「好きなたべものは?」という質問には、ふた通りの答えを用意している。

まずは、お寿司。旬のねたで握る、さより、こはだ、赤いか、赤雲丹、金目の炙り、赤身……。当然ながらお寿司は一貫でカウントせず、全体の流れがおいしさの醍醐味。

では、食材単体だと?むろん、牡蠣。牡蠣よ、牡蠣。わたしは「初対面」というシチュエーションにすこぶる弱いのだが、「好きなたべものは?」へのアンサーが、「牡蠣」とレスポンスされようものなら、きっと身を乗り出して、「昔から知り合いだったよね」くらいに馴れ馴れしくなるかもしれない

それくらい、牡蠣への想いは募る一方。反対に、「牡蠣?マジ嫌い」など言われたら、「このひとは何もわかっちゃいない」という本心をぐっとこらえて、「きっと過去世では別の星の人だったんだな」と、思うようにしている。対人マナーとして、人の苦手なものにフォーカスしてはいけない。ましてや、「いっちょ好きにさせようじゃないの!」などのお節介もいけない。おとなのたしなみとしては、「ひとそれぞれ」と流すにかぎる。

そんなわたしのこころを掴んでやまない牡蠣も、そろそろシーズン終了。今期は三重からはじまって、広島、長崎と3つの地方の牡蠣を味わった。ことに長崎の魚屋さんは、いいのが入ると電話をくれて、さっそく送る手はずをしてくれる。「今年はあんまり大きくならなくて」と電話先で魚屋さんの奥さんが言っていたけれど、旧暦がずれたことが関係するのかな。そういえば、苺農家やトマト農家の友達も、「今年は遅い」と話していたなぁ。

殻付きの牡蠣は、ル・クルーゼに入れて(平たい方が上)蒸し焼きに。湯気があがったらだいたい牡蠣の殻があく頃だから、あいた順から食べていく。熱々は、なにもつけなくてもじゅうぶん。ほんとうに牡蠣の完成度たるや、尊敬に値する。次の日は、せっせと蒸し煮にしてオイルに漬け込む。刻んだ赤玉ねぎと赤ワインヴィネガーでマリネ写真は牡蠣と新玉ねぎのクリームパスタ。ディルを山ほど入れて、仕上げにレモンをしぼった。クリームが少し酸味がかって、ヨーグルトのような風味になる。

うちの家族は7人全員、牡蠣好き。今年70歳の父はこれまでずっと嫌いだったのだが、医師から「亜鉛不足」を言い渡され、亜鉛を摂るなら牡蠣がいちばんらしい、と仕方なく牡蠣を食べた。そうしたらなんと、「う、うまい!」と開眼。それがたった数年前の出来事だから、にんげんわからんものですなぁ。

牡蠣を食べる日は、いさぎよく米は炊かない。(炊いても余ってしまった過去の経験から)ラッコになったつもりでひたすら牡蠣を食べる。

冬の味、牡蠣。この先の待つ時期が、よりいっそう牡蠣をおいしくさせるのだ。

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