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『言論江湖』権力とマスコミによる不作為被害

【PJ 2005年10月18日】− 「不作為」とは法律用語で、行為の一種であり、あえて積極的な行動をしないことである。例えば、警察が捜査すべき事件を捜査しない、マスコミが報じなければならない出来事を報道しないなどがその例である。マスコミとジャーナリストという用語は峻別されなければならない。本来、マスコミはマスコミュニケーションという、大衆への大量的な情報伝達という意味の略語であるが、今日的には無責任であり、興味本位で、不遜なマスメディア企業、もしくはその社員を指すと解されている。つまり、マスコミはジャーナリズムの範ちゅうにない。

 PJの渡辺直子さんが、出版物やネット上で阪神球団関係者を中傷したとされる名誉棄損事件の初公判が17日、神戸地方裁判所であった。渡辺さんが名誉棄損に至った経緯をたどると、警察・検察権力とマスコミの不作為による被害が浮かんでくる。渡辺さんの亡父、省三さんが98年にビルから落ちた事件で、警察は自殺だと即断した。しかし実際は、省三さんに自殺するような理由がなかったこと、遺体がビルから相当離れた場所に落下していたこと、省三さんが所持していたとされる現金が消えていたことなど、他殺説もありうる状況だった。

 渡辺さんは99年7月、神戸地方検察庁に罪名殺人、被疑者不詳で、省三さんの事件は殺人事件だとして告発した。12月には、殺人の嫌疑なしとして、不起訴処分がいったん下されたが、渡辺さんはその処分を不服として、2000年3月に神戸検察審査会に審査申し立てを行った。その結果、01年2月に検察審査会は「不起訴不当」の判断を下した。それを受けて神戸地検は、「検察審査会の不起訴不当の議決を踏まえて再捜査する」とマスコミにコメントした。だが、神戸地検は告発人である渡辺さんに一度も事情聴取しないまま02年3月、再度の不起訴処分を下した。

 なされるべき捜査も、再捜査もされなかったのである。警察・検察捜査の「デュー・プロセス(法やルールに基づく適正な手続き)」と「デュー・プロフェッショナル・ケア(職業的懐疑主義に基づく適正な配慮)」が欠落していた。これが、権力による不作為被害である。

 その間、渡辺さんは多くの記者・ジャーナリストやマスコミから取材を受けていた。中には渡辺さんに対して同情や励ましの声もあったという。だが、取材された内容について、紙面やテレビ番組で扱われることはほとんど無かった。渡辺さんが起訴された今年の8月1日、朝日新聞の神戸地検担当のマスコミから、ライブドアに電話取材があった。そして、渡辺さんの記事を掲載しているPJニュースの責任者として、記者の見解を求められた。

 その取材理由は、ジャーナリズムの良識を疑うものであった。「ライブドア」の文字を記事に入れるとニュース価値が高くなる、PJニュースの見解のほうが、渡辺さんの弁明よりもおもしろいのだという。記者は「名誉棄損でこの事件の本質がうやむやになってはならない。この事件の本質は渡辺さんの亡父の死因究明です」などと答えつつ、朝日新聞のマスコミに「渡辺さんには取材しないのですか」と質問した。

 すると、「取材はしない」との答えが返ってきた。要約すれば、両者の見解を聞くのが筋だが、締め切り時間が迫っており、デスクの判断を仰ぐのも時間を取られるので、朝日新聞からは積極的に取材はしない、ということだった。そのマスコミに渡辺さんの連絡先を伝えたのだが、結局、渡辺さんへの取材は無かった。権力側の発表をうのみにし、裁かれる側への取材の無い、不作為による報道被害の典型例だ。朝日新聞綱領には「真実を公正敏速に報道し、評論は進歩的精神を持してその中正を期す」とあるのだが。

 2001年にあったNHK番組改変問題について4年ほど前、東京大学社会情報研究所(現・情報学環)で研究会があった。記者も末席にいたのだが、その場に朝日新聞のマスコミが来ていたことを覚えている。だが、その当時、番組改変問題について報道されることはなかった。この問題でも、不作為による報道被害が存在したのである。この問題が今年になり、突如として朝日新聞が報道したのは、別の意図があったのではないか。ねつ造記事問題を起こすなど、朝日新聞は取材・報道しないことが社風となってしまったのだろうか。【了】
※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。

パブリック・ジャーナリスト 小田 光康【 東京都 】
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