大豆と食塩を原材料として造られる八丁味噌。だが、その製法をめぐってバトルが発生しているのだ!

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愛知県岡崎市発祥の八丁味噌が、愛知県全体の味噌ブランドとして国に認定された。だが、岡崎の老舗2社の製品はそこから除外された。

これに対し14日、老舗2社が国に不服審査を請求。“八丁味噌”をめぐりいったい何が起こっているのか?

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愛知県の岡崎市を発祥とする八丁味噌。中京エリアで親しまれる赤味噌の有名ブランドだが、この八丁味噌をめぐり、岡崎の老舗「カクキュー」と「まるや八丁味噌」の2社が所属する八丁味噌協同組合(以下、老舗2社)と、愛知県味噌溜醤油工業協同組合(以下、愛知県味噌組合)の間でバトルが発生している。原因は昨年12月、農水省が愛知県味噌組合の地域ブランド申請を認めたからである。

「地理的表示(G機吠欷鄒度」といって、伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地の特性が、品質の特性に結びついている場合、産品の名称を知的財産として登録し、保護するもので、有名な産品として「夕張メロン」「下関ふく」「米沢牛」などがある。

さかのぼること2015年6月、愛知県味噌組合より先に、老舗2社が「八丁味噌」をブランドとして申請した。このとき2社は生産地を岡崎市の八帖(はっちょう)町に限定し、製法は木桶で2年以上天然熟成といった厳しい条件で書類を提出。それに対して、制度を管轄する農水省は、生産地を愛知県に広げるなどの条件緩和を提案した。しかし老舗2社は「伝統が守り続けられない」と拒否。それで登録が困難となり、昨年6月に申請を取り下げた。

だがその後、愛知県味噌組合が「ひと夏以上熟成」といったもっと緩い条件で申請をしたものが認められたため、老舗2社は衝撃を受けた。

「農水省のホームページを見て頭を抱えました」(カクキュー・野村氏)

「これは八丁味噌が終わっちゃうなと、創業以来の危機的状況と思いましたね」(まるや八丁味噌・石原氏)

老舗2社は、愛知県味噌組合の申請が通るとは思っていなかったようだ。

「農水省の資料に、登録は産地にかかわる利害関係者の合意形成が前提条件とある。だからこちらは愛知県側の申請には拒絶すべきと意見書を提出しました。なのになぜ」(石原氏)

ではなぜ認めたのか?

「利害関係者の合意が望ましいですが、登録の要件ではありません」(農水省食料産業局知的財産課)

こうして老舗2社を除外したまま、八丁味噌はG祇度に登録、地域ブランドとして認められることになった。では、そもそも愛知県味噌組合はなぜ申請をしたのか?

「『八丁味噌は普通名称』という過去の判例もあり、当初はG掬佻燭任ないと思っていたんですが、八丁さん(老舗2社)が申請したのでウチも出そうと。ウチにも八丁味噌を造っているところが6社あり、昭和の初めからやってる会社もある。もし岡崎が登録されると、こちらが造れなくなる可能性がある」(愛知県味噌組合・富田氏)

対抗するために申請を?

「2社はもともとウチの組合にいたんですよ。その頃も『俺んとこ以外は八丁味噌といってもらっちゃ困る』って話をしていたり」

両組織のバトルはなかなか根が深そうだが……。

「われわれが岡崎の会社を排除したという声もありますが、そんなことはないです」

だが納得がいっていないのは老舗2社だ。

「ひと夏熟成と2年熟成を同じ味噌といっていいのか? 違った製法を八丁味噌と認めれば、江戸時代から続く八丁味噌が消える」(石原氏)

「消費者は木桶に重石を手で積み上げ、2年以上熟成させたものを八丁味噌と思っています。これでは混乱しちゃいますよ」(野村氏)

■八丁味噌が輸出できなくなる?

では、G祇度に登録していない場合、どんなデメリットがあるのか?

「製造を差し止められることはないですが、昨年12月にEPA(経済連携協定)を締結したEUなど、海外ではG汽沺璽がないと八丁味噌として販売できなくなる可能性があります」(業界紙記者)

岡崎市役所に話を聞いた。

「このようにニュースになることで、郷土の歴史と伝統のあるブランドを育ててきた組合の強い思いを皆さんに知っていただく機会になりました。世間では“名古屋めし”とひとくくりにされることも多い八丁味噌ですが、岡崎市は“城から八丁離れた味噌蔵で造られた、岡崎の八丁味噌”、伝統を守り続ける八丁味噌協同組合を応援してまいります」

農水省としてはこのバトルをどう考えているのか。

「こちらもやれることはやった結果なのでしょうがないかなと。でも追加で申請してもらえれば入れますし、そのようにお願いはしています」

愛知県味噌組合はどうか。

「われわれとしては八丁味噌というブランドを使って、もっと味噌を大きく売っていきたい。そこに焦点を当ててやっていくほうがお互いに得じゃないですか?」(富田氏)

ではあらためて老舗2社はどう考えているのか?

「今のところG祇度に加わるつもりはないです。私たちは正しい八丁味噌というものを積極的にPRしていきます」(野村氏)

農産物の地域ブランド名称を保護することは必要だが、肝心の担い手の調整がつかないまま急ぎすぎるとこじれる場合もある。味噌と同じように熟成の見極めが必要かも。

(取材・文・撮影/関根弘康)