さすがは昨季までJ1で、それも14シーズン連続で戦い続けたクラブである。ピッチ上で繰り広げられたサッカーは力強く、スピード感にあふれ、それでいてしたたかさも備えていた。

 J2第4節、アルビレックス新潟は横浜FCを3-0で下した。敵地・ニッパツ三ツ沢球技場での対戦ながら、新潟サポーターが数多く詰めかけた試合はスコアだけでなく、スタジアムの雰囲気でも、試合内容でも、新潟が横浜FCを圧倒。さながら新潟のホームゲームと化していた。


アウェーの地に多くのサポーターが駆けつける中、見事な勝利を飾ったアルビレックス新潟

「0-3というスコアほどの悪い試合ではなかった」

 試合後、横浜FCのタヴァレス監督はそう語り、新潟との間には大きな力の差はなかったと強がった。

 もちろん、横浜FCにもいくつかのビッグチャンスがあり、そのひとつでも決まっていれば、試合はどう転がっていたかわからない。だが、90分間の試合全体を俯瞰(ふかん)すれば、スコアは妥当。終始主導権を握り、試合をコントロールしていたのは新潟だった。

 この試合で新潟が主導権を握ることができた最大の要因は、高い位置からの積極的なプレスにある。MF小川佳純が語る。

「前からの守備がうまくハマって、自分たちの形で試合を進められた」

 DFラインからパスをつないで攻撃を組み立てたい横浜FCに対し、新潟は2トップのボールアプローチを合図に、チーム全体が連動し、果敢にプレスをかけ続けた。

 その結果、横浜FCは前へボールを運べずに苦しむ後方と、早くボールがほしい前線とが分断され、「(FWの)イバ選手を中心にJ2でトップレベル」(小川)のはずの攻撃は、機能不全に陥った。プレスの先鋒を担ったFW矢野貴章も、「連動してボールを奪うことが最後までできた」と胸を張る。

 新潟の鈴木政一監督が試合後、開口一番に称えたのもディフェンスだった。

「(横浜FCの)ロングボール、ワンツー突破、ドリブル突破に対し、最後まで集中してゼロで抑えてくれた」

 しかしながら、新潟の勝因は守備、とだけ言ってしまうことには、少なからず違和感を覚える。なぜなら、新潟が3-0というスコアで圧倒できたのは、”守備が守備だけで終わらなかった”からだ。その戦いぶりには、常に守備と攻撃が表裏一体であるサッカーの醍醐味が凝縮されていたと言ってもいい。

 わかりやすいのは、矢野が相手GKからボールを奪って決めた2点目だが、それ以上に新潟の持ち味が表現されていたのは、小川が決めた3点目だっただろう。

 前半で2点のリードを得た新潟は、後半に入ると前線からのプレスを緩めた。しかし、だからといって余裕綽々(しゃくしゃく)で引いて守りを固めたわけでもない。相手選手のプレーが少しでももたつけば、その瞬間に一気呵成のプレッシングに出ることを忘れなかった。

 新潟の3点目につながる一連のプレーが、まさにそれだった。

 横浜FCはその直前のプレーで、新潟のプレスに怯えるようにパスミスを犯していた。横浜FCの中盤は明らかに混乱していた。にもかかわらず、自分たちのスタイルにこだわったのか、新潟のスローインをカットしたボールを、不安げな様子を見せつつも自陣からつなごうとした。

 そのスキを見逃さなかったのは、新潟のキャプテンを務めるMF磯村亮太だった。背番号6のボランチが敵陣深い位置で強奪したボールは、FW河田篤秀を経由し、瞬く間に小川のシュートまでつながった。

 勝負を決定づける3点目のゴールを決めた小川は、「内容的にすごくよかったかと言えば、そうではないが」と付け加えたうえで、こう語る。

「本当に集中して守備ができた。横浜FCを相手に無失点は自信がつく。これから流れに乗っていけるんじゃないかという手ごたえを感じている」

 会心の勝利を手にした新潟は、開幕から4戦無敗。2勝2分けの勝ち点8で4位につける。

 もちろん、全42節におよぶ長いシーズンは、まだ10分の1ほどを終えたばかり。およそ8カ月後の結末を4試合の結果だけで見通すことは難しい。

 この試合を振り返っても、”攻撃的守備”が威力を発揮し、手数をかけずに3点を奪いはしたが、遅攻時の攻撃の組み立てという点では物足りなさがあった。小川も「攻撃でやりたいことはまだできていない」と話す。

 新潟の武器である積極的なディフェンスにも、今後は各クラブの対策が進むだろう。ボールを保持しようとする横浜FC相手にはものの見事にハマったが、プレッシング頼みではいずれ壁にぶつかっても不思議はない。むしろ力が劣る下位クラブに苦しむことになるのかもしれない。

 それでも、15年ぶりにJ1昇格という決して簡単ではないミッションを課されたシーズンを、まずはいい形でスタートできたことは間違いない。J2降格の憂き目に遭い、ともすれば脱力しかねないサポーターの士気を高めるという意味でも、アグレッシブなプレースタイルはプラスに働くだろう。小川が語る。

「こういう守備を続けて攻撃をよくすればチームはもっとよくなる」

 ピッチ上で繰り広げられたプレッシングのごとく、新潟はJ1復帰へ力強い一歩を踏み出した。

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