アイリスオーヤマ、「あの日」からの復興 震災からの再起は起業に匹敵

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起業に匹敵
 2011年3月11日―。展示会に参加していた私は千葉市幕張で「あの日」に遭遇した。一刻も早く本社のある仙台に戻らなくては―。焦る気持ちの中、目に飛び込んできたのは、仙台空港が津波に飲み込まれる映像だった。陸路をどうにか北上し、ようやく宮城県にたどりついたのは13日朝のことだった。

 東日本大震災から7年。仙台市周辺に限れば、震災前の姿を取り戻しているかに見える。しかし、地域の活力の源である「心の復興」はなお途上である。

 とりわけ心を砕いてきたのは、地域のこれからを担う人材の確保と育成だ。何代も続いてきた家業がとだえては、地域の活力は失われてしまう。しかし、震災ですべてを失った状態から再起を図ることは、起業に匹敵、あるいはそれ以上のエネルギーを要する。逆境にあっても意欲を捨てずに再起を図ってほしい―。5年前に起業家を育てる「人材育成道場」を立ち上げた裏にはこんな思いがある。

 これまで気仙沼、釜石、大船渡などで153人の卒業生を輩出。地域経済の中心として活躍する兆しがみられる。地域や業種を越えた卒業生同士のネットワークも生まれつつあることも心強い。17年12月には気仙沼で漁業から水産加工まで一貫して担う会社が設立された。地域経済の発展の素地ができつつあると手応えを感じている。

農家を応援
 アイリスオーヤマの創業の地は東大阪市。本社を仙台に移転したのは89年のことだ。それは事業の変遷に大きな関わりがある。

 父の急逝に伴い、プラスチック工場を継いだ私は、下請け企業からの脱却を目指し、独自商品の開発に取り組んできた。第1号となったのは真珠養殖に使用する漁業ブイ。田植えに使用する育苗箱もヒットした。ユーザーに近い宮城県に工場を建設したことが東北との関わりの始まりだ。

 震災によって苦境に立たされる東北の農家を応援したいとの思いから13年には精米事業に参入した。鮮度とおいしさを保つ独自の低温製法は、小分けという食の提案と合わせて現代のライフスタイルに合致し米の消費拡大につながっている。

価値観の変化
 生活者の潜在的な不満を解消し暮らしを快適にする商品開発で成長を遂げてきた当社だが、東日本大震災がなければ食品事業に参入することはなかった。同時に、震災が日本人に与えた価値観の変化は当社の既存事業にも変化を及ぼしている。