おしゃれに生まれ変わった所沢の新駅ビル「グランエミオ所沢」(筆者撮影)

3月2日の朝、西武池袋線・新宿線の要衝・所沢駅の東口では大勢の人が列をつくっていた。列の最後尾は遙か向こう。これから列に並ぼうという人も「えっ、平日なのにこんなに人が並んでいるの?」と驚きを隠せない様子だ。

列をなす人々のお目当てはこの日開業する駅ビル、「グランエミオ所沢」だ。10時のオープン直後には150mほどの列になり、落ち着くまで小1時間かかっていた。それを見ていた初老の男性は「いままで人があまりいなかった東口が、にぎやかになるね」とうれしそうに話していた。

おしゃれな駅ビルが誕生

「グランエミオ所沢」は所沢駅と直結している。2階にある正面改札を出て東口のエントランスから商業施設内に足を踏み入れると、洗練された雰囲気に驚かされた。「グランエミオ所沢」は2階をエントランスフロアと位置づけ、入口すぐのところに「URBAN RESERCH DOORS」や「B:MING LIFE STORE by BEAMS」といったハイセンスなショップを置いた。フロア全体を見てもおしゃれな服・雑貨・ジュエリーの店が目立つ。2階には所沢駅直結のICカード専用改札も設けられており、駅の利用客も立ち寄りやすそうだ。

3階に上がると、家族連れにも親しみのある「ユニクロ」や「ABCマート」をはじめ、生活に密着した店舗やレストランが揃っている。特に飲食店は「所沢は同じような乗降客数の駅と比較しても飲食店が少ない」(西森敦史・グランエミオ所沢総括支配人)こともあり、力が入っている。ネットでは有名なラーメン店が入っていることが話題となっていた。

生活密着という点では、4階には所沢市のサービスセンターや学習塾が置かれ、1階には食品フロアを設けた。食品フロアは「ザ・ガーデン自由が丘」を中心に、30店舗近くが集積する。食品フロアとしては天井高があり、開放的な空間だ。人であふれていても不思議と窮屈さは感じない。

そして目立つのは1階を貫く大きな歩行者専用通路だ。実はグランエミオ所沢の敷地は以前は駐車場で、間に市道が通っていた。それを今回、所沢市との協力のもと、廃道の上で24時間通れる歩行者専用通路を通したのだ。

華々しくオープンした「グランエミオ所沢」。向かいには西武鉄道グループの本社ビルもある。オープニングセレモニーで、西武ホールディングスの後藤高志社長は、「グランエミオ所沢開業にあたっては西武グループの総力を結集した」と、グループ一丸となって事業に取り組んだことを強調していた。


オープニングセレモニーで挨拶する西武ホールディングスの後藤高志社長(筆者撮影)

そのセレモニーには西武グループ以外の人も出席していた。住友商事の関係者だ。今回、西武グループは住友商事とパートナーシップを結び、2016年から所沢駅周辺一帯の再開発を二人三脚で行っている。当然、西武グループ単独事業という道も考えたが、沿線間競争に勝つためのよりよいものを作るために外部の力を取り入れた。

住友商事と組んだ理由について、西武プロパティーズ開発事業部の川上昇司マネジャーは以下のように説明する。

「数社から申し出があり、土地がほしいという会社や、(もうすでに発展している)西口の開発だけをやりたいという会社もあった。しかし、当社は所沢駅の東西を再開発したいと考えており、その形に一番近い提案をしてくれたのは住友商事さんだった」

テナント誘致はほぼ理想形

今回、建物は西武鉄道と西武プロパティーズが所有し、施設の運営は「テラスモール湘南」をはじめとする商業施設を運営する住商アーバン開発が行う。近隣私鉄各社の駅ビルに比べるとかなり洗練された印象を受けるのは、商業施設の運営に長けた住商が参加しているためだろう。


エントランスは上質感の高い内装になっている(写真:グランエミオ所沢)

西森総括支配人は「今回のターゲットは鉄道を利用する都市型生活者。生活や地域に密着した店舗も多く入れつつ、池袋にアクセスする路線もあるため通勤者向けにちょっと上質なライフスタイルを提案できるようにした」とこだわりを見せる。また、「当社は専門店の誘致に強みがある。今回、かなり理想に近い形で誘致ができた」と自信を覗かせた。

確かに住商アーバン開発が自信を持つのも頷ける。開業した次の月曜日の夕刻にも立ち寄ったが、「新しくできたから、ちょっと覗いてみよう」というよりは普段使いのように買い物を楽しむ人も目立ち、早くも立ち寄りスポットとして定着しそうな雰囲気であった。

今回の「グランエミオ所沢」はまだ第1期のオープンにすぎない。今後はいままで所沢ステーションビルやエミオ所沢があったところに第2期工事を行い、さらに40店舗をオープンさせる。「今回は生活に必要なものをコンパクトに詰め込んだが、第2期では線路上に人工地盤を作り、2フロアに約40店舗とゆったりとした空間構成にする」(西森総括支配人)。2020年の夏にオープン予定と少し先のことだが、期待は膨らむ。

