ピクサー・アニメーション・スタジオの最新作、映画『リメンバー・ミー』が3月16日(金)に公開になりました。『トイ・ストーリー3』の脚本&監督を務めたリー・アンクリッチ監督をはじめとするスタッフは、製作総指揮にジョン・ラセター、『アナと雪の女王』の爛譽螢粥繊匹納匆餮従櫃魑こしたクリステン・アンダーソン=ロペス&ロバート・ロペスが「リメンバー・ミー」の作詞・作曲を手掛けるという最強の布陣。果たして、その中身とは?

『リメンバー・ミー』同時上映『アナと雪の女王/家族の思い出』(c)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved. (c)2018 Disney. All Rights Reserved.

『リメンバー・ミー』同時上映『アナと雪の女王/家族の思い出』(配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン)
●監督:リー・アンクリッチ ●共同監督:エイドリアン・モリーナ ●製作:ダーラ・K・アンダーソン ●製作総指揮:ジョン・ラセター  ●音楽:マイケル・ジアッキーノ ●歌曲:ロバート&クリステン・アンダーソン=ロペス ●日本版エンドソング:「リメンバー・ミー」(シシド・カフカfeat.東京スカパラダイスオーケストラ)●3月16日(金)全国ロードショー
(c)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.(c)2018 Disney. All Rights Reserved.

【あらすじ】
ミゲル少年はメキシコの大スター、エルネスト・デラクルスに憧れ、ミュージシャンを夢見ていた。ところが彼の家では、音楽を奏でることも聴くことも禁止。ある日、祭壇に飾られた先祖たちの家族写真から、自分のひいひいおじいちゃんはデラクルスに違いない!と興奮したミゲルは彼の墓に忍び込む。お墓にまつられたギターを奏でたとたん、先祖たちの暮らす〈死者の国〉へ迷い込むのだが……。

みんな大好き!ピクサー・アニメーション

それほど映画に詳しくない人でも、ピクサー・アニメーション・スタジオのことは知っているのではないでしょうか?『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』『カーズ』--好きにならずにいられないかわいらしいキャラクターと、観る者の心をがっしり捉えて離さないツボを的確についた脚本。キュートな笑いが適度に散りばめられ、心躍るハラハラどきどきで観客をぐっと物語に惹きつけ、王道のテーマを忍ばせて、最後にはじん……と涙させる。大人も子供もこぞって観たくなる、出来れば何度でも!それが爛團サー印”のアニメーション映画なのです。
その最新作が『リメンバー・ミー』。こんどの物語の舞台はメキシコ、そして目もくらむほどにカラフルな〈死者の国〉です。これがまた、まさに!ピクサー印の安定した楽しさを味わえる作品になっています。

主人公は音楽が大好きで、ギターに関して天才的な才能を持ち、ミュージシャンを夢見ている少年ミゲル。でもその夢を、家族には隠すしかありませんでした。なぜならひいおばあちゃんであるココの父親が音楽に狂い、家族を捨てた過去があったからです。メキシコは何世代もが一緒に暮らし、家族を大切にするお国柄。どうしたら僕の夢を、大好きな家族に認めてもらえるだろう?ミゲルは夜中にこっそり、秘密の屋根裏部屋でギターをつまびきます。
「誰もわかってくれない。ただ、音楽をやりたいだけなのに」――こんどの主人公は、家族に応援してもらえないけど、どうしても譲れない夢を内に秘めた少年。誰もが感情移入しやすいキャラクターです。ミゲルの側にはビー玉みたいなまん丸い目でまっすぐにミゲルを見つめ、長〜い舌をいつでもぺろんと垂らす、彼のことが大好きな犬のダンテがいます。少年の冒険には小さな相棒がつきものですよね。2人が経験する冒険とは、どんなものでしょう?

古いビデオテープで憧れの歌手の映画を観ながら、ギターの練習をするミゲル。

目もくらむカラフルな〈死者の国〉

ミゲルがミュージシャンになる夢を抱いたのには、いまは亡き伝説のスター、エルネスト・デラクルスの存在がありました。「世界中がルールに従っても、私だけは自分の心に従わなければ」「音楽の力を甘く見てはいけない。誰にも私の未来は決められない!」――モノクロ映画の颯爽とした主人公としてキメ台詞を口にするデラクルス。彼がギターを弾く姿を見て、すぐさまフレーズを真似るミゲル。彼のようなミュージシャンになりたい――それがミゲルの夢でした。

そうして彼が暮らす町にも、死んだ人間の魂を迎えるお祭り〈死者の日〉がやってきます。ちょうど日本のお盆のようですが、メキシコのそれはもうぜ〜んぜん違います。とにかく派手。あちこちにそのものズバリ!の骸骨が飾られ、黄色やら青やら赤やらで彩色されてロウソクが立てられ、人びとも目の回りを黒く塗って『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のジャックみたいに、骸骨を模したメイクをしたりして。それはもう、文字通りのお祭り騒ぎです。町全体が力強い色彩の洪水で、そのウキウキとした空気が音楽によってさらに加速しています。生者が死者を招いてもてなすお祭り、というのはお盆と通じるのに、比較にならないほどの明るさ!それを映画ではよりカラフルに、よりゴージャスに描きます。音楽と色彩で自由な画を描く、まさにアニメーションならではの表現を堪能できのです。それは、このあとに登場する〈死者の国〉でさらに。

