昨年の夏、体験型エージェンシーのモメンタム(Momentum)北米支部でイノベーション担当シニアバイスプレジデントを務めるヘザー・サルキン氏は、同時にふたつの場所にいる必要に迫られた。ニューヨークで開催中だった全米オープンでのアメリカンエクスプレス(American Express)の仮想現実デモ会場と、家族のいるニュージャージー州のビーチだ。普段なら、サルキン氏は休暇を諦めてテニストーナメント会場に向かうところである。しかし、このとき彼女は、モメンタムの移動式ロボットをクライアントのイベントに赴かせ、自身は約260キロ離れた場所でくつろぐことにした。一方、全米オープンの会場にも、サルキン氏が同僚とともに現れた。といっても、登場したのは彼女の顔を映し出すiPadのスクリーンと、それを支える30センチの棒(体)が、車輪つきの土台に固定された代物だ。

エージェンシーの大問題

このようなロボットをモメンタムは3台所有していて、現在のエージェンシーが抱える大問題のひとつである、労働者の健全なワークライフバランスの維持のために使っている。ワークライフバランスは広告業界のように競争が激しく、めまぐるしい世界では、頭の痛い悩みだ。

Image courtesy of Momentum

「もしロボットが現場にいなかったら、サルキンは家族と過ごす充電期間を逃していただろう。彼女はその後の数週間、全米オープンで開催される活気あふれるイベントの技術管理という大役を担っていたので、その前にどうしても休養が必要だった」と、モメンタム・ワールドワイドの最高人材責任者、ジェニファー・フリーマン氏はいう。社内ではシンプルに「ザ・ロボット」と呼ばれているこのマシンを、モメンタムがニューヨークオフィスに導入したのは約2年前のこと。いまではセントルイスとシカゴのオフィスにも導入され、約1300人以上の従業員が自由に利用している。アプリやウェブブラウザで操作できるこのロボットは、オフィス内で使われることがほとんどだが、カンファレンスやマーケティングイベント、さらにはクライアントのオフィスにまで出張させることもある。スケジュールの都合で本人が来られないときのためだ。「従業員が会議やイベントに直接出席できないとき、ロボットが物理的に存在することで、ギャップを埋めることができる」と、フリーマン氏はいう。

モメンタムの取り組み

モメンタムはこれらのロボットをダブルロボティクス(Double Robotics)社から購入した。販売価格は通常、1台3000ドル(約31万円:補償を除く)だが、モメンタムは購入価格を明かしていない。ロボットの導入は、3月8日の世界女性デーを記念して発足したモメンタムの「フレキシブル・ワーク・イニシアチブ」の一環だ。これ以外にも、従業員が上司に時短勤務や在宅勤務を申請しやすい制度づくりや、フィットネスや生産性向上研修のスポンサーになるなどの取り組みを行っている。現在、就労方針をより柔軟に変えていくことについて、エージェンシーにはかつてないほど厳しい目が向けられている。エージェンシーはいまや、クライアントの社内エージェシー部門や、アクセンチュア(Accenture)やデロイト(Deloitte)といったコンサルティング企業と人材獲得競争を繰り広げるはめになった。こうした新たな競合相手は、エージェンシーやプラットフォームから仕事を奪いつつある。彼らが提示する金銭条件や福利厚生は、しばしば抗いがたいものだからだ。

業界関係者らの意識

モメンタムが2017年6月、約500人を対象に実施した調査では、「健全なワークライフバランスを維持できる仕事が見つからないようであれば、広告業界を去る」と回答した者が、実に83%にのぼった。「広告業界はあまりに多くの優れた人材を失ってきた。従業員に不条理な要求をつきつけ、その家族に不当な重圧を与えてきたせいだ」と、モメンタム北米支部のプレジデント、ドナリン・スミス氏は述べた。Ilyse Liffreing(原文 / 訳:ガリレオ)