一流といわれる人たちの多くがノートをつけている(写真:AP/アフロ)

オリンピックのフィギュアスケートで2連覇を果たした羽生結弦選手。彼がトップアスリートになれた要因はいろいろあると思いますが、私が注目しているのは彼が子どもの頃から書き続けているノートです。

羽生選手の「発明ノート」

彼はそれを「発明ノート」と名づけ、毎日の練習で気がついたこと、考えたこと、コーチに言われたこと、折々の気持ちや決意などを書いています。14歳のときにはジャンプの注意点として、「上体と肩を動かさない 左足を曲げる」と書いています。


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テレビのインタビューでは、「調子が悪くて何が何だかわからなくなったときに、昔の自分の言葉とかを見て頑張っています」と答えています。中でもいちばん読み返すのが、「絶対に 勝ってやる」という言葉だそうです。これは、大きな太い文字でノートの1ページ全面を使って書いてあり、「2012,10,26」という日付もついています。

そして、インタビューの中で、「2012年に負けて、悔しくて悔しくてしょうがなくて書いた。クソって思って、思いきって書き殴ってます」と答えています。彼は、この言葉を読み返すたびに負けたときの悔しさを思い出し、モチベーションのアップに役立てていたのだと思います。

アスリートのノートで私が思い出すのが、中村俊輔選手の『夢をかなえるサッカーノート』という本です。これは2009年に出版されてベストセラーになったので手に取った人も多いと思います。

中村選手は高校2年生のときからノートをつけ始めて、短期、中期、長期の目標はつねに書いています。また、試合前に監督に言われた注意点、ミーティングの内容、フォーメーションのイメージ、試合後の反省と課題、一流選手を見て気づいたこと、トレーニングのメニュー、練習や試合で気づいたことや考えたことなど、内容は多岐にわたっています。

野球では野村克也元監督の野村ノートが有名です。選手だった頃、捕手として受けたその日の投球の内容を詳細に記録したことが始まりのようです。

ご本人いわく、どこでもノートを書くメモ魔だそうです。相手ピッチャーの情報、実際に相手ピッチャーを見て気づいたこと、相手監督の作戦の予想、配球の方法、打撃指導のコツ、リーダーのあり方、組織の作り方、格言や雑学など、こちらも多岐にわたって書いています。野村元監督は頭を使って考えることでID野球を確立したのですが、その考えるという行為はまさにノートに書くこととイコールだったのです。

ノートを使って道を究めるのはアスリートだけではありません。将棋のプロ棋士・藤井聡太さんも、5歳のころから将棋ノートをつけています。通っていた子供将棋教室の塾長に「負けたときこそしっかり反省し、ノートに書くこと」と教えられ、それを忠実に守ってきたのです。自分で考えた詰め将棋もノートに書いてきました。書くことで考えを深めることができ、記憶にも残り、それが次に生きます。そういうことを繰り返しながら、将棋の実力を磨いてきたのです。プロ棋士になっていきなり29連勝し、その後初めて負けたときも対局の後でノートに書き込み、次局への糧にしたそうです。

将棋と言えば、通算1433勝、タイトル戦連続登場50期という記録を持つ大山康晴15世名人の将棋ノートも有名です。山陽新聞によると、倉敷市大山記念館に26冊が寄贈されています。16歳から亡くなるまでの主な棋譜が残されていて、対局後の感想なども書かれています。ライバル升田幸三実力制第4代名人との一戦に勝ったときは、「升田さんは…あっぱく力が有る」という感想を書いています。初めて名人に挑戦して4勝1敗で勝利したときは、「最後に至り緩手連続して敗れたことはあほーらしいやう」という感想や、「急戦はそん、持久戦えらべ」という反省も書かれています。

私の教え子のお父さんで、一流ホテルのシェフをしている人がいます。彼は子どもの頃から料理が好きで、日頃からよく作っていたのですが、その頃から自分の考えたレシピや雑誌に載っていたレシピ、実際に作ってみての感想と反省などをノートに書き写していたそうです。また、私が尊敬する授業の名人・M先生はずっと授業ノートをつけていました。事前に授業の進め方を書き、授業の後は子どもの様子や改善点を書いていました。

まさに理想的なPDCAサイクル

このように、いろいろな分野で一流といわれる人たちの多くがノートをつけています。では、ノートをつけることにはどんな意義があるのでしょうか?

