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「中絶した後、急に彼と連絡が取れなくなりました。ショックで身も心もボロボロです」ーー。弁護士ドットコムの法律相談コーナーに20代の女性から質問が寄せられました。

彼女には付き合って1か月ほどの交際相手がおり、妊娠が判明。しかし、話し合いの結果、相手の要求を受け入れ、中絶することにしました。手術当日は一緒に病院にいき、説明を受け、2人で中絶同意書にサインしたといいます。

しかし、その帰り道、電車に乗ったあと、彼に連絡しますが、すでに「着信拒否」されていたそうです。彼は当日、お金も用意しておらず、中絶費用は彼女が立て替えていました。

「怒りがおさまらないため、費用全額を請求したいのですが可能でしょうか」。鈴木徳太郎弁護士に聞きました。

●男性にも支払義務はある

ーーそもそも男性に中絶費用を負担する義務はあるのでしょうか?

多くの手術の場合、医療機関側に費用負担の念書などを出すことになろうかと思われます。今回は、女性と男性の双方が中絶に同意する書面に署名していることから、費用負担の念書などについても二人とも署名し、二人とも医療機関に支払義務があるものとして話を進めます。

二人の間における費用負担割合は、原則としては折半と考えられます。もっとも、この割合は二人の間の合意によって変えることもできますし、男性側の責任が重いような事情があれば、男性側が全額負担すべきような場合もあり得るでしょう。例えば、男性側が避妊するといいながら避妊しなかったケースなどが考えられると思います。

ーー男性にも支払義務はあるということですね。それにしても、着信拒否はひどいと思うのですが…

中絶手術後、男性が着信拒否にして女性側からの連絡に応答しない点については、倫理上の問題はあるものの、両者の責任割合を決める事情ではなく、費用負担の増減には影響しないでしょう。

●訴訟は必ずしも金銭的メリットのためだけに行なうわけではない

ーー女性は裁判を起こすつもりのようです。ただ、相手の名刺は持っているものの住所が分からないそうです

訴状等の送達は原則、相手方の住所・居所に対して行なう必要があります。ただ、例外的に、就業場所への送達が認められることがあります。この場合、裁判所に相手方の住所・居所が分からないこと等の説明が必要となります。

ーーとはいえ、中絶手術の相場は10万円ほど。訴訟を起こしたらマイナスになりませんか?

中絶費用10万円のために訴訟を提起するかどうかですが、一般的には負担感の割には得るものは少ない、といった結果となろうかと思います。

もっとも、訴訟提起は必ずしも金銭的メリットのためだけに行なう訳でもありません。男性側への制裁的意味合いをもって行なうというのであれば、それはそれでアリではないかと思います。

簡易裁判所の少額訴訟手続で行なえば、通常の訴訟に比べれば負担は少ないかと思います(手続の詳細は簡易裁判所で聞くと良いでしょう)。10万円の訴訟で弁護士へ依頼される方はほとんどいないでしょう(受任する弁護士もほとんどいないかと思います)。

今回のような場合に訴訟を行うのであれば、簡易裁判所の少額訴訟手続を使うのが賢明ということになろうかと思います。

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
鈴木 徳太郎(すずき・とくたろう)弁護士
多摩地区・府中市の弁護士。個人の案件については、相続問題の他、交通事故や倒産事件を多数取り扱う。近時は労働問題の相談も多い。会社関係の事業承継なども取り扱う。
現在、第一東京弁護士会多摩支部副支部長、府中市情報公開・個人情報保護審議会委員を務める。
事務所名:鈴木徳太郎法律事務所
事務所URL:http://www.fuchu-lawoffice.jp/