筑波大学筑波キャンパス(「Wikipedia」より)

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 ソニーの創業者、盛田昭夫氏の『学歴無用論』(朝日新聞社)がベストセラーとなったのは、今から50年あまり前の1966(昭和41)年だった。昭和から平成の終わりと時を移した現在、同じ趣旨のものを記すのならば「大学名無用論」と置き換えられるのではないか。無用論の頃の4年制大学進学率は1割そこそこであったが、現在は5割前後。希少であった“学士様”の価値は大きく下がった。

 時折、企業の人事担当者などから、大学について意見を求められることがある。会話の中心になるのは、やはり大学の名前、ブランドである。新卒の就職活動は空前の売り手市場であることを映しているのか、ぼやき交じりに「旧帝とか早慶など有名大学の出身者を集めろと上(人事担当重役)がうるさい」と、企業サイドの本音を明かしてくれる方もいた。

 各大学の入学試験の難易度を軸にした序列は、半ば固定化されていることもあって、志望者の取捨選択の基準にするにはわかりやすく、広く理解が得られやすい。特に事務処理能力が問われるホワイトカラーでは、限定された時間内に課題を解く学習の積み重ねと、その能力は「いわゆる仕事ができる、できないと、ある程度は関連している。採用の際にMARCHあたりで線引きをするのはうなづける」(上場企業管理職)という声も多い。

 ただ時間軸を広げて調べてみると、序列の変化、各大学の浮沈が感じ取れる。

 上場企業役員数の出身大学別ランキングは、実社会における各大学の人脈の厚み、存在感を示す指標になりやすい。2017年の役員数トップは、戦後はおろか明治の御代から経済界で覇権を握っていた慶應義塾大学であり、次いで東京大学、早稲田大学が不動のベスト3だ。以下、上位には京都大学、中央大学、明治大学、一橋大学、日本大学など、お馴染みの大学が続く。試みに10年前の07年のデータと対比してみたが、順位に若干の変動はあるものの、顔ぶれにほとんど変化はなかった。

●役員数を増やしている大学

 ただ全体をつぶさに見ると、興味深いこともわかった。ひとつは、ほとんどの大学が役員数を減らしていること、そして、その一方で数少ないながらも役員数を増やしている大学が存在することだ。

 ランクインした大学(調査対象121校)のほとんどが出身役員を減らしているのは、持ち株会社の設立による系列企業の統合吸収で、上場企業の役員数そのものが減っている、学歴を開示(回答)しない役員が増えているためであろう。データベースとして用いた『役員四季報全上場会社版』(東洋経済新報社)に掲載されている役員は、08年度版の4万6400人に対して、最新の18年度版では4万1028人と、約1割減少している。近年は社外役員の割合も増加しているから、生え抜きの勤め人にとって夢のポストは、たとえ有名大学出身者であっても狭き門になっている。

 しかし、逆風下でも役員を増やしている大学もある。断然トップになったのは筑波大学で、10年前に比べて役員数をほぼ3倍にしている。私立では帝京大学と京都産業大学が同じく2割以上、役員数を増やした。

 役員減少の時代に存在感を高めた顔ぶれを見ると、時代の変化に合わせた組織づくりに傾注しているところが多いようだ。筑波大学は、教員養成を目的にした東京教育大学を、多様な学部学科を設けて旧帝型の大学に昇華させた。京都産業大学は学生運動で荒れた大学のアンチテーゼとして設けられた経緯があり、マルクス経済学全盛の時代にいち早く近代経済学中心の講義を行ったことでも知られる。玉川大学、龍谷大学はいずれも国内では珍しい農学部を擁するように、老舗校ながら、ひと味違う個性を持つ。黴臭いアカデミズムに捉われない現実感覚が、出身者の活躍の背景になっているのかもしれない。
(文=島野清志/評論家)

●10年前に比べて上場企業役員を増やした大学(カッコ内は07年の役員数→17年の役員数)

筑波大学(26人→73人・2.81倍)、帝京大学(28人→34人・1.21倍)、京都産業大学(83人→100人・1.20倍)、玉川大学(37人→42人・1.14倍)、龍谷大学(48人→54人・1.13倍)、愛知工業大学(42人→46人・1.10倍)、名古屋学院大学(26人→28人・1.08倍)、金沢工業大学(ランク外→25人)、東京国際大学(ランク外→22人)
※数値は『役員四季報全上場会社版』(東洋経済新報社刊)の18年版と08年版より