「書くことは考えることだ」と言われるとおり、書くことで自分の頭を使って深く考えることができます。実行する前に考え、また実行した後にも考えます。それによってただ実行しただけにとどまらず、そこから新しい発見をしたり、コツや原理原則に気づいたりすることができます。それらのすべてが次に活きます。まさに、理想的なPDCAサイクルです。

こういったことが本当に大事で、どんな分野でも一流の人というのは自分の頭でよく考える人たちなのです。また、書いていると自分が何も知らないことに気づくので、より詳しく調べたくなります。調べたことを書くことで、さらに情報や知識が増えます。また、書くことで長く記憶に残るようにもなります。目標や決意を書くことでそれが心に刻まれますし、繰り返し見ることでモチベーションの維持も可能になります。まさにいいことずくめです。

ですから、これをお読みのみなさんも、ぜひノートを使って自分の道を深めてはどうでしょうか。思い立ったが吉日であり、始めるに遅すぎるということはありませんから。

それと同時に、このようなノート術を子どもたちにも教えてあげるといいと思います。スポーツや習い事、趣味、好きで熱中していることなどについて、ノートに書いて深める方法を教えてあげてください。ピアノに熱中している子ならピアノのことを書きます。その日練習したこと、練習中に気がついたこと、自分で考えた工夫、先生に言われたこと、これからがんばりたいことや目標、コンクールへの決意、反省点や改善点、ライバルの研究、ピアノの種類、ピアノの歴史、有名なピアニストのこと、などです。

受験勉強をがんばっている子なら勉強のことを書きます。その日の勉強を振り返って良い点と改善点、勉強への取りかかりを早くするための工夫、自分なりの時間管理術、勉強に飽きたときの気分転換の工夫、暗記の仕方の工夫、間違えた問題と答えを書き写す、集中力を高める工夫、ケアレスミスの傾向と対策、先生に言われたこと、直近の目標、将来の夢、試験の反省点と改善点、志望校の研究、などです。

釣りが好きなら釣りのこと、ブロック遊びが好きならブロックのこと、ゲームが好きならゲームのこと、猫が好きなら猫のこと、花が好きなら花のこと……。何でもいいので、とにかく子どもも自分が興味を持っていることを、楽しみながらノートに書くようになるといいと思います。

子どもにノートを薦めるときのコツと注意点

とはいえ、子どもにノートを薦めるときにはちょっとしたコツが必要です。いきなり上から目線で「これからノートをつけなさい」と強制しても、子どものやる気を高めることはできません。たとえば、ダンゴムシが大好きで詳しい子がいるとしたら、まず「ダンゴムシのことをよく知ってるね」と褒めます。そして、「ダンゴムシの絵って描けるかな?」と言って挑戦意欲を掻き立てながらノートを渡します。絵を描いてくれたら、褒めまくります。

次に、「体の部分の名前を教えてよ」と頼んで、それを教えてくれたら「さすが! 詳しい」と褒めて、それを絵のところに書き入れてもらいます。さらに、ダンゴムシの捕まえ方、飼い方、遊び方なども話してもらって、それをまた絵と言葉でかいてもらいます。自分の発見したことや知っている知識も、ノートに書いてもらいます。

書いているうちにわからないことが出てくるはずなので、図鑑を用意しておいて調べて書けるようにしてあげます。このように、好きなことに熱中する延長線上にノートを持ってきて、楽しく書けるようにしてあげてください。少し余談ですが、このようにして出来上がったノートは、立派な自由研究になりますので、夏休み明けなら学校に提出することもできます。

次に注意点です。とにかく大事なのは、楽しみながら書けるようにしてあげることです。それができないならやめましょう。大人が自分でやるのと違い、子どもにやらせるときは強制的な要素がどうしても入ってしまいます。ディスレクシア(読み書き障害)の子もいますし、それほどではないにしても、とにかく”書く”という作業に抵抗を感じる子はけっこういます。そういう子に強制していると、そのものごと自体が嫌いになってしまう可能性もあり、それでは本末転倒です。

最後になりますが、ノートで道を究めた人たちについて、もう一つ気づいたことがあります。それは、彼らの言葉には強さと深みがあるということです。つまり、彼らはみんな言葉の表現力に長けていて、その話や文章は非常に印象的で説得力があるのです。それもやはり、常にノートに向かって自分との対話を続けてきた結果だといえます。

インタビューの中でも印象深い名言がどんどん出てきますし、引退後に解説の仕事をしても余人には思いも及ばないような深みのある内容を巧みな表現で話してくれます。野村元監督の解説の深さには定評がありますし、名著『勝負のこころ』をはじめとする大山康晴の人生論や仕事論は今も数多くの読者を持っています。

最後に、羽生結弦選手の名言を紹介します。

「自分が負ける勝つではなく、高みに立とうとしていることが大事」

「火山で言えばマグマが溜まるコアの部分を作っている。コアがしっかりあるから吹き出せる」