〈死者の日〉、ミゲルの身に驚くべきことが起きます。デラクルスの霊廟に忍び込み、そこに飾られたギターを奏でた瞬間、〈死者の国〉へと迷い込んでしまうのです。この〈死者の国〉の世界観が、ほんと〜に美しい。カラフルなマッチ箱のような無数の家が塔をなし、幾重もの層となって青紫の空に向かって伸びています。その塔ががまた無数に林立していて、その奥行が無限を思わせる……そんな風景。打ち上げ花火が夜空を彩ったり、羽根が生えたトラのような精霊が飛び交ったりしていて、その世界観にしばし見とれてしまいます。

死に関する感覚が日本人に近い?

このときふと、山崎貴監督による2017年の実写映画『DESTINY  鎌倉ものがたり』を思い出しました。人と妖怪や幽霊がナチュラルに共存する鎌倉を舞台にしたファンタジーで、この町に暮らすミステリー作家が、愛する妻の魂を取り戻そうと黄泉の国へ行きます。そのときに登場した死後の世界は、そのカラフルさや陽気さの点でこの〈死者の国〉とはかなり違いますが、「無数のマッチ箱の家が幾重もの層をなして天へ伸びる」という点がとても似ています。お盆と〈死者の日〉の共通点もそうですが、日本からこれほど遠い南米の国メキシコの人びとと死に関する感覚、死者に対する想いが似ているのは興味深いですよね。
また『DESTINY  鎌倉ものがたり』で黄泉の国へは江ノ電に乗って(!)行きますが、この映画では〈死者の日〉にだけ、この世とあの世をつなぐ橋が現れるのです。マリーゴールドの花びらが無数に降り積もった、オレンジ色というより黄金に輝く橋。この世とあの世は地続きで、あの世へ行っても、この世での人格が引き継がれている……見た目は骸骨だけど!みたいな感覚も、ちょっとうれしくなります。
それは宮藤官九郎脚本・監督作の映画『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(2016年)を観たときに感じた、死ぬことも悪いことではないのかも、という気分に近い気がしました。修学旅行中のバス事故であっけなく死んだ高校生の大助が地獄へ堕ちます。大好きなあの子とのチュウもせずに死ねるか!(もう死んでるけど)と、輪廻転生をかけて閻魔大王へのアピールを開始するというお話です。地獄でバンドマンの赤鬼キラーKと出会い、地獄農業高校に入学し、閻魔大王へアピールするために文字通りの狠蝋の特訓”が始まります。大助は「ひ〜、死ぬ〜」とか言いながら(もう死んでるけど)七転八倒する姿はフツーの青春映画のようで(というか童貞喪失モノ?)、死んだあと、それが地獄であっても、こういう世界があったとしたら、なんだか死ぬことに怖くないのかも。そんなふうに思えたのです。

生きたまま〈死者の国〉へ迷い込んでしまうミゲル。

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〈死者の国〉で人びとは骸骨の姿をしていますが、生者と同じように、活気がある生活を送っています。そこにはルールがあって、迷い込んでしまった生きている間は日の出までに元の世界へ戻らないと、永遠に家族と会えなくなってしまうのです。唯一の方法は、先祖から犁し”を得ること。ミゲルはココの母親であるイメルダと出会って犁し”を求めるのですが、その条件はミゲルの家で永遠に音楽を禁止することでした。ミゲルの家で牴山擽愡漾匹隣櫃鬚弔ったのはまさにそのイメルダ本人だったのです。命か、夢か。どうする、ミゲル!?

さらにミゲルは、陽気で孤独な骸骨のヘクターと出会います。彼自身もまた家族に会いたいという願いを持っていました。さらに死者は、生者の誰からも思い出してもらえなくなったとき、その存在が永遠に消えるという〈二度目の死〉を迎えるのです。

二度目の死――なんて悲しい概念でしょう。生者が死んでも〈死者の国〉があって、そこでは生きているときと同じような喜びや楽しさのある日々が用意されている。でもそれは、生者の誰かが自分を覚えていてくれる限り続くこと。忘れられたら、すべてが、永遠に終わる……。ミゲルとヘクターの冒険は、本来2人は生者と死者であってどこか凸凹な組み合わせなのですが、だからこそのギャグが用意されていて愉快なものです。なのに妙な切迫感をもたらすのはそのせいなのですね。

ミゲルが死者の国で出会う骸骨たちはそれぞれに生前の面影を微妙に残しつつ、ちゃんと個性があるのにもビックリです。とうぜん顔に筋肉なんてないのに、表情まであるし!アニメーションだからこそのマジックがそこここに生きています。

骸骨メイクをして死者に交じるミゲル。左はヘクター。

『アナと雪の女王』の「Let It Go」に続き、アカデミー賞歌曲賞を受賞したロバート・ロペス&クリステン・アンダーソン=ロペス夫妻による主題歌「リメンバー・ミー」はさまざまにカタチを変え、劇中に何度も登場します。やはり音楽の力は大きい。感覚へ直接響いてくるようです。そうして見終えたあとはきっと、またもピクサーのアニメーションにまんまとやられた!とニッコリしながら思うことでしょう。

文・浅見祥子