化粧品4位のポーラ・オルビスHD。「リンクルショット」の大ヒットで絶好調だが…(記者撮影)

日本初の医薬部外品シワ改善美容液「リンクルショット」が大ヒットし、絶好調のポーラ・オルビスホールディングス(HD)。だがその陰で昨年12月上旬、古参の役員が創業家出身の鈴木郷史社長に反旗を翻していた。

発端は約18年前にさかのぼる。2000年に亡くなった故・鈴木常司元会長には子がおらず、おいの郷史氏が4代目社長に就任した。その際、株の相続をめぐり、郷史社長と常司氏の妻千寿氏が壮絶な訴訟合戦を繰り広げた。

訴訟は2005年に和解が成立。しかし今回、常司氏の秘書を長く務めた役員が、実は郷史社長が契約書を偽造していたと暴露したのだ。

1株1円で生前贈与されたように偽造?

郷史社長は、当時の資産管理会社の株を1株1円で常司氏から生前贈与されたように契約書を偽造したという。


株式上場した2010年当時の鈴木郷史社長。上場後は海外M&Aも積極的に推し進めた(撮影:尾形文繁)

裁判ではその事実は秘されたままだった。結果的に郷史氏は常司氏の保有株の大半を承継。上場を果たした現在でも、郷史社長はHD株の約22%を保有する。役員はそうした資本承継が可能だったのも、偽造があったからと主張する。

役員は昨年12月6日、郷史社長に年内での辞任を迫り、「確約書」へのサインを求めた。

それにしても、なぜ今になって役員は反旗を翻したのか。


背景には常司氏と郷史社長の経営手法の違いがある。常司氏は「会議でもあまり口出しすることがなく、部下に任せるタイプ」(関係者)。一方で郷史社長はトップダウン型。「超合理的で、実力主義の人事を徹底させている」(別の関係者)。

確かにグループ幹部の入れ替えは激しい。2015年には中核子会社のポーラで、訪問販売中心からエステ併設店への転換を主導した鈴木弘樹社長が辞任、後任には当時48歳の横手喜一現社長が抜擢された。低・中価格帯のオルビスでも今年1月、40歳の小林琢磨氏が社長に就任している。件(くだん)の役員も、子会社の社長を辞任させられている。

「化成は北朝鮮か」

内部告発のきっかけは、静岡県の袋井工場をめぐるプロジェクトだったようだ。ポーラ化成工業が運営する袋井工場は、グループに残された唯一の生産拠点だ。

そこに競争原理を入れ、生産効率のさらなる向上を図りたい郷史社長は昨年半ば、改革プロジェクトを立ち上げた。その中には将来的な工場売却の検討という文言が盛り込まれていたという。そうなれば雇用に影響する──。役員や化成の一部社員が反発した。

ただ会社側は「袋井工場の閉鎖が議論されたことは一度もない」(藤井彰HD取締役)。郷史社長からすれば、工場を発奮させる一つのやり方だったようだ。

「化成は北朝鮮か」。自身も技術者で直言型の郷史社長は、対応の鈍い化成の幹部に強い言葉を発することもあったという。こうしたすれ違いの蓄積が、埋めがたい溝につながったようだ。

役員の内部告発は監査役会で調査されたが、偽造はなかったとの結果に。2月21日に取締役会は忠実義務違反があったとして、役員に対し辞任勧告を行った。


当記事は「週刊東洋経済」3月24日号 <3月19日発売>からの転載記事です

役員が突き付けた確約書には、「自身を後任社長に据えることに加え、財団運営に詳しいコンサルタントに対し、郷史社長から2ケタ億円を支払うよう要求する項目がある」(藤井取締役)。その意図について役員は、「常司氏は生前、万が一に備え持ち株の10%をポーラ伝統文化振興財団に寄贈するように言っていた。その意思に従い財団に寄贈させたい」と話しているようだ。

一方、会社側は一連の行為を脅迫・強要と見なし、郷史氏が役員を刑事告発した。告発が受理されれば、約18年前の出来事が捜査対象となる可能性もある。3月27日の株主総会を前に事態は急展開している。