ディカプリオ、ヒラリーも出資するソーシャルアントレプレナー

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世界最大のソーシャル・インキュベーション・ファンドは、米国でなくフランスにあった。広がる格差、破壊される環境。この世界を本気で変えようとする男が、社会起業家と投資家を繋ぐ。

「二宮尊徳は言いました。『道徳なき経済は罪悪であり、経済なき道徳は寝言である』と。ソーシャルビジネスの基本概念と全く同じです」

まさかフランス人から日本の偉人の言葉を教わるとは思わなかったが、納得である。ニコラは続けた。

「社会貢献とビジネスとは対立するものではなく、表裏一体。社会や環境への貢献が付加価値となって事業の収益性を高め、その収益が再び社会や環境に還元される。そのインパクト(=良い影響)がまた付加価値となり、大きくなっていく」。その循環こそが”サステナビリティ”だという。
 
ニコラ・アザール率いるフランスのベンチャー投資ファンドINCOは、スタートアップのソーシャル・ベンチャーに特化したVCだ。投資実績は世界20か国、500社、年におよそ2億ユーロ、7年間で累計10.5億ユーロを投資している。
 
世界では現在、ベンチャー投資マネーの5割が米国、2割が中国に投じられ、欧州は合計でも3〜4%しかない。その欧州の一国に、社会起業家に対する世界最大の投資ファンドがあるとは驚きだった。しかもそのトップは35歳の若者である。
 
社会起業家やソーシャルビジネスという言葉が一般に認知されたのは、バングラデシュに1980年代前半にグラミン銀行を設立したムハマド・ユヌスが、ノーベル平和賞を受賞した2006年だろう。グラミン銀行は、銀行の融資を受けられない貧困にある人々に対し、ごく少額の融資=マイクロクレジットを行った。それにより主婦や失業者が社会復帰し、多数の貧困地帯の社会環境が改善されたのだ。
 
グラミン銀行が関心を集めたのは、その事業が施しではなく、れっきとしたビジネスであったことだった。仕事を手にした人々のほとんどは、収入から金利も含めてきちんと返済を行った。グラミン銀行は十分な運用成績を挙げていたのだ。
 
ユヌスらはその後、農業、漁業、インフラ、教育、医療など多数のソーシャルビジネスを起業し、グラミン・ファミリーと言われる企業グループを形成した。この偉大なる成功は、この社会を少しでも良くしたいという思いを抱いた全世界の若者たちに大いなる希望と、新たなる道筋を与えた。ニコラもその一人だった。

「世界中で格差が広がり、世界中で資源が枯渇している。私はいつも、この世界を変えたいと思っていた。私は最初政治家を志し、元イタリア首相で欧州委員会委員長をしていたロマーノ・プローディ氏の下で1年間働いた。その経験から、政治とは社会変革の最後に必要な役割であり、変革を先導するのはビジネスだと知った」

世界のVIPが投資する
 
11年、INCOを起業。フランスの銀行、保険会社、世界の大企業がファンドに出資する。さらに、レオナルド・ディカプリオ、ヒラリー・クリントン、マーク・ザッカーバーグなど投資パートナーも多い。

「今、社会や環境を変えるために、何かをしなければと思っている人がたくさんいる。この機運は7年前にINCOを作った私でも想像もしなかったほど大きい。ただし、これだけのお金と関心を集めることができるのは、われわれが5%から15%の高いリターンを出しているからです」
 
驚くべき成績である。さらに投資先の1〜2割が成功すれば合格のVC業界で、INCOが投資したベンチャー企業の85%が成長しているという。同社が行う投資の神髄は何か。

「第一の投資条件は、社会や環境の問題を解決することを目的に作った(作る) 会社であること。既存企業が社会的事業を行っても投資対象ではない。私たちは彼らと伴走します。社会を変えるいいアイデアがある人には、研修から、起業、事業拡大、上場までを一貫して支援します。メンターをつけ、オフィスを提供し、パートナーやクライアントになりそうな企業に繋ぐ。そして、事業拡大に必要な資金を私たちが出資するのです。シードステージの投資額は30万〜100万ユーロ。成長ステージでは500万ユーロまで出資します」