ニューヨークで活躍するトップ営業マンたちのマインドとは?(写真:sabthai / PIXTA)

僕はニューヨークの中心地、マンハッタンで生まれ育った。両親は日本人。つまり僕は日系アメリカ人だ。10年以上、バンカー(銀行員)としてニューヨークで働きながら、仕事でアメリカ各地を回ったが、ニューヨークは経済規模においても多様性においても、間違いなく“別格”だと感じる。
さらに言うと、ニューヨークで活躍するビジネスパーソンと同じレベルの人たちを他の都市で見かけることはほとんどない。アメリカのなかでも、ニューヨークは抜きんでた存在なのだ。
これまで僕は、ニューヨークで様々な「超一流」のビジネスパーソンに出会ってきた。彼らが共通してもっている基本的なスキルの一つに“営業力”がある。
(「Prologue NYの『超一流』が必ずもっている究極のビジネススキル」より)

『NY式「超一流の営業」の基本』(酒井レオ著、朝日新聞出版)の冒頭には、このような記述がある。

営業力といわれたとき、思い浮かべるのは「製品やサービスを売る力」かもしれない。しかし、著者はものを売ることに長けているニューヨークのビジネスパーソンの営業力は“人間力”だと定義づける。

それは相手が顧客であれ、上司であれ、部下であれ、身のまわりのすべての人の信頼を得る力だ。しかも彼らは人種や国籍を問わず、あらゆる人に自分を受け入れてもらう能力を持っているというのである。

人に好かれ、尊敬され、「この人のそばにいたい」と思われていること。それこそが、多種多様な人々がいるニューヨークにおいてトップの座に君臨し続けられる理由だということだ。

本物の営業スキルを磨くことに心血を注ぐ

ところで著者は、コマース銀行(現トロント・ドミニオン銀行)時代に営業をはじめ、その4年後にアメリカ3大銀行のひとつであるバンク・オブ・アメリカ(以下、BOA)にヘッドハンティングされたという経歴を持っている。

以後は日本企業のみならず、ニューヨークのトップ企業に名を連ねるユダヤ系企業に営業をかけ、顧客層を拡大していったと聞けば、その実績はいかにも華々しい。しかし実際のところ、それは決して簡単なことではなかったようだ。

いうまでもなく、アジア人であることが“ハンディキャップ”になったからである。特に営業をするにあたっては、不利になることのほうが圧倒的に多いと明かす。

おそらく、同じような理由からあきらめの境地に陥ってしまった人の数は少なくないだろう。だが著者について注目すべきは、だからこそ本物の営業スキルを磨くことに心血を注いだという点である。

そのようなプロセスを経てきたからこそ、「僕が数々のチャンスをつかむことができたのは、ハンディのある状況を何とか乗り越えようとする姿勢、そして多くの人との貴重な出会いのおかげだったと感じる」とはっきり言い切ることができるのだ。

なお転職してから3年後の2007年、29歳のときにはBOA歴代最年少で全米第1位という営業成績を残してみせたという。本書の内容に説得力があるのは、そうした裏づけがあるからなのだろう。

本書はPart 1とPart 2に分かれており、Part 1では著者の経験を交えつつ、トップ営業マンたちのMindset(心情・姿勢・思考)を、Part 2ではTechniques(ルール・コツ)を紹介している。

今回はPart 1の「Mindset」から、2つのトピックスを抜き出してみたい。

素の自分を出さない人間は信用されない

世界に通用する営業スキルを身につけるためには、英語力が不可欠だと考える人は少なくないだろう。確かに英語を話せれば、それは大きな強みになるに違いない。

しかし、だからといって必ずしも英語力が必須だということでもなさそうだ。事実、英語を流暢に話せないにもかかわらず、「この人と一緒に仕事がしたい」「この人なら信用できる」と思われている人がニューヨークにはたくさんいるというのだ。

大手企業の役員クラスにも、なまりの強い英語で話す人は多いのだそうだ。それどころか、ほとんど英語が話せないのに雑貨などを売って生計を立てている人もいるのだとか。つまり、英語がペラペラでなくとも、信用や好感を得ることができているということである。

では、どうすれば人から信用されるのだろうか?

この問いについて著者は、「カッコつけた自分ではなく、素の自分を出していかないことには、相手が受け入れてくれるはずもない」と答えている。

特にさまざまなバックグラウンドを持つ人が集まる場においては、「いかに自分を見せるか」が重要になってくるということだ。

学生時代はまじめな日本人ぶりを発揮し、自他ともに認めるoverachiever(頑張りすぎな人)だったという著者も、デイヴィッドという友人との人間関係を通じてそのことに気づいた。

