世界最大の無印良品店舗が3月20日に大阪・堺でオープンした。店内には食品がずらりと並び、色とりどりの野菜が目立っていた(記者撮影)

高い天井が印象的なフロアに陳列された色とりどりの野菜。作りたてのパンや総菜がたくさん並び、中央に配置されたガラス張りのキッチンでは手作りのヨーグルトやカレーが提供される。

売り場の半分は食品が並ぶ

まるで海外の高級スーパーのような開放感にあふれたこの店舗は、良品計画が初めて「食」をテーマとして3月20日に改装オープンした「無印良品 イオンモール堺北花田」(大阪府堺市)。


鮮魚コーナーでは、産地直送の魚や刺し身、寿司も買うことができる(記者撮影)

カフェコーナーを含む売り場面積は、従来店舗の約10倍に当たる4300平方メートルと、無印良品の店舗としては世界最大となる。フロア内には、鮮魚や精肉、青果といった生鮮食品から菓子やレトルト食品、さらに衣服や雑貨、書籍まで幅広く取りそろえられている。

売り場のほぼ半分は、食に関連した商品が並ぶ。無印良品では、旗艦店である有楽町店の一部フロアで有機野菜や果物を扱ってきたが、鮮魚や精肉まで販売するのは初めてだ。

独自のノウハウが必要とされる生鮮食品の仕入れ・販売については、複数のパートナー会社との協働体制を構築。朝どりの産地直送の魚介類や無農薬野菜、生産者指定品など、やや高額ながら品質にこだわった商品が目立つ。青果と鮮魚は約3割が産地直送の商品という。


野菜売り場の近くでは、レトルトカレーの実演販売も行われていた(記者撮影)

中央のガラス張りのキッチンの横には48席分のフードコートが用意され、手作りのヨーグルトやベビーカステラ、カレー、海鮮丼をその場で食べることもできる。総菜売り場では、注文に応じてコロッケやメンチカツを揚げてくれるほか、無印良品オリジナルのレトルトカレーと肉や野菜を組み合わせて調理したものを試食できる、実演コーナーまである。

こだわりの品ぞろえや空間演出とともに、便利なサービスも打ち出し、一般的なスーパーとの差別化を図る。売り場の随所に設けているのが対面式カウンター。店舗スタッフが客の要望に応じて、購入した野菜をカットしたり、好みの魚を刺身用などにさばいたりするほか、素材の特徴やおいしい調理法も伝授できる工夫を凝らした。

日常使いを狙った食品強化

「対話を重視して、頼りになるまちの八百屋さんや魚屋さん、お肉屋さんとなり、失われつつある(生産・販売者と)お客様とのつながりを再現したい」(同店の谷覚・食品担当部長)


店内のベーカリーでは国産小麦や米粉を使ったこだわりのパンも販売する(記者撮影)

現在、無印良品を展開する良品計画の単体売上高に占める食品の構成比は7〜8%。これまで生活雑貨を主力としてきた同社が、食をメインとする店舗を開業したのはなぜか。

狙いの1つは、客の来店頻度を高めること。無印良品の顧客層は30〜40代の女性が中心だが、同店の松枝展弘コミュニティマネージャーによると、「月に1〜2回ご利用いただくことが多い」。日によって品ぞろえが変わる生鮮食品を取り入れることで、週2〜3回は訪れるような日常使いの場としてもらい、食品以外の商品の売り上げ増にもつなげる構えだ。


総菜売り場には、野菜を多用したおかずや、種類豊富な弁当も並ぶ(記者撮影)

食品の購入を切り口として新規顧客も開拓する。同社は価格の安さを打ち出すチラシや、有名人を起用したテレビCMのような宣伝広告はほとんど展開していない。それだけに、衣服や家具などの明確な購入目的がなく、無印良品のオリジナル商品の愛用者でもない消費者に対しては、来店動機を創出するのが難しかった側面もある。

その点、多くの人が日常的に購入する生鮮食品を扱えば、来店するきっかけを作ることができる。特に産地偽装や農薬の問題も取りざたされる近年、食の安全に対する関心は高まっている。産地直送などを重視した品ぞろえを前面に打ち出せば、子ども連れからシニア層まで、生活雑貨だけでは取り込みきれなかった客層への訴求効果が期待できる。

急速な横展開はしない

良品計画の足元の業績は好調に推移している。直営既存店の月次売上高は12カ月連続で前年を上回り、2018年2月期も過去最高益を更新する見込みだ。好決算を牽引しているのは採算がよい衣服だが、「衣食住」トータルでライフスタイルの提案を目指す同社にとって、日常生活に欠かせない食品を強化するのは自然な流れでもある。


良品計画の金井政明会長は「地元に溶け込んだ店にしていきたい」と強調する(記者撮影)

もっとも、食を拡充した店舗を急速に横展開するわけではない。今回の堺の店舗の売り上げ動向や生鮮品販売ノウハウの蓄積も勘案したうえで、同様の店舗展開の可能性を慎重に見極めていくとみられる。同社の金井政明会長は「1年くらい経ったときに、本当の意味で地元に溶け込んだお店にしていきたい」と意気込む。

素材の持ち味を生かしたシンプルな商品を軸に、独自のブランドを確立してきた無印良品。食の分野でも、他社にないこだわりで新たなファンを獲得できるか。