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「米国の存在自体を変質させかねない」トランプに危機感

 米国の良識を次から次へと破り捨て、「米国第一主義」を錦の御旗にばく進するドナルド・トランプ大統領。

 今のところ経済がうまくいっているため、ビッグ・マネー(経済界)やビッグ・ビジネス(大企業)や与党共和党はトランプ支持を貫いているのだが、いつどうなるか分からない。

 首都ワシントンで会った元政府高官の1人は、今の米国の状況を「Existential Change」と定義づけていた。つまり<米国という国家の存在自体が変質する状態>にあるというのだ。

 こんな下品で、無教養で、人種差別主義者な男が大統領になって1年2か月。

 本来キリスト教に根づいた人道主義や貧者救済といった国是が音を立てて崩れ、自己本位で利己的で内向きの国家に変質してしまう可能性が出てきたというのである。

下院補選敗北で陰りが見え始めたトランプ共和党

 そうした中で2月に起きたフロリダ州の高校での乱射事件を受けて、3月14日には高校生らが呼びかけて全米3000か所で銃規制強化を訴える集会・デモが一斉に行われた。

 事件直後、トランプ大統領は教職員に銃の訓練を行って学校の安全対策を強化するとしたことへの反発が込められていた。トランプ政治への反発は若者から出てきたのだ。

 政治の世界でも変化が出始めている。

 11月の中間選挙を占う前哨戦として注目された東部ペンシルバニア州・連邦下院の補欠選挙では野党・民主党の候補が共和党候補を抑えて勝利したのだ。

 共和党の前議員が不倫相手に人工妊娠中絶を迫ったことが明るみに出て辞職したため、行われた補欠選挙だった。

 この選挙区は、かって鉄鋼業などが栄えた地域で保守色の濃い地域。2016年の大統領選ではトランプ氏が勝つ原動力となった地域だった。

 補欠選挙に勝つべくトランプ氏は選挙前に鉄鋼製品などに高い関税を課す異例の輸入制限措置を発動する大統領令を出したが、それでも共和党は勝てなかった。

 ワシントンの選挙専門家の間では「いよいよトランプ共和党への支持に陰りが見え始めた」とみている。

発売1か月で20万部売れて在庫は空っぽ


 そうした中で全米にはバラク・オバマ第44代大統領に対するノスタルジックな風が吹き始めている。去ってからまだ1年ちょっとしか経っていないのにである。

 その証左の1つが、8年間のオバマ氏の一挙手一投足を撮り続けた専属写真家、ピーター・サウザ氏の写真集「Obama:An Intimate Portrait」の爆発的な売れ行きだ。

 昨年11月に発刊されるや1か月で20万を完売。オンラインで書籍を販売するアマゾンやバーンズ・ノーブルも一時は在庫がゼロになってしまった。

 現在も売れに売れ、ニューヨーク・タイムズなど主要メディアのベストセラーリストの上位を占めている。

 本書はいわゆる「コーヒーテーブル・ブック」と呼ばれる大型の分厚い本だ。コーヒーテーブルとはソファの横に置いて、コーヒーなどを乗せるテーブルのこと。

 それにさりげなく置いてパラパラと読む豪華本のことを「コーヒーテーブル・ブック」と呼ぶのだ。

 著者のサウザ氏は、ボストン生まれの63歳。名門ボストン大学(BU)大学院でジャーナリズム修士号を取得と同時にシカゴ・トリビューンなどで報道フォトグラファーとして働いた。

 その後、1983年から89年までロナルド・レーガン第40代大統領の専属フォトグラファーとしてホワイトハウス入りした。

 そしてオバマ氏が上院議員として政治活動を始めた時から「オバマ番」となり、1989年からホワイトハウス公式フォトグラファーとしてオバマ大統領を撮り続けた。

 その間シャッターを押した回数は200万回。大統領が行くところ常にお供し、決定的瞬間を撮りまくった。

 大統領専用機「エアフォース・ワン」に同乗して全世界を旅した距離は150万マイル。地球58回も回ったことになる。

 撮った写真は2009年から「Flickr」(写真ビデオ専用サイト)を使って公開、ホワイトハウスを去った後はもっぱらインスタグラムなどで折に触れて公開してきた。

 本書にはその中の写真から厳選した300枚が掲載されている。

 サウザ氏はなぜこの本がこれほど売れている理由についてインタビューでこう述べている。

一枚一枚にオバマの品格と優しさがにじみ出る

 「なぜみんな手に取って見てくれるか。そうだね。多分ノスタルジーだと思う。みんな、オバマ政権が懐かしんだと思う。特に今の政治状況を目の前にしてみんなオバマ大統領が懐かしいんだよ」

 本書の中には、2011年、国際的なテロ組織「アルカイダ」の首謀者、オサマ・ビンラディンを拘束する瞬間をホワイトハウス内のセチュエーション・ルームに設置されたテレビ画面で見つめるオバマ大統領やヒラリー・クリントン国務長官たちをとらえた写真もある。

 また、2012年12月14日、側近からコネチカット州の小学校乱射事件で26人の小学生が殺されたことを知らされて嘆き悲しむオバマ大統領の写真など歴史的瞬間がいくつも収められている。

 この本を手にした読者からはこんな感想がサウザ氏は届いている。

 「一枚一枚にオバマ大統領の優しさがにじみ出ている。オバマという私たちの大統領に対する誇りと愛が蘇ってくる」 

 「政敵が探してもスキャンダルが出てこない大統領はバラク・オバマだけだった。私は彼がやったことすべて好きではないが、彼のファンだったらこの本は宝物になるだろう」

 オバマ氏へのノスタルジアは、「裏を返せば、下品で行き当たりばったりのトランプに吐き気を催しているまともな米国市民の偽らざる心情ではないのだろうか」(米主要紙の論説主幹)。

筆者:高濱 賛