりにしてきた経験をもとに、自らキャッシュフロー改善のソフトウエアを開発し、現在約150名の税理士等に会員制サービス(こがねむしクラブ)を通して提供している。
訳書に『あなたの中の起業家を呼び起こせ』(マイケル・E・ガーバー著、エレファントパブリッシング)。著書に『一番楽しい!会計の本』(ダイヤモンド社)、『「儲からない」と嘆く前に読む会計の本』(大和書房)などがある。