「Thinkstock」より

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 出版市場は、1996年をピークに縮小が始まった。20年以上にわたって「出版不況」と言われ続けているが、それが新たな局面に入ったようだ。出版物の減少によって出版物が運べないという、物流の危機に直面しているのだ。出版ジャーナリストの佐伯雄大氏に話を聞いた。

「出版不況というのは、雑誌が売れなくなったということです。これは言うまでもなく、インターネットに読者を持って行かれたということです。昔は見に行く映画を選ぶのにも、グルメ情報を得るにも、テレビ番組表を見るためにさえ雑誌を買いましたが、そういう情報はネットですべて手に入るようになりました。書籍のほうは販売部数のグラフを見ると、1990年代の半ばでピークを迎えるまでは伸び続けて、その後は減ってきているものの、雑誌ほどひどい落ち込みではありません。

 出版流通は、1997年のピーク時に1兆5600億円もの市場を築いた雑誌によって下支えされているのです。というのも、週刊誌や月刊誌など、毎日何かしらが発売されていて、それに混載するかたちで書籍も配送していたのです。正直、書籍だけの流通というのは、今のシステムの上ではあり得ません。低料金で全国津々浦々、書店やコンビニエンスストアにまで配送できる取次のシステムは、雑誌があったからこそ築けたのです。それは雑誌も書籍も書店で販売する日本特有のもので、規模からいっても世界に冠たる流通システムといえます。

 その雑誌が売れなくなり、どんどん発行部数が減少していき、市場の低迷を受けて出版社の創刊意欲も減退して創刊誌がどんどん少なくなり、廃刊があとを絶たない状況が続いています。その雑誌の売上シェアが全体の3〜4割を占めるという中小書店が、雑誌市場の縮小と比例して廃業しています。しかし、コンビニはご存知の通り、右肩上がりに増えています。書店の減少数とは比べられないくらいの増加数で、セブン-イレブンだけでも約2万店にまでなりました。そのため、出版物の荷物は小口化し、配送件数はどんどん増えていきました。運送会社というのは、大口の荷物を1カ所に送るのが最も利益率が高い商売です。一昔前は過積載が問題とされていましたが、今ではトラックの積載量は半分に満たないこともあるようです。今の安い運賃ではとても人件費や運送費をまかなえないというのが、運送会社の本音です。

 出版輸送の運賃が安すぎて、運送会社も出版輸送だけ見れば赤字のところもあります。そのため、取次との値上げ交渉を飛び越えて、出版輸送そのものから撤退していく運送会社もあるくらいです。そこで、取次会社は出版社から頂いている運賃協力金の値上げを、昨年から出版社に打診し始めました。その額は、大手では億単位(年間)、中堅でも数千万円(同)ともいわれています。

 また、運送業界全体のドライバー不足も深刻な問題です。出版物は深夜帯に運送することが多いのですが、給料が安いなどの理由でドライバーが特に集まりづらい。この人手不足という問題は運送会社だけでなく、書店をはじめ小売業全般でも起きています。最低賃金は右肩上がりに改定されていますが、それでも書店には人が集まりせん。さまざまな課題・問題を抱えている出版界ですが、こうした人手不足が実は最も深刻な課題としてのしかかってくる可能性もあります」

●業界挙げて、さまざまな試み

雑誌や本が消費者の手元に届かなくなるという事態が目前に迫っているわけだが、打開の道はないのだろうか。

「雑誌の発売日というのは、1カ月のなかのある時期に集中しています。給料日とか五十日(ごとおび)とか、お金の動く日は消費が加速されるので、そのあたりに発売日が設定されています。あるいは、同じジャンル、たとえば30代女性向けのファッション誌だったら何日あたりとか、群れをなしている日にちがあるんです。そのため取次会社は、こうしたピーク時の容量をこなせるだけの設備を設置しています。しかし、1カ月に占めるピーク時の割合はわずかにすぎない。要はわずかな日のために過剰な設備を持ち続けなければいけない。