今まではエミオ所沢で売場面積わずか1000屬世辰燭、第1期では売場面積9900屐第2期では売場面積8600屬オープンし、売場面積は1万8500屬泙嚢がる。店舗数・年商もエミオ所沢の約20店舗・約25億円(2016年4月〜2017年3月)から、約120店舗・約140億円(第2期開業後、売上額は目標)になる。


所沢駅西口に伸びる目抜き通り「プロぺ通り」(筆者撮影)

西武鉄道グループは所沢を単なるショッピングゾーンにしたいわけではない。同時に「働きたいまち」への転換も目指している。

背景には、若い世代を中心に職住近接のため都心に住まいを求める動きが加速していることや、駅周辺への人口集積が進んでいることが挙げられる。所沢駅周辺地区では人口が伸びているものの、所沢市全体では2015年の国勢調査で人口減少に転じた。また、所沢駅周辺の商業集積も事業所集積も同じ人口規模のまちに比べると力不足という印象を受ける。

これまで西武沿線は郊外の団地や住宅地をメインに成長を続けてきた。所沢も市内に椿峰、松が丘といったニュータウンや所沢パークタウンのような大規模団地を抱える。これは沿線人口の伸びとそのボリュームを物語る一方で、片方向に需要が集中するというアンバランスな状況を生み出してきた。西武グループの資料によれば所沢周辺エリアから東京都心への通勤率は7割に達するという。

大手メーカーを所沢駅前に誘致

こうした周辺状況を受け、西武グループでは所沢駅周辺エリアのトータルコンセプトを「通過する街から『働きたい、住みたい、訪れたい』街へ、そして選ばれる沿線へ」としている。

2016年には東口にAEDメーカーの日本光電の本社と研究施設を誘致し、「今回のグランエミオ所沢開業でも雇用効果がある。メーカーや商業施設が集積し、働く場が形成されることで働きたいまちにかえていく」(西武HDの後藤社長)という。しかし、まだまだ取り組みとしては十分とは言いがたい。

そもそも来年春には西武グループの一部機能が池袋に移転してしまう。勤務地変更はグループ全体の2割ほどで、西武鉄道をはじめ多くの事業会社は引き続き所沢に残るというが、減少分の埋め合わせとなる働く場所の創出も重要だ。

また、今回の所沢駅周辺再開発のため、所沢ステーションビルにあった「芳林堂書店」や東口の「オリオン書房」が閉店し、駅前から本屋が消えた。グランエミオ所沢にも「第1期は店舗の区割りを小さくしたため、書店として十分なスペースがとれなかった」(西森統括支配人)という事情から書店はない。そのため、駅から約350m離れたイオン所沢店にある書店まで行かなければならなくなった。

西森統括支配人はこの状況に対して「私としても気になっている点である」とコメントしたが、第2期開業時に書店がテナントとして入るかどうかは明言を避けた。しかし、所沢ほどの乗降客がある駅前に書店がないのは大きな懸念材料だ。実際地元メディアや市民はこのことに懸念や不満を持っているようだった。

また、Sトレインや拝島ライナー導入で「ゆとりある通勤」を提案している西武鉄道にとっても、同社の拠点である所沢駅前に書店がないということは沿線内外に悪いイメージをもたれてしまうのではないだろうか。グランエミオ所沢第2期開業時には書店がテナントとして入居するようにすることはもちろんのこと、現状に対しても一時的とはいえどうにかして駅ナカや駅近くの商業施設に書店を入れるといったサポートを望みたい。

独自性を打ち出せるか


数々の西武の車両を生み出した所沢工場も更地となり、再開発を待っている(筆者撮影)

所沢駅周辺の再開発はようやくスタートを切ったところで、徐々に懸念も解消されていくのではないだろうか。2年後の夏には、グランエミオ所沢第2期開業が控える。そして、西武・住友商事のパートナーシップによる開発は駅だけにとどまらない。西口のWALTZ所沢(西武所沢店)裏にある西武所沢車両工場跡地の再開発にも着手する。現在は駐車場としての利用がメインだが、2020年代中頃に広域型のショッピングセンターをオープンさせる計画だ。そのときには乗降客は現在の10万人から13万人に増え、9億円の増収を予想しているという。

西武HDの後藤社長は「所沢の住環境は素晴らしい。住むのに必要な施設が整っているし、遊ぶという観点でも充実している。また自然環境もよく、子供を育てるにもいい場所だ」と所沢の魅力をアピールする。今回のグランエミオ所沢は「新しい所沢」を示す施設として、とてもいい形でスタートを切った。

今後も外の力も入れながら、若い人も引きつけられるようなまちへとゆっくり着実にリニューアルしていくことを望みたい。そうした「独自性」を打ち出していくことこそが選ばれる沿線になる条件ではないだろうか。