自分は成績も悪くないし、スポーツも得意。自分に自信があるほうだ。それなのに、どうも人のなかへ入っていけないし、人から声をかけられることも少ない。なぜだ?
あるとき僕は、デイヴィッドにその悩みを打ち明けた。彼は僕の話を真剣に聴いたあと、こう言った。
「お前と俺、何が違うと思う?」
僕は何と返したらいいかわからなかった。一番の違いはアジア人ということだが、彼が質問しているのはそういうことではないだろう。
「たとえば、お前が歩いているその先に、透明なガラスの壁があったとするよな。お前はその壁に気づかずに顔面から激突してしまった。そのとき、どんな反応をする?」
僕はその場面を想像してみた。きっとあまりにも恥ずかしくて、誰かに見られてないかを確認しながら、すぐにその場を立ち去るだろう。それを彼に告げると、
「そうだろ? お前はいつもまわりのことを気にするよな。なんかカッコつけてるよね」
と、デイヴィッドはこのうえなく率直に僕の弱点を指摘した。
「俺だったらどうすると思う? きっと、普通にその失敗を使って笑いをとるよ。まわりの人とのコミュニケーションのきっかけにする。これって、お前と俺で決定的に違うところだぞ」
僕はそもそも自分から、周囲との間に壁をつくっていたことに気づいた。
(16ページより)

こうした体験から著者が学んだ「壁をつくらない」「相手に自分をさらけ出す」という姿勢は、友人関係のみならず、ビジネスでも心掛けるべきこと。英語を習得する以前に身につけておくべき、マインドのひとつだというわけだ。

その姿勢さえあれば、たとえ英語がペラペラではなくとも、自分の意思や信念が相手に伝わり、人間として興味を示してもらえることになるという。これは相手と信頼関係を築くうえでなによりも重要なことであり、自分の人間力を磨くための第一歩だという考え方である。

自分を選んでもらうために「付加価値」をつける

コマース銀行で営業の仕事をするようになり、それに慣れていくうち、著者は「どうすればお客さんの信頼を得られるか」について深く考えるようになったのだそうだ。最初は営業なんて全然やりたくなかったというのだが、そんななかにあっても最善の策を模索していたということなのだろう。

そして試行錯誤を重ね、「もっと相手に誠意を見せたい」「もっと相手に喜んでもらいたい」と思っているうちに行き着いたのは、お客さんの個人的な悩みを聞くこと。また、相談されたら、できるかぎりの助けをするようにもなったのだという。

たとえば結婚指輪を買いたいという人がいたら、極力安価で買えるように知り合いの店を紹介する。「こういう専門知識を持っている人を探している」と言われたら、自分のネットワークを使って一緒に探す。

つまりは「便利屋」のような存在になったわけである。そしてそんなことをしているうちに、お客さんから頼りにされるようになっていく。

それが口座の開設や金融商品の購入につながることもあれば、ならないときも当然ある。それでも、相手が喜んでくれるのならそれでいいと考えていたというのだ。

とはいえ営業として便利屋になるというのは、使いっ走りになることではないということも強調している。つまり相手のためになんでもするのではなく、「付加価値」として自分が提供できるものを相手に見せ、それを「自分を選ぶ理由」にしてもらうという発想である。

自分が営業する商品やサービスの内容が競合とさほど違わない場合、お客さんの選ぶ基準は「どんな付加価値があるか?」ということになる。しかも付加価値をつけるのは難しいことではなく、「相手が求めるもの」を提供できるようになればいいだけ。

つまり人が求めることは、いたってシンプルなのだ。そして、それは「MRI」として覚えておくことができると明かしている。

・ M(Money)―― おカネ
おカネに関連する知識を相手に提供するのが一番効果的だが、それは難易度が高いので、(中略)人脈や情報とお金の話題を結びつけて話すと興味をもってもらいやすい。
・ R(Relationships)―― 人脈
独自の人脈をつくり、「自分はこういう人達とつながっているからあなたの力になれますよ」とアピールすれば、あなたを頼りにしてくれる人が増えるだろう。
・ I(Information)―― 情報
最も実現しやすいのが、相手が興味をもつ情報を提供すること。自分がいる業界のことだけにとどまらず、様々な種類の情報をもっていれば、「あの人なら何か面白いことを知っているかもしれない」と思ってもらえる。
(以上30〜31ページより)

自分が相手に価値あるものを提供できるようになればなるほど、相手はこちらに価値を見いだすようになるということ。こちらが相手を追いかけるのではなく、相手のほうからこちらに来てくれるようになるというわけだ。

次世代を生き抜くために不可欠な能力

著者は2009年にBOAを辞め、現在はニューヨークと東京で教育事業に携わっている。そして日本のビジネスパーソンと接する機会が増えるなか、日本の“営業力”が着実に衰退していることを懸念しているのだそうだ。

原因のひとつは、企業が人材教育に投資しなくなってきていること。かつて大手日本企業は、これはという人材を積極的に海外市場に送り出していたが、ここ10年は経費削減の名のもと、グローバルな営業術を獲得するチャンスを失っていると指摘するのだ。


しかし、これからはグローバルな営業スキルがより重視される時代。人口減少を受け、日本企業も海外マーケットへ打って出る必要があり、同時に、テクノロジーの発達により製品やサービスを差別化することはどんどん難しくなっていく。そんな状況下において差をつけるとしたら、「どう営業するか」しかないという考え方だ。

そして企業が人材教育を重視しないのであれば、個人レベルで営業スキルを高める必要が生じる。著者はそれを、「次世代を生き抜くために不可欠な能力」だと定義づける。

だからこそ日本のビジネスパーソンには、グローバルスタンダードとされる営業スキルを知ってほしいのだそうだ。本書の根底には、そのような想いが存在しているのである。