 その上、取次倉庫の仕分けと連動する配送や、雑誌の制作現場である印刷会社にも、そのしわ寄せがきているのです。実はこの業量の偏りは長年、取次や印刷会社が出版社に対して改善要望を出していましたが、ずっとスルーされてきたのです。しかし、こういう状況になってようやく出版社が理解を示し、発売日を移動するなどの業量の平準化に取り組み始めました。

 また、運送会社からの要望などで一昨年から休配日を増やそうという動きが始まっています。2018年度のスケジュールも出ましたが、前年度より1日休配日が増えました。休配日の増加については、輸送現場からは歓迎する声がアンケートで得られています。

 そのほか、大都市圏ではトーハンはトーハン、日販は日販などと別々に配送しているものを、共同で配送する地区を少しずつ増やしていますし、新聞輸送への出版物の相乗り実験も始めました。ネックになっているコンビニに対しては、食料品や弁当などを配送するセンター便を活用するという案も出ています。ただ、そこで問題となるのは、やはりお金です。センター便や新聞輸送に支払うお金は、出版輸送の金額ではとても足りないということがはっきりしているんです。逆に言えば、これまでの出版輸送が安すぎたと言えるのでしょう」

 さまざまな試みも試行錯誤の段階。出版輸送は崖っぷちに立たされているのか。

「輸送問題を解決するには、まずは足りない運送費を誰がまかなうかを決めることです。取次のシステムを享受してきた出版社たちがその責を負うべきだとは思いますが、今は取次と出版社との間で駆け引きが続いているところでしょう。ただ、出版社が身売りしていく時代ですので、取次の要望に満額回答はしかねるでしょう。それに、小学館グループは昭和図書、KADOKAWAにはビルディング・ブックセンターなど大手出版社の物流会社や中小出版社が活用する出版社の倉庫では、仕分け機能を備えていて、宛名を貼って書店に直送することもできます。

 もし、取次会社からの運賃要請に耐えかねたり、地方の運送会社がもっと撤退していくような事態に陥った場合、出版社も選択を迫られるでしょう。一部書店への直送をし始めるかもしれません。いずれにせよ、出版社は取次機能という“流通経費”に対して、もっと真剣に向き合っていくべきだと思います」

●委託配本制度の限界

 アマゾンは新刊書籍等を、取次会社を通さずに直接印刷会社から調達する動きを広げている。現在すでにアマゾンと直接取引する出版社は2300社ほどに上るといわれている。
 
 取次によって支えられる委託制度には、さまざまな批判があった。よく言われてきたのは、書店は商品を自分で選ばず、取次から送られてくる商品を棚に並べているだけであり、他の業種の小売店ではあり得ないという声だ。

「確かに業界では書店は意思ある仕入れをしていくことが大事だと言われています。ただ現状、書籍だけで年間7万点くらい出ているわけです。それ以外に、雑誌やコミックもある。書店の限られた人員で、これを仕入れる、これは仕入れないとすべての商品を判断するのは不可能でしょう。それで、書店の規模や地域特性などに合わせて、取次が配本するというかたちをとってきました。

 しかし、出版市場の低迷と同時に、出版社は売上をなるべく落とさないために委託制度を利用して、出版点数を増やしてきました。たとえば、1カ月に同じ20万部を搬入する場合でも昔は10点で済んでいましたが、今は20点以上つくらないとその部数に達しません。そうやって売り上げ規模を落とさないための出版物が増えていき、限られたスペースである書店では並べきれずに、知名度の低い出版社の本は即返されたり、段ボールを開けずに返してしまうという事態も起こっていました。今は、返品削減が業界テーマでもあり、取次が仕入れ数自体を減らしています。出版社も初版部数がどんどん減ってきてしまい、売れると思い込んで大型書店ばかりに配本をつけるようになりました。中小書店は雑誌だけではなく、そういう面でも厳しい状況にあります」

 出版業界は今、本が運べないという新たな危機に直面しているといえよう。
(文=深笛義也/ライター)