小型画面の「iPhone SE」が刷新される可能性も(筆者撮影)

アップルは3月27日、米国イリノイ州シカゴにあるLane Tech Collage Prep High Schoolでスペシャルイベントを開催することをメディアに告知した。


アップルが発送した招待状(画像:アップル)

招待状には手書きでアップルロゴと「Let’s take a field trip.」とのタイトルが書かれており、「教員・学生向けの創造的な新しいアイデア」が披露されることを案内している。そのことから、教育イベントであることがわかる。

アップルは2017年、本社があるカリフォルニア州クパティーノにApple Parkを開設し、同年9月のiPhone発表イベントではスティーブ・ジョブズ・シアターでイベントを開催した。しかし今回はシカゴでの開催となっている。

アップルは今回のイベントをなぜシカゴで開催するのか。またどんな発表が期待できるのか。

シカゴで開催する理由とは?

アップルが教育イベントを開催するのは2012年以来となる。6年前のイベントは1月に、ニューヨークにあるグッゲンハイム美術館で開催された。この際は、iBooks 2による電子教科書配信システム、電子教科書編集アプリ「iBooks Author」、ビデオ授業の配信と録画が行える「iTunes U」が発表された。

今回のアップルのイベントも、教育に関連するプラットフォームが主題となる可能性が高いが、「アップル」「教育」「シカゴ」と結び付ける理由は、プログラミング教育だ。

2017年12月、アップルはシカゴの公立学校、市立大学において、iPhoneアプリなどの開発に用いられるプログラミング言語「Swift」を用いたプログラミング教育の導入を発表した。この取り組みは「Everyone Can Code」と呼ばれるカリキュラムの一環だ。

同カリキュラムでは、50万人にもおよぶ学生がSwiftでアプリ開発を学び、アップルが放課後のプログラミングクラブの活動などをサポートする。また、アップルに加えて、GEトランスポーテーション、IBM、マクドナルド、ユナイテッド航空など地元企業による学生へのサポートや、Everyone Can Codeを終了した高校生100人以上を受け入れる取り組みも行われるという。

この取り組みの開始時期が2018年春とされている。そう考えると、今回の発表会ではシカゴでのカリキュラム開始が主題となるだろう。

グーグルから教育市場を取り戻せ!

アップルは伝統的に教育市場で高いブランド力と信頼を集めており、クリエーティブ、音楽とともに、教育はユーザーの大きな柱となっていた。


教育向けに強みを発揮しているグーグルのChromebook(写真:グーグルHPより)

しかしそのポジションは、安泰とはいえない。特に米国ではグーグルに奪われつつある。グーグルはクラウド教育環境として、教育機関向けに無料で「G Suite」を開放し、これと連携できる強力なLMS(学習管理システム)である「Google Classroom」を提供し、存在感を高めている。グーグルは2017年1月、世界の教育市場で7000万人のユーザーを獲得していると発表している。

これらのクラウド教育環境に加えて、100ドルから購入できる簡易型のネットワークコンピュータ「Chromebook」を組み合わせることで、アップルよりも大幅に低コストの教育向けのソリューションをそろえている。

Chromebookは米国のK-12(幼稚園から高校まで)の教育市場において2016年、58%ものシェアを獲得している。この分野におけるアップルやマイクロソフトの停滞とは対照的だ。

教育市場における地位の後退と連動するように、アップルのiPadは2014年以降、販売台数の前年同期割れが続いてきた。2017年3月に発売した廉価版iPad(第5世代)の登場によって減少トレンドにやっと歯止めをかけることができたが、とても好調とは言いがたい。

アップルが打ち出しているプログラミング学習カリキュラムやその他のソリューションは、非常に単純化すれば「iPadがChromebookに打ち勝つための戦略」そのものであり、今回のイベントでは、いかにグーグルから教育市場を取り戻すかがテーマとなる。

注目ポイントは「価格を抑えたデバイス」

アップルがグーグル「G Suite」のように、教育市場向けのメール・カレンダー・オンラインドキュメント編集・ファイル共有などのソリューションを用意したとは考えにくいが、教室の中で活用する教材のプラットフォームや、教員と生徒、あるいは生徒間で円滑に授業を進めるための仕組みを用意している可能性は高い。

これに加えて、価格を抑えたデバイスの存在が重要になる。米国の新学期は9月から始まる。新学期に向けたデバイス選定に影響を与えるようなインパクトのある製品を打ち出さなければならないからだ。


iPadがどれだけインパクトのある価格を打ち出せるかが注目ポイントだ(筆者撮影)

もっとも中心的なデバイスは、やはり廉価版iPadだ。2017年に329ドルで登場させた9.7インチのiPad(第5世代)は、2世代前のiPad AirのボディにA9プロセッサを搭載し、丈夫さと使い始めてからの低メンテナンス性をアピールした。

今回、イベント招待状の手描きイラストと文字を見ると、廉価版のiPadのApple Pencil対応を想起できる。つまり、2017年6月まで販売されていた9.7インチのiPad Proが廉価版となって登場し、Apple PencilやSmart Keyboardなどのアクセサリに対応するという予測を立てることができるのだ。

また3月に入って、MacBook Airの廉価版が登場するのではないか、という報道が頻繁になされるようになった。MacBook Airは現在999ドル〜。アップルのノートブック型コンピュータであるMacBookシリーズの中で最も安い価格だが、前述のChromebookだけでなくWindows PCと比較しても大幅に高い価格水準だ。

Macは、iPhoneアプリを開発するうえで必要なアプリ「Xcode」が唯一動作するパソコンであり、iPadのSwift PlaygroundsでSwiftを学んだ後にiPhoneアプリを開発する際には必須のデバイスだ。

500ドル以下のMac miniも存在するが、学生が持ち運べるノート型のほうが利便性が高く、高止まりしているMacBookシリーズの価格引き下げは、Everyone Can Codeの生態系を拡げるうえで不可欠だ。

今回はiPhoneテコ入れにも絶好の機会

3月はちょうど、9月から半年がたったタイミングだ。iPhoneの製品サイクルからすれば、折り返し地点となる。例年、最新のiPhoneに新色を追加したり、iPhone SEを登場させるなどのテコ入れ策が講じられてきた。


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たとえば2016年3月には廉価版のiPhone SEが登場し、2017年3月にはプロセッサはそのままに保存容量を増加させた。また2017年3月にはiPhone 7/iPhone 7 Plusに赤いモデルを追加するなど、新色の登場も行われてきた。

特にiPhone SEは2016年登場時に採用されたA9プロセッサが引き続き採用されており、プロセッサの刷新による性能向上は必要だと考えられる。ただ、Face IDやワイヤレス充電などの大幅な刷新が期待できるとは考えにくい。

加えてiPhone Xについては、iPhone 8シリーズで用意されてきたゴールドカラーが欠落したままだ。今回のモデル中期に新色を追加するなら、ゴールドカラー登場の可能性が高いのではないか、と考えている。

また、2017年9月のiPhone発表イベントですでにアナウンス済みのワイヤレス充電パッドAirPower、AirPodsのワイヤレス充電対応ケースについても、3月に発売を案内することが予測できる。

アップルが3月27日に開催するイベントについては、シカゴから速報をお届けする予定だ。