3月16日より劇場公開の『リメンバー・ミー』は、メキシコで先祖の魂を迎える祝日「死者の日」が題材だ ©2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved. ©2018 Disney. All Rights Reserved.

本年度アカデミー賞で長編アニメーション賞と主題歌賞の2部門を獲得したディズニー/ピクサー最新作『リメンバー・ミー』(同時上映『アナと雪の女王/家族の思い出』)が3月16日より劇場公開されている。本作は、誰も見たことがない明るくカラフルな“死者の国”を舞台に、時を超えた“家族のつながり”を描いた感動のファンタジー・アドベンチャー作品だ。
音楽を手掛けたのはあの『アナと雪の女王』の「レット・イット・ゴー」を手掛けたロペス夫妻。エモーショナルなタイトル曲は深い感動を呼び起こす。そしてメガホンをとったのは、『トイ・ストーリー3』で、おもちゃたちの別れと絆をドラマチックに描き、世界中を涙で包み込んだリー・アンクリッチ監督。時を超えた家族の愛を、感動的に表現している。今回、本作品のPRのために来日したアンクリッチ監督に、『リメンバー・ミー』が内包する”多様性”について聞いた。​​​

――音楽ミュージカルというのはディズニーの伝統だと思うのですが、ピクサーがここまで「音楽」というテーマにガッツリと取り組んだのは初めてじゃないでしょうか。


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そのとおりです。「楽曲」として音楽は今までも取り扱ってきましたが、ここまで音楽性のある作品はピクサーとしては初めてだと思います。もちろんキャラクターが自分の心情を歌い上げるという、伝統的なミュージカル形式とは違いますが、この映画の中にはパフォーマンスとしてキャラクターが演奏したり歌ったりするシーンが多い。全力でパフォーマンスをするキャラクターに、観客も寄り添うことができますし、感情移入もしやすくなると思います。

ここまで音楽性のある作品はピクサーでは初めて

――ディズニー作品といえば、キャラクターをグッズやテーマパークなどに展開していく強みがあります。この作品でもそういった展開を考えているのでしょうか。

映画というのは決して、おもちゃのプロモーションのために作るものではないので、そういったことは考えないようにしています。

たとえば、おもちゃに関していえば、まずは映画を見ていただいて、キャラクターを好きになってもらい、家でもそのキャラクターを置いておきたいとか、自分の人生にそのキャラクターが一緒に寄り添ってほしいと思ってくれたらいいなとは思います。しかしそれはあくまで、映画を作り、見てもらった後に来るものだと思っています。


かわいいキャラクターにするためにいろいろ苦心したという ©2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved. ©2018 Disney. All Rights Reserved.

ただ、この映画を作る時、ほとんどのキャラクターがガイコツなので、どうやってかわいいぬいぐるみを作るんだろう、マーチャントチームは大変だな、とは思っていました(笑)。

とはいっても、ビジネス的な観点からしても、映画作品の副次的な収入としてマーチャントを想定しているのは確かです。『カーズ』シリーズなどは、映画の収益をマーチャントの収益が上回っていますが、それは例外的な事例です。キャラクターが愛されている続編ものなどであれば、ある程度収益が見込めますが、シリーズものではない新しい映画作品のキャラクターになると、ストアやおもちゃ会社にとってもリスクを抱えることになる。そういう意味で今回は大変だったと思います。でも、こんなにもたくさんの種類のグッズを作ってもらって本当にうれしいです。

世界中の人々が共感できる手応えがあった

――かわいいガイコツのキャラクターを作るのには苦心されたのではないでしょうか。

とにかく魅力的なキャラクターにしたかった。ガイコツだからといって、怖いキャラクターにはしたくなかった。この映画の中では普通の人たちであり、普通の家族であるわけですから。その感触というのは、死んでいるからといって変えたくはなかったんです。だからかわいくするために、相当な時間をかけてデザインを議論しました。

デザインはいろいろな選択肢があったのですが、初期の頃から目玉はつけようと決めていました。それから歯をガッツリとは出さずに、唇っぽいものをつけるようにして、いろいろな表情をつけられるようにしています。特に(主人公の冒険の相棒である)ヘクターには感情移入をしてほしかったですから、そうした工夫をしています。


メキシコの伝統的な祭礼行事「死者の日」は10月31日から11月2日まで行われ、カラフルな切り紙の旗や、マリーゴールドの花などを町中で飾る。家でも先祖の遺影を置いた祭壇が作られる ©2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved. ©2018 Disney. All Rights Reserved.

――スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーに取材をした際に、ピクサーの話をしていました。ピクサーで修業したアジアのクリエーターが、自国に帰ってスタジオを立ち上げているので、アジアのアニメのクオリティが高くなっているんだと。それはつまり、ピクサーの中にはさまざまな国の人々が働いていているということだと思うのですが、それがこのような多様性のある物語が生まれた理由としてあるのでしょうか。

世界各国から人材が来てピクサーで仕事をしているというのは確かです。われわれとしては、ダイバーシティ、多様性を推し進めていきたい。しかしそれが『リメンバー・ミー』という作品につながったわけではないです。この映画を作ったのは、僕がメキシコに興味を持ったこと。そして「死者の日」という祝日に興味を持ち、ポテンシャルを感じたということです。

メキシコという国を祝福する映画を作ると同時に、「世界中の人々にも共感できる作品を作ることができるのでは?」という可能性を感じたんです。ピクサーで作るすべての作品は、監督のビジョン、アイデアが定まったところから始まる。今回の場合は僕のアイデアから始まったというわけです。

――この映画は、メキシコはもちろんのこと中国、アルゼンチンなど世界中で大ヒットを記録しています。いわゆるディズニーの伝統ともいうべき、白人女性のプリンセスストーリーとは一線を画する本作がどうしてここまで世界的に受け入れられたのだと思いますか。

やはり誰にでも家族がいるからじゃないですかね。自分が死んだ後、家族にはどんなふうに覚えていてほしいのか、忘れないでいてほしいのか。みんな思ったことがあるでしょうし、どこに住んでいてもそれは共通して経験することじゃないですかね。

興行的に成績がいいのは、自分の人生や家族に思いを馳せることができるような作品になっていて、エモーショナル(情緒的)な作品だからだと思います。思ったよりも奥行き、深みがある作品だと感じていただいているようです。だからもう一度見たいと思ってもらえているかもしれない。ご存じのとおり、リピーターが出る作品というのは、興行成績にもいい影響を与えますからね。


Lee Unkrich(リー・アンクリッチ)/1967年生まれ。アメリカ・オハイオ州出身。『トイ・ストーリー』(1995年)のフィルム・エディターとしてピクサー・アニメーション・スタジオに参加。『トイ・ストーリー2』(1999年)、『モンスターズ・インク』(2001年)、『ファインディング・ニモ』(2003年)で共同監督を務め、『トイ・ストーリー3』(2010年)では監督・脚本を手掛ける。『モンスターズ・ユニバーシティ』(2013年)や『アーロと少年』(2015年)では製作総指揮を担当 (撮影:梅谷秀司)

――クリエーティブの面で、ピクサーのメンバーからは反対意見は出ることはなかったですか。

逆でしたよ。みんなワクワクしてくれました。もちろん最初はストーリーが見えているわけではないので、ただ舞台がメキシコで、死者の日の祝日が舞台になるというアイデアだけだったのですが、そこに可能性を感じて、みんながワクワクしてくれていたんです。

それがピクサーのすばらしさだと思うんです。ピクサーはリスクを恐れない。たとえ商業的には、安全パイとはいえない企画だとしても、クリエーティブの面で、面白いことを追うことができる環境がある。たとえ他のスタジオでは決してオーケーが出ないような企画であっても、ピクサーならリスクを負ってでも作らせてくれます。

いつか日本の物語も作れるかもしれない

――かわいいプリンセスが主人公ではなく、死者の世界が舞台で、主要な登場人物はほとんどがガイコツ。そして主人公は音楽を禁止されている。ここまで王道から外れた物語なのに、ピクサーならそういった制約をものともせず、ここまで感動的な物語を作ることができるという、ピクサーの自信を感じたのですが。

スクリーンの中に、「自分と同じような人物が描かれているんだ」という感覚が生まれることが重要だと思うんです。これからもピクサーからダイバーシティ、多様性のある作品が作られると思います。やはり異文化の物語を見るのは大切です。だってわれわれはみんなこの地球に住む人間なわけですから。違う言語を話し、違う文化を持っていたとしても、人間としての根っこの部分は共通した人間なんですよ。

――次は日本を舞台にしたピクサー映画を見たいですね。

そうですね(笑)。ただ、もうすでに宮崎駿さんがすばらしい作品をたくさん作っていますからね。そんな中で、日本を舞台にした物語を作るということはなかなか難しいことだと思いますけど、僕も日本は大好きですし、日本からインスパイアされた物語というのはいつか作られるかもしれないですね。